見出し画像

「大丈夫?」は、一体何を尋ねているのか

先日、もうそろそろ冬も終わりかと思われたころに
ドカッと雪が降った日のことでした。

朝一で授業に入り、(例によって出席者は半分くらいでしたが)学生に言いました。
「急に雪が降りましたね。大丈夫でしたか?」
すると学生は笑いながら言いました。
「大丈夫じゃないですよ、先生!」

そのクラスは、日本よりは暖かい地域出身の学生が多かったため、
よっぽど雪がこたえたのでしょう。

また別の日、体調不良で早退したいと報告しにきた学生がいました。
顔も赤く、表情もぼーっとしていて、かなりつらそうです。
「大丈夫ですか?気を付けて帰ってくださいね」
私が言うと、その学生は力なく答えました。
「大丈夫じゃないです、体調が悪いんですから…」

こんなことを何度か繰り返し、最近私の中にできた仮説があります。
それは、「もしかして『大丈夫』という言葉の認識が違うのかもしれない」ということです。

上の2つのケースを考えても、
もし日本語母語話者同士の会話であれば「大丈夫?」と言うのが不自然ではない文脈だと思いますし、
おそらくその回答も「大丈夫」、もし相当状況が悪いならば「大丈夫じゃないかも…」くらいでしょう。
「大丈夫なわけないでしょう??」という反応を受けて、率直に言って私は少し面食らいました。

しかし上の仮説で考えてみると、説明できるような気がするのです。
学生の認識では、「大丈夫=何も問題がない状態」だとします。
そうすると、「大丈夫なわけないでしょう??」というリアクションの理由も頷けます。
なぜなら雪がたくさん降って少し足元が悪くなったのは「何も問題がない状態」ではなく、
ましてや熱っぽくて具合が悪い状態なんて全く「何も問題がない状態」ではないからです。

では反対に、私は「大丈夫」をどのような意味と認識して使ったのだろう、と内省してみます。
上の2つのケースで私が「大丈夫?」と質問したのは、
「何も問題がない状態かどうか」を確認したかったのではなく、
「私はあなたの状態を気にかけています」ということを相手に伝えるマークとしての「大丈夫?」だった気がするのです。

思いがけず雪が降った日、「大丈夫?」と聞いて考えられる返答は
「うん/ううん」というより、むしろその後に続く「いやーでも大変だったね」「もう今年は降らないかと思ったのに」といった
世間話を無意識に想定していたように思います。
つまり、「大丈夫?」の文字通りの意味ではなく、雑談のきっかけを作ろうとしていたということです。

「大丈夫」という語は、日本に来て生活している外国人なら耳にする機会も多いようで、
日本語の言語知識のレベルとしてはかなり初級だと捉えられています。
留学生も、アルバイトや学校の授業の中で何度も「大丈夫?」と聞かれ、自然と身についていたのでしょう。

しかしそんな「大丈夫?」という何気ない質問の裏にこんなギャップがあったなんて…(まだ仮説ですが)。
これを頭に入れておけば、「大丈夫なわけないだろ」という顔をされてもこちらも心の準備ができているというものです。

いち日本語母語話者として、私が自覚している以上に
「文字通りの意味」と「会話の中での実際の目的」が乖離していることは多いのだろうなと感じた出来事でした。

今回のような、コミュニケーションの中で気づいたことについて書いた記事がこちらです。

また少し毛色の違う、日本語の文法について書いた記事はこちらです。

他にも日本語教師として働きながら気が付いたことを日々記録していきます!
またご覧になっていただけますように。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?