議員秘書時代のアレコレ
大学卒業まであと1ヶ月ほど…そんな時期まで就活を全くしてなかった私。
かれこれ二十数年前のお話である。
散々遊び回っていた周りの学友達も知らないうちにテレビ局だのメガバンクだのに内定を貰っており、内心私は焦っていた。少しだけ。
法学部だったのだが法曹界に何の興味も湧かず、かと言って大企業だのマスコミだのにも食指が動かぬまま時間が過ぎていった。
松田優作さんのTVドラマ「探偵物語」の工藤に憧れていたので、私立探偵でもやるか!と思い立ち、電話帳に掲載された探偵事務所に片っ端から電話してみたがどこも人材募集などしてなかった。
いよいよ困ったぞ…と思っていた矢先、古い友人から「議員事務所を手伝わないか?」という連絡があった。
議員事務所という響きに怪しさと怖いもの見たさの好奇心を抑えることができず、即答で「やるわ」と決めた。
秘書のお仕事
扱いとしては議員の秘書になるのだが国会議員ではなく市議会議員なので公設秘書ではなく私設秘書という扱いで、体裁的にはその議員が役員をしている会社の社員として給与が支払われる形。
当然秘書業務について一切知識はないし、後々政界に打って出る気もない。
市議会議員であっても国会議員であっても基本的に将来議員に立候補する意思がある者が秘書として仕えて勉強するというのがセオリーである。
秘書というのは決まった仕事というのはあるにはあるが、極論すると「何でも屋」だ。
議員の果てしない要求に応え続けるバイタリティが求められる。そして議員というのはとてもわがままだ。
テレビで見る議員というのはあくまで舞台上の役を演じてる状態であり、舞台から降りたあとは苛烈である。
暴言なんて当たり前。癒着なんて当たり前。談合なんて当たり前の世界であった。
たくさんの市議会、県議会、国会議員の先生方とお会いして話す機会は嫌でも増えたがその中で1番清廉で丁寧だったのが岸田現総理だ。
普通の議員は他の議員の秘書であれ、基本的に扱いはぞんざいで高圧的なのだが、岸田さんだけは常に言葉遣いも態度も紳士的だった。
選挙期間
秘書をしていて1番苦しかったのは選挙期間だ。
市議会議員選挙は四年に一回行われるのだが、準備は2ヶ月前くらいから始まる。
決起集会や励ます会などから始まり、各地域の後援会や支援者を取りまとめたり組織票を集めたりとにかくめちゃくちゃ時間とお金がかかる。
どれくらいハードかというと…
私の場合は選挙日まで2ヶ月無休。
朝6時に出勤して、仕事を終えて事務所を出るのが26時。
3時間寝てまた出勤という日々が60日間続いた。
2ヶ月で実働1200時間である。普通の仕事なら320時間程度なのだから4倍弱という訳だ。
逃げたいと思った事はなかったが、何度か勤務中に気絶したことがあった。睡眠不足過ぎて、立っていても意識がプツッと途切れるのだ。
労働時間自体は「選挙が終わるまで耐えたらいいだけ」と思ってたので耐えられたのだが、1番嫌だったのは明らかに贈収賄に問われそうな作業だった。
詳しくは書かないが、色々預かったり預けたり、会ってはいけない団体と団体を合わせたりするのは心底ヒヤヒヤした。
(世の中ってやっぱりこうなってるんだな)
そんな事がザラザラにあった。
ある日なんかは、事務所に明らかにカタギではなさそうな風体のスーツを来た男が訪ねてきた事があった。
街ですれ違ったら絶対目を合わせたくないタイプの輩だ。
「⚪︎⚪︎先生おられるか?」
秘書なので簡単には取り次げない。取捨選択するよう厳しく申し付けられていたからである。
「どちら様でしょうか?ご用件をお伺いさせてください。」
男の口からは国粋主義の右翼団体と思しき団体名を聞かされ、要件としては「市政への要望を直接伝えたい」との事だった。
ひとまず議員に連絡をし、結局男と議員は会うことになったのだが、ものの10分ほどで男は話を終えて帰っていった。
後で議員に男の要件を聞いてみると、右翼団体の発行する月刊誌の定期購読を要求されたとの事。
まあこれは右翼団体の常套手段だ。ペラペラの冊子を毎月数万円で定期購読してくれ、してくれたら街宣車がオタクの悪行を市民に伝えることもないから…という脅しである。
昔の話であるから、今の時代はどうなのかはわからないが当時はそういう事は割と少なくなかった。
ただ、議員側も百戦錬磨である。管轄の県警上層部や反社組織に当然コネクションはあるので大抵のことはそれで収まる。
当確さえ出てしまえば、翌日からの各業界団体からのお祝いラッシュをこなして終わりである。
それ以降は9時17時の暇な毎日が始まった。
選挙がないと正直何も面白くないので、当選の一年後に私は退職したのだが、その後の選挙も毎回サポート(無償ね)で手伝いに参加した。
あの熱気と狂騒は人によってはクセになるのだろう。
普通に生きていたら覗く事ができなかった世界を垣間見れた事は、今でも良い経験だったなと思う。
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