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小学生の頃から芸宿に来ていた子供が、今日もいきなり部屋に来る。

 僕は今、芸宿という名前のアパートの一室に寄生して暮らしている。
 築年数が結構古いコンクリート造りのアパートで、アパート一棟を丸々使ったシェアハウスみたいなところだ。
 1階はギャラリーもある公共スペースで、2階は居住スペースとなっている。

 発足に関しては、過去の記事に簡潔にまとめたのだが、金沢美大の学生だった先輩たちが、ぼろぼろの住居を借り、そこの一室をギャラリーにリノベーションした手作りのギャラリー兼アトリエとして始まった。
 それを皆「旧芸宿」と呼んでいる。
 部屋がたくさんあるので、展覧会をしたり、イベントをしたり、宴会をしたり、飲み会をしたりと、いろいろ自由にできるばしょだった。
 そんなオシャレな感じとは無縁の、小汚い場所ギャラリーで、キャッチフレーズは誰かにとって都合のいい場所

 発足当初、美大生だった僕は、旧芸宿には知り合いが展示をしたりするので、そこそこ足を運んでいた。
 ちょうど、自宅と学校の中間位の場所にあり、旧芸宿のギャラリーは通りに面しており、大きな窓があるので、そこに人が居たり、何かしているのがよくわかるので、おもしろ荘だったらとりあえず言っていたと思う。

 ギャラリースペースの二回スペースはごちゃごちゃした物置のような部屋になっていて、誰かがいろいろと物を置いてったりして、昭和の学生寮みたいな空間になっている。
 そこにはスーパーファミコンとかニンテンドーdsとか、誰かがいらなくなったゲーム機とかが置いてあって、暇つぶしに動かして遊んでいた。

 そんな芸宿に遊びに来る小学生の何人か居た、その中の一人がギブちゃんと呼ばれている男の子だ。
 小学生が芸宿に遊びに来るようになったのは、芸宿発足当初に行われた子供向けのワークショップイベントがきっかけだろう。
 そのころ僕は、普通にアパートを借りて暮らしていたので、展覧会以外のイベントで芸宿に行くことは少なかったので、どのぐらいの頻度でその小学生が来ていたのかは知らないが、それでもそのころからギブちゃんとは数回くらい遊んだような気がする。

 そのころから、ギブちゃんは基本的にゲームしかしない子という印象だった。
 展覧会とかそういったい芸宿の企画に気を利かせて来るみたいなことはなかった。
 建物がオンボロすぎて、セキュリティもあったモノではないので、いつでも来れるし、毎回誰かしら居る美大生に相手してもらえるので、遊び場としては都合がよかったのだろう。
 芸宿にいる美大生も、暇な大学生なので突然子供遊びに来ても、吝かでない、オンボロの建物なので、セキュリティはおろか呼び鈴もないので、近所の知り合いが突然入ってくるようなことが来ても、それが普通という感覚だった。

 そんなこんなでその小学生達は卒業するまでの大体2年間は芸宿に来ていたのだが、中学校に入るようになって疎遠になっていった。
 そのなかで、ギブちゃんは割と疎遠にならず偶に顔を出していた。

 僕がギブちゃんと出会うようになったのは、近所にゲーム機の置いてあるカフェがオープンしてからだった。
 小立野にあるetc.linkというお店で、店長の趣味でいろいろなゲーム機が展示してある。
 レトロゲームがほとんどだが、ps3とかも置いてあったりする。
 僕もゲームはやる方なので、よく遊びに行っていた。

 そんなある日、中学生のギブちゃんがetxc.linkに来ていた、ギブちゃんが来るようになったのは芸宿の人に連れてきてもらったのがきっかけのようだった。
 どうゆうきっかけで声をかけたのかはよく覚えていないが、etc.linkであった時はだいたいゲームの話をしていた。
 僕は当時、バットマンのアーカムシリーズにはまっていたので、おもしろいよって言って、推した。
 etc.linkにいつ来ても遊べるように、僕のPS3版のディスクをetc.linkに置いていって、いつでも遊べるようにしておといた。

 学部を卒業して大学院に進学してからは、あまり会うことはなかった。
 特に連絡先も知らないしで、完全にギブちゃんの事は割と忘れていた。

 旧芸宿が取り壊しになり、新芸宿に移転するに伴い移り住むようになった。
 僕は大学院に入ってから、家賃のランニングコストを下げるために、大学時代の友達3名とシェアハウスをしていたのだが、その一人が移転した芸宿に移り住むにあたり、分割していた家賃の事もあり、流れでシャアハウスのメンバー3人で芸宿に引っ越した。
 仕事もするようになったので、家を空けることが多くなったが、僕が家を空けていても、他の同居人が何かしら家にいることが多い状況だったので、家の玄関は空いていたりする。
 ギブちゃんはあまり自分の事を話さないので、どいう言う経緯で芸宿が移転して、移り住んだことを知ったのかは不明だが、ある日突然、家に来るようになった。
 不定期ではあるが、第四の同居人のようなノリで帰ってくるように。
 仮にギブちゃんの中に、人の家に行くという意識が少しでもあったなら、来る際に連絡先に一言入れるとか、家のドアを開けるときに何かしらノックしたりすると思う。
 そういうこともなしに、来るときは普通に家にはいってくるのだ、これはもはや、来るというより同居人のように帰ってきているというふるまいだろう。

 来るようになった当初は、僕が持っているニンテンドースイッチでマリオオデッセイとかゼルダの伝説ブレスオブザワイルドとかで遊んでいたりした。
 他の同居人もいたので特に気にしてはいなかったが、勝手に来て、僕の個室でゲームをしていく以外、特に問題はなかった。
 仕事から帰ってきて、僕の個室に人が入った居た痕跡があっても、誰かが来てゲームで遊んで行ったんだろうと思うようになっていた。

 休みの日に来ることもあって、いろいろ話したりする、バットマンの話しかしない。
 ギブちゃん高校2~3年生くらいの頃である。

 冬になるとギブちゃんは来なくなったりした。
 僕も個人的にはいろいろあるので、そこまで常に意識しているわけではないので、さむいし、進学で忙しいし時期だったんだろう。

 高校を卒業し専門学校に入学しいろいろ落ち着いた頃だろう、また忘れたころにいきなり玄関を開けてギブちゃんはやってきた。
 いちおう、人の家に来るときはアポを取るべきだと、連絡先を交換して社会的常識を仕込もうとしたのだが、お互いがめんどくさがり屋なのか、習慣として続かなかった。

 やる事は相変わらずゲームだった、プログラミングの専門学校らしいので、コードを書く作業をするならどういうパソコンを選んだ方がいいとか、そういう話をしたりする。
 目的は相変わらずゲームなので、もくもくとswitchで遊んでいる。

 最近は、結構な頻度でくるようになった、多い時だと週3回くらいの頻度で来ることもある。
 ここ数カ月は、ポケモンレジェンドアルセウスばかりをやっている、無職になって家にばかりいるようになったので、会う回数が一番多い。 
 スイッチで遊ばれると、僕のデスクトップ環境が夜まで使えなくなるのだが、それにストレスを感じるよなことはない。
 ギブちゃんが来たときは、僕は自分の部屋の横の居間のスペースで、ノートパソコンで文章を書いたり、ipadで絵を描いて過ごすようにしている。

 ギブちゃんが突然来るのはだいたい昼過ぎ、遅くても午後4時くらい、専門学校帰りにやってきて、夜7時になったら帰る、というルールがあることに気づいたのは、無職になって一緒に過ごす時間が増えてからだ。

 高校生の頃と違って、来るときは私服で、学校帰りに来るときは、ここに来るまでの途中で昼食を買い、僕の家に来て食べて、ゲームをするというのがお決まりだ。
 バイトもしているらしく、お小遣いの余裕もできたのだろうか、来るついでにマクドナルドとか買ってくるのだが、自分が選ぶよりも単価の高いハンバーガーとか買う。
 たまに、僕の分のジュースとかハンバーガーも買ってきたりしてくれるようになったので、気使いというか、世渡りについて学んだのか、成長を感じる。

 そんなギブちゃん、今日も昼に僕の部屋に突然やって来て、スイッチで遊んでいる。
 僕はその横の部屋で、淡々とノートパソコンを開いて、文章を書いている。

 ある日来たときは、スーツ姿で来たこともあった。
 企業の説明会を受けてきた帰りらしい。
 専門学校の卒業後は就職するので、それに向けての活動らしい。

 小学生から知っている子供が成人する。ずっとゲームしかやっていないが。
 もともと、すこし体系がワイドなタイプなのだが、最近はマクドナルドばかり食べているので、間違いなくデブになる。
 不可抗力的ではあるが、人間が子供から大人へ成長する過程を見せられて、時の流れをというものを否が応でも実感してしまう。

 

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