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日本語における、「LとRどっちだったっけ…!」的な現象

「私の趣味は"りょうこ"です」
「私は"りょうこ"が大好きです」
「先週の日曜日、友達と"りょうこ"しました」

さて、問題です。
"りょうこ"とは、誰のことでしょう?
ヒントは、上のような文を書くのは一人ではなく、むしろ大勢いるという点です。

それでは、答えを発表します。
「りょうこ」の正体は、「旅行(りょこう)」です。

「私の趣味は旅行です」
「私は旅行が大好きです」
「先週の日曜日、友達と旅行しました」

というわけです。
趣味として、休日の過ごし方として大人気のこの「旅行」ですが、
留学生にとっては意外とつづりが難しい言葉のようです。

日本語母語話者からすると、日本語のつづりが難しい?というのは不思議な感覚ですが、
「旅行」という言葉には、日本語非母語話者を悩ませる音声的な特徴があります。
それは、「長音(ちょうおん)」です。

長音というのは、前の母音を長く伸ばすように発音することです。
カタカナ語の場合はわかりやすく、「ー」を使って表記します。
例えば、ビール、ロビー、ボールペンなどです。
ひらがなの場合は、母音を使って表記します。
例えば、おかあさん、こうこう(高校)、りゅうこう(流行)などです。

一見するとただの「長い音」ですが、
日本語非母語話者にとっては「長いってどれくらい??」となかなか理解が難しい現象です。

聞き取るだけならそこまで問題はないのですが、
これを文字として書くと、意外と正しい表記で書けない、ということが多々起こります。
上に上げた「旅行」の例もそうです。
口頭で話していればそこまでの違和感はない(仕事柄慣れてしまった可能性も高いですが)ものの、
字に書いてみると「う」がないとか、必要ないところに「う」が入っているとかいった問題が起こります。

考えてみれば当たり前ですが、
発音がうまくできない言葉は正確につづることができないのです。

英語を勉強する日本語母語話者に置き換えても同じです。
よく言われるのは「L」と「R」です。
日本語には「L」と「R」の間に境目はなく、二つを同じグループにくくって、「ら行」になっています。
日本語で「LA」と言おうが「RA」と言おうが、どちらも単に「ら」になるだけです。

そうすると英単語を書くとき、
「ここってLだったっけ、Rだったっけ…」という問題が起こります。
なぜなら普段は同じグループに入っている同じものを、
使い慣れない判断基準で二つに分けなければならないからです。

日本語学習者にとっても同じで、それがまさに
「ここって母音入るっけ、入らないっけ…」となるのです。

「りょこう」「りょうこ」くらいならそこまで問題はないですが、
例えば「おじさん」「おじいさん」となってくると深刻な違いに結びつきます。

日本語母語話者としては、「長音なんて、音を一文字ぶん長く伸ばせばいいだけじゃん」とつい思ってしまいますが、
その「一文字ぶん」が意外と鬼門なのです。
「一文字ぶん」の音の長さを「拍」というのですが、
留学生の母語によってはこの「拍」という概念がないという人も少なくありません。

この音声的な問題というのは日本語学習者には常に付きまとう問題で、
日本語で難しい本がよめるようになった人でも意外と拍は使いこなせていなかったりします。
いわゆる、「片言」感の一因にもなる問題です。

文法や漢字に比べると小さな問題ととらえられやすい「発音」ですが、
これがうまいのと下手なのとでは、日本語母語話者からの評判が変わったりします。
やはり流暢に日本語を話す留学生の方が、何かと信頼を得やすいのも事実のようです。

日本語の音声的な特徴には、今回取り上げた長音のほかにも
「っ(小さいつ)」を含む促音や、「ん」を含む撥音など、さまざまな難関が存在します。
が、長くなってしまうので今回はここまで。また次回ゆっくりご紹介します。

日本語会話に潜む以外ならルールについて書いたこちらの記事も、よろしければぜひご覧ください。

それでは、また他の記事でお目にかかれますように。

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