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「おいしい」言語

日本語を外国語として勉強する人々にとって、「漢字」という存在は得てして厄介なものです。もちろん漢字は日本語特有の文字ではありませんが、特に非漢字圏(漢字を使わない言語を使用する国や地域を慣例的にこう呼んでいます)出身の日本語学習者にとって、漢字は日本語学習の大きな壁になりがちなのです。

形も複雑で、膨大な種類があって、しかも一字につき読み方は複数あります。しかも、漢字には読み方だけではなく意味まで付随しています。

日本語を母語として生まれ育った私でさえも、漢字というのは子どものころから何年も時間をかけて練習して習得したものだし、その難しさは(同じ視点からではないものの、多少想像できます。

私が働いている日本語学校の、非漢字圏の留学生が集まったあるクラスも例外ではありません。ほぼ全員が漢字に苦手意識を持っていると言ってもよいくらいでしょう。

もちろん、漢字が得意な学生も(ごく少数ながら)います。

バングラデシュ出身のある学生が、その漢字が得意な学生に向かってこう言っているのを聞きました。

「○○さんは漢字を食べたから、そんなに上手なんですね」

形も角ばっていて複雑だし、正直そんなにおいしそうではありません。しかし、食べると上手になれるイメージのようです。

これを初めて聞いたときは、ベンガル語にもこういう慣用句があるのだろうか、面白い表現だな、と思いました。
食べて飲み込み、自分の血肉にするというようなイメージなのでしょうか?

しかしこの数日後、文法の授業で発音するのが難しい語の練習をしているときでした。

「歯が壊れそうなくらい言いにくいです」

今度は別の学生でしたが、前述の「漢字を食べる」発言をした学生と同じバングラデシュ出身の学生でした。

となると、食べて消化し自分に取り入れるというイメージと言うより、
以外にも咀嚼する方に焦点を当てた比喩なのでしょうか?

言葉のうまさや話すことの巧みさを表す表現として、日本語ではあまり「歯」は登場しないんじゃないでしょうか。
言葉や話す行為に関する慣用句で言うと、「舌が回る」「二枚舌を使う」「舌の根も乾かぬうち」など、「舌」の方をよく使うような感じがします。

歯を使いバリボリとよく噛んで食べて、漢字も自分のものにしたいものですね。
私なんかは英語を上手に使えるようになりたいのですが、漢字よりは噛みやすそうです。


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