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「あなたの憧れがあなたの環境を劣化させる。」熊谷拓明

◇写真/大洞博靖

ダンス劇作家という肩書を名乗った当時の心境ははっきり思い出せないが、おそらく僕は真剣だったんだと思う。
今から6年ほど前の事。
そう名乗るしか、自分の中の逆立った「踊り」を慰めてやれなかったのだろう、まわりから冗談だと思われようとも、公の場の文章にとダンサーでも舞踊家でも振付家でもなく、ダンス劇作家と記載してもらった。
そしてその行為は、6年後の今現在おおいに僕を助けてくれている。

□界隈を探し奮闘した日々。


特に組合があるわけでもなく、事務所に所属する人もいまほど多くなかったように記憶している今から18年前、ダンスを仕事にしたくて札幌から上京した僕は、北から眺めいただけだった東京を、中から感じようと、ダンサーらしさを東京の先輩達に求め、必死で生きてた日々を懐かしく思い、少し書いてみる。

TVの仕事。というざっくりとした仕事のイメージと憧れからか、やはりバックダンサーをやってみたく、オーディションを受け、人に会い、落ち込んで、いじけて、たまに喜び。

確かに音楽番組に出演する歌手の後ろで踊る仕事もいくつか出来た。
コンサートに出演させてもらって、東京以外の地も巡らせてもらった。

しかし、その度に心の何処かで、なぜか自分携わるものは外で憧れて眺めていた場所とは少し違う気がして、「次こそは」を心の口癖に、別の現場を求めまた次も…
そんな事が続くうちに、もしかしたら自分にはそこに行く資格がないのではないかという思考に行き着き、とんでもなくどんよりとした、僕の暗黒期が始まるのである笑。

みんなからバカにされてる錯覚に陥り、
朝方に入った回転寿司店で、自分より後に汁物を頼んだ女性に先に汁物が出た事に腹を立てて、財布の中のありったけのお金をカウンターに投げつけて、何も食べずに家に帰った日もあった。最悪である。そしてごめんなさい。

そんな事をしているのにも関わらず、人生とダンスは僕を見放さず、寿司屋から飛び出たあの日から2年後。プロフィールにもあるようにぼくはシルク・ドゥ・ソレイユのオーディションに受かり、3年ほど日本を離れた。

シルク・ドゥ・ソレイユが何かのトップなのか否かは別として、僕はその環境の中でもやはり、身体中に不満を抱えて過ごすのだから救いようがない…不満男だったのだろう。

しかし、おかげで沢山の自分哲学を形成する時期になった事は間違えない。
ほんとに毎日本番が嫌だったし、つまらない顔をしていたし、しかしそれでもそこにい続けたのは、ダンス界隈に存在し続けたいという自分の思いがぶら下がっていたからなんだと気が付けたのは、シルク・ドゥ・ソレイユでの契約を終え日本に帰る直前の事だった。

そして帰国。

僕はダンス劇作家となる。

□せっかくの自由を謳歌する。

踊りを踊って生きていたいんだ!って、とてもハッピーで自由で夢のあるお話だからこそ、責任を持って自由を全うする事が大切だと思うんです。
先にも書いたように、そこにい続ける事を誰からも頼まれていないのに、不満を垂れ流しながらもそこにい続けるのは、自分の夢や願望に足を取られて身動きが取れなくなっている現象であって。
だからそこにいち早く気が付いて行動を起こす事でしか、本当の自分の場所は見つからない。

それはとても勇気がいる事だ…
と感じる方もいると思いますが、不満を抱えながらも居続ける所が本当に安全なのか?
安心なのか?
いよいよわからなくなってきた現在だからこそ、踏み出せる一歩ってあるとおもうんですね。

例えば。
あまり気の合わない人達と、納得いく内容の仕事ではなかったり、収入ではなかったりするお店に勤めて洋服を売るより、そのお店を辞めて、自分で好きな洋服を仕入れてネットで販売するほうが心が健康かもしれない。
そこで得るお金が、お店でもらう額より安くても、曇った顔で過ごすよりよほど未来が明るいだろうし、可能性もある。

でも今までと同じレベルでお金を使いたいし、洋服を仕入れるって言ってもどうしたらいいかわからないし…
やっぱりお店に残ろう!
って思うのなら、早速お店の愚痴はやめて、楽しく働けばいい。その選択も自由だし。
いちど独立を想像する事で、今の環境に感謝する事もあるだろう。
だから想像の中だけでも一歩踏み出すのは大切な事。

話をダンスに戻しますが、もしあの日の僕のように今現在の現場に不満があるのなら、そこにいなくてもいい覚悟をもって自由になればいい。
ダンサーである。という必要のない安心を守る為だけに、不満を垂らしながら居続けるのはあまり美しくないし、その不満を持ち寄って話に花を咲かせる人々のダンスもまた美しくない。

□あなたの憧れがあなたの環境を劣化させる。

少し言葉が厳しくなってしまいましたが、僕だって「ダンス」に憧れたし、どこにそれがあるのかを探し続けたんですよ。
そして美しくなかった笑

そしてこの我々の「憧れ」を使って足元を見られる事も多々ありますよね。
好きなことで仕事してんだから、これくらいの環境でいいだろう。というスタンスの現場ももちろんある。
でもそれは、やっぱり憧れだからこんな環境でもやります!と言った我々が創った環境なんです。だから変えるためには、やらない勇気、離れる勇気、そして本当の自由が必要。

今見えている世界とか、方法とか、常識ってやはりとても視野の狭い中で存在している事が多いです。
自分が思っていた「成功」なんてもう古くて、全く思いもしない所に自分だけが手の届く「成功」とか「幸せ」が存在するはず。

これからは誰かの創った環境で、もろい安心を抱えて暮らすのではなく。自分が創った新しい環境で、自分の責任で、自分の自由を謳歌するのもいいのかも…

ダンス劇作家/熊谷拓明

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熊谷拓明【ダンス劇作家】
15歳より宏瀬賢二に師事。2008~2011、シルクドゥソレイユ『Believe』に出演。850ステージに立つ。帰国後は自身のオリジナルジャンル「ダンス劇」を数多く発表。言葉と踊りに境界線を持たない独自のスタイルを確立させた。
『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(振付)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017『不思議な森の大夜会』(演出)、 めぐるりアート静岡2019参加作品 『近すぎて聴こえない』(演出)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020『パラトリテレビ』(出演)、おうちで見よう!あうるすぽっと2020夏『おはなしの絵空箱』(出演)、『ぼくの名前はズッキーニ』(振付)、『染、色』(振付)など。

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