おぐら

大学で日本語教育を勉強し、今は国内で日本語教師として働いています。 毎日日本語学習者と…

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大学で日本語教育を勉強し、今は国内で日本語教師として働いています。 毎日日本語学習者と話す中で気が付いたこと、忘れたくないことを少しずつ記録するつもりです。

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「謝りすぎる日本人像」は本当?

先日、ある留学生から相談を受けました。 「来週、就職の面接を受ける予定ですが、面接が心配です。面接の練習に付き合ってくれませんか?」 たしかに日本語母語話者でも就職がかかった面接は緊張もするし、必ずしも全員が上手にこなせるものではありません。 私は快諾し、その週の金曜日の授業前である午後1時に会う約束をしてその日は別れました。 当日になりました。 私はデスクで仕事をしながら、学生が来るのを待っていました。 1時になり、1時20分になりました。 学生は来ません。どうしたのでし

    • 日本人の知らない日本語文法#3「先生、窓があきています」後編

      前編の記事をまだご覧になっていない方は、ぜひこちらからご覧ください。 まずは、前回のおさらいから。 前回はまず、動詞の活用形のひとつである「て形」を作るためには 動詞の分類を理解する必要がある、というところから 動詞の3つの分類をざっくり見てきました。 それが、五段動詞、二段動詞、その他 の3つです。 それではいよいよ、て形を作っていきましょう。 3分類それぞれに変換規則があります。 まず、規則が一番シンプルなのが二段動詞です。 二段動詞は、単純に「○○ます」を「○○て

      • 日本人の知らない日本語文法#3 「先生、窓があきています」前編

        そろそろ卒業式を控えた3月、 まだまだ寒さが続いていたころのことです。 授業中は基本的に窓を閉めて暖房をつけていますが、 温暖な国出身の学生の大半はそれでもダウンを着て授業を受けています。 (出身国に関係なく、真冬でも半袖という強者も一定数います) 休憩時間に少しでも換気しようと、 「ちょっと寒くなるけど窓を開けますね」と言って窓を開けました。 休憩が終わり教室に戻ると、ある学生が言いました。 「先生、窓があきています」 さて、この学生の言いたかったことは何でしょうか

        • 日本語は世界一難しい言語だと言えるか。

          日本語教師という仕事をしている、と友人や知人に話すと、 ときどきこんな質問を受けることがあります。 「日本語って難しいんでしょ?」 「日本語は世界一難しいって聞いたことあるけど、本当?」 この記事を読んでいるあなたも、一度は耳にしたことがあるでしょうか。 「日本語最難関仮説」を。 かく言う私も、各種SNSで聞いたことがあります。 今回は、さまざまな国から来た留学生に日本語を教えている私の視点から、 この「日本語最難関仮説」が正しいのかどうか、検証してみようと思います。

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        「謝りすぎる日本人像」は本当?

          日本語における、「LとRどっちだったっけ…!」的な現象

          「私の趣味は"りょうこ"です」 「私は"りょうこ"が大好きです」 「先週の日曜日、友達と"りょうこ"しました」 さて、問題です。 "りょうこ"とは、誰のことでしょう? ヒントは、上のような文を書くのは一人ではなく、むしろ大勢いるという点です。 それでは、答えを発表します。 「りょうこ」の正体は、「旅行(りょこう)」です。 「私の趣味は旅行です」 「私は旅行が大好きです」 「先週の日曜日、友達と旅行しました」 というわけです。 趣味として、休日の過ごし方として大人気のこ

          日本語における、「LとRどっちだったっけ…!」的な現象

          「大丈夫?」は、一体何を尋ねているのか

          先日、もうそろそろ冬も終わりかと思われたころに ドカッと雪が降った日のことでした。 朝一で授業に入り、(例によって出席者は半分くらいでしたが)学生に言いました。 「急に雪が降りましたね。大丈夫でしたか?」 すると学生は笑いながら言いました。 「大丈夫じゃないですよ、先生!」 そのクラスは、日本よりは暖かい地域出身の学生が多かったため、 よっぽど雪がこたえたのでしょう。 また別の日、体調不良で早退したいと報告しにきた学生がいました。 顔も赤く、表情もぼーっとしていて、かな

          「大丈夫?」は、一体何を尋ねているのか

          悪天候と留学生、天気についての一幕

          先週、朝から強めの冷たい雨が降っている日がありました。 私も傘を差し、できるだけ屋根があるところを歩きながらいつも通り出勤しました。 そんなとき、いつも頭をよぎることがあります。 「あー、今日は欠席多いだろうなあ」 案の定、そんな日は朝一で教室に入ると、 席の埋まり具合はちょうど半分くらいです。 授業開始時間になり、出席を取って授業を始めていると、 ちらほら遅れてくる人もいます。 遅刻なので、一応理由を聞いてみます。 「今日はどうして遅れたんですか?」 「先生、今日は雨

          悪天候と留学生、天気についての一幕

          留学生の疑問「それで、言いたいことは何ですか?」

          先月、上級クラスで「会話」の授業を任されることになりました。 うちの学校での「上級」というと、日本語での生活にはほぼ問題がなく、 日本語である程度専門的な内容が勉強できるといったレベルです。 JLPTで言うと、N2からN1くらいの範囲です。 ちなみにJLPTというのは、英語でいうところの「TOEIC」や「英検」の日本語版だと想像してもらえればおおむね問題ありません。 正式名称は「日本語能力試験(Japanese Language Proficiency Test)」、略して

          留学生の疑問「それで、言いたいことは何ですか?」

          日本人の知らない日本語文法#2「面白いな本、きれい人」

          普段から文法を間違えることなく日本語を話している日本語母語話者が、意外と気づいていない日本語文法について紹介する「日本人の知らない日本語文法」シリーズ、第2弾です。 先日、日本に留学してまだ半年ほどのクラスで、日本語文法のテストがありました。 その中で、なかなかに間違いが集中していたのが下の問題です。 そして多かった間違いが、今回のタイトルにある「面白いな本」、そして「きれい人」です。 母語話者であれば、正答はすぐにわかります。 もちろん「面白い本」、「きれいな人」です

          日本人の知らない日本語文法#2「面白いな本、きれい人」

          意外と気づかない、「褒め」の落とし穴

          「先生は、日本語を教えるのが上手ですね」 昨日の授業後、バタバタと人が出入りする教室で、 学生が、うちの日本語学校でも最も教授歴が長い日本語教員に言った言葉です。 私はちょうど別の用事があってその教室に入ろうとしたところで、 その会話に参加していたわけではなくただその言葉が聞こえてきた、という状況でした。 それを聞き、「いやいや、大ベテランの先生に向かって何を言ってるんだ!?」と関係のない私でもつい焦りました。 それってつまり、例えば大企業の社長に向かって新入社員が「

          意外と気づかない、「褒め」の落とし穴

          日本人の知らない日本語文法#1「とてもすてきですと思います」

          ふと思い立ち、今回からシリーズを始めてみます。 シリーズ名は、「日本人の知らない日本語文法」です。 普段日本語を母語としている人たちは、日本語の文法を意識して使うことはほぼないのではないでしょうか。 もちろん、自信の日本語の使い方に自覚的であったり、繊細に言葉を使い分けているという人もいるでしょう。 「ら抜き言葉」など、有名な日本語の文法事項もあります。 しかしこのシリーズでは、そんな人達を含め多くの日本語母語話者が気づいていない日本語文法を、 留学生の文法の間違いか

          日本人の知らない日本語文法#1「とてもすてきですと思います」

          縦横無尽

          来日して数か月ほど、まだ留学生活が始まって間もない学生が集まったクラスで、漢字の授業をしていたときのことです。 漢字が書けているか確認するため、ホワイトボードに漢字を含んだ文を3つ4つほど学生に書いてもらっていました。 その中の一文は若干長く、与えられていたスペースには横幅が収まらなかったため、右寄りに改行していました。 そのホワイトボードを再現すると、下のような感じです。 これを最前列でじーっと見つめていた、パキスタン出身の学生がぼそりと「質問いいですか?」と言いまし

          縦横無尽

          日本語教師と英語の、絶妙な関係

          「外国人に日本語を教える仕事をしている」と言うと、こんなことを言われることがあります。 「英語がお上手なんですね!すごいです」 これは、本当にそうでしょうか? 「日本語教師だから英語が堪能である」 私に関して言えば、これは否定せざるを得ません。 いや、否定させてください。得意でもなんでもないです。どうか私の英語能力を試そうとするのはおやめになってください。 上のような問答は、おそらく日本語教師なら誰にでもある経験でしょう。 「じゃあまだ日本語が充分に話せない外国人を相

          日本語教師と英語の、絶妙な関係

          ハグが苦手なイタリア人、アニメをみない日本人

          これは私が大学生だったころの出来事です。 当時の私は、外国語の授業を取ることにハマっていました。 といっても、「自己研鑽のために…」などと高尚な目的があったわけではありません。 単に、外国語を勉強することが好きだったのです。 中学高校と英語を勉強し、ラッキーにもそれが楽しいと思えたことや、 自分の母語である日本語、広く言語に興味があったこともその要因でしょう。 勉強を始める前はさっぱり意味がわからない文字の羅列だったものが、 勉強が進むにつれて語をみつけられるようになり、文

          ハグが苦手なイタリア人、アニメをみない日本人

          「おいしい」言語

          日本語を外国語として勉強する人々にとって、「漢字」という存在は得てして厄介なものです。もちろん漢字は日本語特有の文字ではありませんが、特に非漢字圏(漢字を使わない言語を使用する国や地域を慣例的にこう呼んでいます)出身の日本語学習者にとって、漢字は日本語学習の大きな壁になりがちなのです。 形も複雑で、膨大な種類があって、しかも一字につき読み方は複数あります。しかも、漢字には読み方だけではなく意味まで付随しています。 日本語を母語として生まれ育った私でさえも、漢字というのは子

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