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『あなたの事が気になっています。』第8回「辛い役回りをさせられているひじき」

まずは何も言わずにこちらをご覧頂きたい。

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画像は私がいつも買って毎日食べている、お気に入りのフルーツグラノーラの裏面の栄養表示の写真です。「いかにこの商品の栄養価が優れているか?」を消費者に見やすくわかりやすく伝えるためのデータ。見て頂きたいのはその鉄分量部門における「ひじき」の現在の立ち位置。

過去には「鉄分の王様」と持て囃されたひじきのなんという辛い役回り。ご丁寧にも(ステンレス釜ゆで)と遠回しに過去の件を蒸し返され、茹で直されてチクチクやられています。これだけで今現在のひじきが立たされている苦境、肩身の狭い現状がわかります。


これ、フルーツグラノーラ側からすれば「自分がいかに優れているか?」を示したいので当然「1位のわたしって凄い!」のランキング表を載せるわけですが、であるならば本来、他とは差があればあるほどいいはず。最下位に置く相手としては、言ってもそこそこ鉄分を持つひじきではなく、もっと鉄が入っていない食品を持ってくる方が良さそうなのでは?と思います。


しかし、ここにわざわざひじきを持ってきた理由。グラノーラ側がなぜひじきを比較相手に選んだのか?


想像するに例えばここに「おまんじゅう」とか”全く鉄分のイメージのない食品”を持ってこられても消費者はピンとこないわけで、

つまり最下位に置く相手は、ただ単に鉄分が低いければなんでもいいという訳ではなく、むしろ「かませ犬」「踏み台相手」として重要なのは「鉄分が凄いイメージはあるけれど実際戦ったら確実に圧勝できる相手」、かつ「悪く言っても文句を言ってこないであろう、弱っていてマウンティングしやすい相手」がベストな訳であり、

そのポジションに売ってつけと思われている対象こそが令和現在の「ひじき」であるという事が読み解けます。実際の実際の所は置いといて、重要なのは「ひじきが周りにそう思われている」という事実。他人事ですが傍目に見ても悲惨な状況と言えます。何故こんな事になってしまったのか…。



間違いなく2000年一桁台までは文字通り、ひじきは「鉄分の王様」、鉄といえばで浮かぶのはまずひじき、ひじきは確実にブイブイ言わせていました。

あの時代、ひじきは鉄分でできたスポーツカーを何台も乗り回し、建物の柱が鉄分で出来ている六本木ヒルズに居を構え、鷲尾いさ子みたいな鉄骨娘たち(※平成生まれは要Google)を従えてFeFeいわしていた。その栄華繁栄を世に見せつけていました。

各家庭の食卓での振る舞いもまさに王様、他の追随を許さない独裁政権。人々の免疫を高めるに始まり、イライラの改善や集中力を高めるでは飽き足らず、疲労感も減らした上で、あまつさえ貧血までも治したりとやりたい放題、健康にし放題。



しかし、そんな事態が急変したのが2015年。キッカケはご存知の通り、文部科学省が15年ぶりに改定した「日本食品標準成分表」の発表でした。まさに急転直下で予想外の出来事。干しひじきに含まれる鉄分が突然の大激減、改訂前の9分の1以下に減らされて発表されました。具体的には「ひじきの鉄分の大半は鉄のお鍋で煮てたから」だという事実が判明した事によります。

大事なのは数値がどうのというより、その話題自体のスキャンダル性も相まって、興味本位で写真週刊誌やワイドショーで報道され、普段ひじきに興味を持たない人々にまで、そのニュースが一人歩きしてイメージが流布されてしまった事。王様として栄華を誇っていた今までの全てがひっくり返り「お前、ズルしてたのか!」と言わんばかりの総バッシング。

冷静に考えて、ひじきは鉄分以外にも栄養豊富で身体にいい食べ物なのは変わらないんだし、そもそも和え物とかで美味しいという、その前提ごとスっ飛んじゃったかのような”嘘つき野郎””ペテン師”扱いはあまりにもではないだろうか?とは今なら思います。あれだけ黒々していたひじきも当時はショックのあまり流石に白いものが混じったとか。



ただ、ひじきにも悪いところはある。イケイケFeFe時代に先輩への挨拶が雑だったり、マネージャーやスタッフさんへの態度が横柄だったり、一度抱いた女性と次会う時にはまるで鉄の吸収率を下げるコーヒー、ココア、紅茶、緑茶、またはホウレン草などの葉菜類のように扱ったりしていたと聞く。

その振る舞いを見て苦々しい思いで煮汁を舐めていた人たちの憧れや羨みがそのまま恨みや怒りに裏返った形なのだろう。まるで己が食卓の主役のように、豆腐や絹さやに対しても「和えているのではなく和わさせてやっている」と言わんばかりで立ち位置を見失っていたひじき自身の責任はある。



驕れる者は久しからず。
私たち人類はこのひじきの栄枯盛衰を見て何を思えばいいのでしょう。



果たして本当に我々はひじきを責められるのか。
ひじきが味わったであろう、一夜にして評価がひっくり返る恐ろしさはまるで昨今の不倫報道のような、まさに今もすぐそこにあるものとして私達は日常で目にしているのではないでしょうか?



昨日のひじきは明日の我が身。
ひじき見て我が振り直せ。

しかし、私は和えて言いたい。
本当のひじきはこれからだと思っている。

これで終わりではないぞ。
ここからだ、ひじき。

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※この文章は2010年3月号〜11月号に掲載用に
自主的に書いたものに大幅に加筆修正したものです。

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