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日本人の知らない日本語文法#3 「先生、窓があきています」前編

そろそろ卒業式を控えた3月、
まだまだ寒さが続いていたころのことです。

授業中は基本的に窓を閉めて暖房をつけていますが、
温暖な国出身の学生の大半はそれでもダウンを着て授業を受けています。
(出身国に関係なく、真冬でも半袖という強者も一定数います)

休憩時間に少しでも換気しようと、
「ちょっと寒くなるけど窓を開けますね」と言って窓を開けました。

休憩が終わり教室に戻ると、ある学生が言いました。
「先生、窓があきています」

さて、この学生の言いたかったことは何でしょうか。
飽きる?窓が?

おそらく、「窓が開いています」でしょう。
ではどうしてそれが「あきています」になったのか。
これを突き詰めていくと、日本語における動詞の活用の存在に気が付きます。

外国語を勉強したことがある多くの人には、
動詞の活用に悪戦苦闘した記憶があるのではないでしょうか。

実は、日本語にも動詞の活用はいろいろ存在します。
中でも日本語学習者を一番苦しめているのは「て形(けい)」です。

「て形」というのは、文字通り動詞の最後に「て」が付く形のことです。
例えば「食べる」のて形は「食べて」
「する」のて形は「して」
「書く」のて形は「書いて」、になります。

今3つの動詞を例に挙げましたが、
「て形」の変換規則は何だと思いますか?

これを、日本語母語話者の皆さんに一度考えてみてほしいのです。
シンプルな規則ですっきり記述できた方がいれば、ぜひご一報ください。私も知りたいです。
現状、日本語学習者が覚えている規則はなかなかに複雑です。

て形の変形については、動詞の種類ごとに規則があります。
て形以外もそうです。
日本語教育文法の世界では、日本語の動詞を3つに分類しています。
「五段動詞」「一段動詞」「その他」の3つです。

五段動詞は、例えば「読む」「話す」「行く」「作る」など、
一段動詞は、例えば「着る」「見る」「寝る」などがあります。
日本語学習者はまず、この五段動詞と一段動詞を見分ける必要があります。

言葉や言語、日本語に興味がある方は見分け方をご存じかもしれません。
「未然形」を作ったときに、「ない」の前がア段になるのが五段動詞、
ならないのが一段動詞、という区別です。
「読む」の未然形は「読まない」となり、「読ま」の「ま」はア段なので、五段動詞。
「寝る」の未然形は「寝ない」となり、「寝」はア段ではないので、五段動詞ではない。

しかし、この見分け方には落とし穴があります。
それは、「動詞の分類をまだ知らない学習者は未然形を知らない」という点です。
動詞の分類をするためには未然形が必要で、未然形を作るためには動詞の分類を知っている必要があって、…といった具合で無限ループに陥ります。
考えてみれば当たり前なのですが、この見分け方が使えないというのがなかなかネックです。

では実際どう教えているかというと、さらに泥臭い方法です。
現在日本国内で広く使われている教科書では、まず最初に「です/ます」をベースとした形から勉強します。
それは、教科書で学んだ日本語を即実践に移しても問題がないように、という目論見があるのだそうです。
というわけで、ここでも「○○ます」という形を使って説明していきます。

まず、「ます」の前の母音に注目します。
「食べます」「寝ます」のように、ますの前の母音がエ段の場合は、まずそれは二段動詞です。ここは確実です。
もしますの前の母音がエ段ではなかった場合、それは基本的に五段動詞と言えます。
「基本的に」という言葉を入れた通り、この規則にはいくつかの例外があります。例えば「着ます」「見ます」などです。
これらは「ます」の前がイ段ですが、例外的に二段動詞に入ります。

これが、ざっくりとした五段動詞、二段動詞の見分け方です。
そして「その他」としていたグループですが、これは実質2つの動詞だけで、「来る」と「する」です。

この2つはカ行変格活用、サ行変格活用という正式名称を持っていますが、
もちろん日本語学習者にとっては不要な情報になるので正式名称を伝えることはありません。
五段動詞、二段動詞では説明できない変則的な活用として、それぞれ個別に活用を覚えてもらいます。

さて、て形を作るための動詞の分類だけでかなり長くなってしまいましたので、
今回は前編としてここで区切ろうと思います。
次回、後編は動詞の分類を踏まえ、いよいよて形の活用規則に迫っていきます。

中盤にも書きましたが、「このルールできれいに説明できる!」というて形変換規則を見つけた方はぜひコメントでお知らせください。
日本語教育業界の皆様はぜひネタバレなしで、見守っていただけると嬉しいです。

日本語を外から見たときの日本語文法を「面白い!」感じた方には、こちらの記事もおすすめです。


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