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訴状が届いたらコメントしてほしい

新聞を読んでいたら、たまたま同じ日の紙面に、前から気になっていた表現が三か所もあるのに気づいた。

1つは、ある団体が行政の決定に対して異議を唱え、その決定の取り消しを求めて提訴したというもの。その報道に関する行政側の担当者の話。「訴状が届いていないため、コメントは差し控える」。

2つ目は、ある法人が、短期の雇用契約を繰り返すのみで永続的な契約に切り替えないのは違法と非常勤職員が提訴したもの。記者から質問を受けたその法人の回答。「訴状が届いていないのでコメントは差し控える」。

3つ目は、ある制作会社が管理のずさんさからコンテンツを外部に流出させてしまったことに対して、そのコンテンツに関わった人が苦痛を受けたとして損害賠償を求めて提訴したもの。記者からコメントを求められたその制作会社の返答。「訴状が届いておらず、コメントは控える」。

微妙に表現が違うのも気になるが、どれも実質的に同じことを言っていると思う。この表現「訴状が...」が前から気になっていた。

取材に対して、当該の担当者が実際にこのとおりの表現で話したのだろうか?それなら、もしかすると、団体向けの『危機管理マニュアル』みたいなのがあって、そこに書かれている定形文なのかもしれない。あるいは、『危機管理コンサルタント』向けの教科書みたいなのがあって、その分野のコンサルタントなら必ず、クライアントに対してこういう場合はこう言えと助言することになっているのだろうか?

あるいは、実際の現場ではそれぞれ違う表現をしていても、記事にまとめる際に記者が意味内容をくみ取って、記事表現上の “決まり文句” として使っているのかもしれない。

それはともかく、この表現を見ると、何となくもやもやとした気分になってしまう。もちろん、訴状の詳細を実際に見なければ組織としてどう対応するか方向性も出せないので、無責任なコメントは言えないという事情も分かる。しかし、少なくとも「訴状が届いたら、内容をしっかり読んで、責任をもってコメントを出します」ぐらいのことは言ってほしいと思う。そうしないから、何となく逃げているような印象を与えてしまう。

うがった見方をすると、訴えられる側に後ろめたいことがあるかのような印象を与えるような効果を狙って、記者があえてこの表現を使っているのかもしれないが。

訴状なるものが届くのにどれほどかかるのかは知らないが、少なくとも、それが届いた後のコメントを聞いてみたいと思う。しかし、なぜかそのようなコメントが出たという記事を見ることは、ほとんどない気がする。実際には当該の組織はきっちりとコメントを出しているのだが、記事にする価値がないと報道機関に判断されて無視されているのかな?

いや、別の日の記事にそれらしいものがあった。上に挙げた事案とは関係ないものだったが、たぶん訴状が届いたのだろう。その後に裁判が始まったようだ。その裁判で争っている内容に関する記事があった。

ここでも、お決まりのコメントが出ていた。「係争中の案件なので、コメントは差し控える」。

結局、いつまで経っても「コメント」は聞くことができないわけか。

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