始まり

8月、月初の全社会議。

「市場が不安定な状況だから、こんな時にこそマネジメントとメンバーが膝突き合わせて喧々諤々とディスカッションしなければならない。みんな気になることがあれば、どんどん上に言ってくれ」

こう社長が話した。

「とは言うものの、誰も上に意見なんか言う訳ないよね・・。マネジメントクラスは”言われた通りやれ!”だし、言われる側も思考停止してるし。社長はこの状況知ってるんだろうか。知らないだろうな。・・・よし、メールしてみよう」

こう思った私は社長宛に「現場からの意見です」というタイトルでその日の夕方に一通のメールを送った。

これが、全ての始まりだった。

私はこの会社に中途採用で入社しもうすぐ5年目になる。

営業として最初の1年は相当苦労した。数字が上がらない私は周りが心配するほど毎日ボスに劇詰めされる日々。「辞めたい・・やるしかない」と蕁麻疹と闘いながら必死に毎日試行錯誤しながら数字を追いかけた結果、スルスルと数字が上がりだし、3年目にチームリーダー、4年目にはトップセールスやチームリーダーとしても数々の受賞をするまでに成長した。そしてこの7月から念願叶って職種を変えて別の部署へ異動した。

私が営業として結果を残せるようになったのは徹底したKPI管理の中KPIから逃げなかったこと、その行動を支える「何のためにこの仕事で結果を残したいのか」という軸を持っていたからだ。

ボスに劇詰めされ蕁麻疹まで作って心が折れなかった訳がない。そんな日々を支えてくれたのが「何故私はこの仕事をしているのか」という情熱だった。情熱とKPIを追いかける行動があったから、数字が上がるようになったのだ。

けれど、チームリーダーになって4人のメンバーを見るようになり、彼らが情熱(ビジョン)を持っていないことに気付いた。上から言われるがまま「何となく」受け身に数字を追いかける日々。これはいけない。彼らは私より遥かに若く、そして優秀。背伸びすればするほどいくらでも伸びていけるのに。

私は自分のことをフルオープンで話した。これから自分の人生をどうしたいと思っているのか、その上で今この環境で何をしようと思っているのか、そのためにどんな努力を日々しているのか、毎日何を考えているのか・・

そんな日々を過ごす内に、彼らの目に光が宿り始めた。スーパーポジティブな私に影響され、自ら一歩踏み出すメンバーや踏み出そうとするメンバーが現れた。そして私たちは数字に苦しむチームが多い中、大幅に上半期の目標達成し、高級お寿司やさんで祝杯をあげたのだった。

「魚を釣るのに、釣り方ばかり教えてもダメ。そもそも”魚を釣りたい”という気持ちにさせないと」

私のメンターの言葉だ。今の社内を見渡すと、釣り方ばかりKPIという形で教えてばかりで、魚を釣りたいと本気で思っている社員はどれ程いるのかわからない。新たな部署はクロスファンクショナルな部署で色んな部署の色んな立場の社員と関わる。個人的な印象になるが、疲弊している社員が多いように感じる。このことを鑑みると、相当少ないのかも知れない。

「何か私にできることはないだろうか」そう考えていた矢先の社長の全社会議でのメッセージ。私が感じている現状と課題について、社長にメールした。

「貴重なメッセージありがとう。来週、話を聞かせてくれないか」

なんと15分以内に社長から返事が来た。1000人規模の会社の社長が一社員のメールにこんなに早く返事をくれるとは。社長も問題意識を感じているに違いない。これは本気で向き合おう、そう心に決めた。




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