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書道の流行と丸文字と日本語ラップと

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3記事前から明治の三筆の三人について書いてきました。

今回は、明治の三筆に端を発し、書道が歴史的にどういう扱いだったかについて書いてみたいと思います。

知名度が低い、明治の三筆


と言うのも、「明治の三筆」のことを、歴史を専門に勉強してきた人でさえ知らなかった、ということに筆者は驚いたからです。

筆者のように、過去、所謂学校の歴史の勉強を完全にサボっていたタイプであればまだしも、「大学・大学院で史学を専攻していた」「今でも歴史好きでいろんな書物を読む」「歴史的な古文書を読みたくてくずし字とかを少しかじったことがある」レベルの人たちが、こぞって明治の三筆を知らなかったのです。

もちろん知っている人は知っている、とは思いますが。

江戸末期から明治初期、書道をやる人なんて今よりもずっと多くいたはずで、その中の突出した腕前の持ち主を「明治の三筆」と言う。そんな人たちの知名度がこんなにも低いのはなぜだろうか・・・。

同じ時期の「幕末の三舟」である勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟の方が俄然知名度が高い。彼らも優れた書を残していますが、それよりも彼らが幕臣(将軍直下の家臣)としての活躍が認められているからでしょう。


文字伝来から明治時代まで


時を戻して、文字が入ってきた頃、また書道ブームの興りについて考えてみます。

日本人が文字を得た!日本なりに使い始めた黎明期

文字が中国から伝来してきたのは紀元後1世紀とか2世紀とか。その後、飛鳥・奈良時代頃(5~9世紀頃)には万葉仮名が作られ、次第にそれが変化して平仮名ができ、日本語文を自在に書き表すことができるようになった。(詳しくはこちらの記事を

当時からすれば、文字の流入、平仮名の発明というのは超超画期的で、生活を飲み込むような一大事だっただろう。(と言ってもこの頃は使っていたのは貴族らごく一部だけだけど)


日本風の書道が大ブーム!歴史的に最大の書道隆盛期

文字も書道も中国から渡ってきたものだが、平安時代には日本独自の発展を遂げる。唐様(中国風)に対して和様(日本風)の柔らかな書き方が広まり、また「散らし書き」のように、読ませることを重視しない書き方も流行。

平仮名発明から、文字の使い方などが定まってきて、人々はそれで遊び始めた。戦乱も少なく豊かであった平安貴族たちの間で、書道というものの価値が拡げられた。人々は文字という「新しいもの」に食いついて、見事に花開いたのが平安時代と言えよう。

「新しい」と言っても、文字伝来が1世紀とするならばざっと7~800年もの時間がかかっている。平安当時散らし書きなんかが現れたとき、文字はきちんと書くべきなのに何事だ!けしからん!!という感じだっただろう。「散らし書きは乱れ書き」なんて揶揄もあったようだ。


鎌倉・室町・安土桃山時代は特筆すべきことがない

戦乱の世であっても、無論文字は書かれていたし、書道が消えたわけではない。もちろんまだまだ何もかも手書きの時代。平安時代からの和様(日本風)の書き方も成熟していった。また、この頃はまだ能書家は政治においても有利だっただろう。

しかし、平安時代から比べれば、書道というものはブームで言えば下火になっていた。動乱の世では、文化的活動は十分に行えなかったという面もあるだろう。


江戸時代、復活の兆し?平安時代には程遠い。庶民が文字を得る

再び訪れた太平の時代。浮世絵や木版印刷など、日本独自の文化や技術が花開いた。書道も絵画(琳派とか)とコラボレーションするなど、平安時代に対抗した動きが見られるがいまいちブームとはならず。

一方で特筆すべきは、寺子屋のおかげで庶民も文字を扱えるようになったこと。その頃の正式書体「御家流」のくずし字で、皆が筆でくずし字を書いていた時代。


明治時代、文字の大革命

奈良時代頃に万葉仮名・平仮名が誕生してから、1000年間平仮名は一音につき沢山あるものだった。それを明治政府は「一音一字」と定めた。また、それまでくずし字を使っていたが、正式書体を楷書体と定めた。

書道的な意味とは少し異なるが、これらのことは、生活全般に関わることであり、文字が一般に与えた影響としてはとても大きい。


明治時代、文字が社会的影響を及ぼした最後


また話は遡ってしまいますが、漫画や映画の『キングダム』で「剣と筆の良い者がいると聞く」のようなセリフがありました。書の力は剣ほどに物を言う時代だったということでしょう。『キングダム』は秦の時代の話なので、紀元前200年よりも前くらいの話。

剣と筆の良い者は、その集団の長となる、つまり政治を行う。中国でも日本でも名を馳せた書道家の多くは政治家や官僚、また天皇はじめ貴族でした。(文字を扱えたのがそういう身分の人だったという言い方もできますが)

その流れが変わったのは、日本では明治時代。明治の三筆の3人も官僚の職にはいたものの、この頃以降には専業書道家も増え、政治家と書道家は分岐して行きました。

明治より後、書が上手い政治家もいたと思いますがあまり名を聞きません。文字は誰もが扱えるインフラとなり、重職に就くにも書の腕前は問われなくなりました。

明治時代の正式書体=楷書体の選択とひらがな一音一字の取り決めを最後に、文字の政治的・社会的影響はそこで終わったと言って良いのかもしれません。(今後、例えば文化再復興で変体仮名も使うべし、とかならなければ。ならないでしょう)


文字の社会的影響と言えば・・・


明治の三筆の知名度が低いのは、手書き文字が社会的に影響を及ぼさなくなったから、と言えましょう。剣も筆も良くせずともお偉いさんにはなれる。

政治の文脈とは全く異なりますが、昭和以降の手書き文字動向として1つ注目すべきは、1980年代の丸文字。(これに関しては長編動画があるので是非ご覧ください)書道の文脈でもないので少し突拍子もなく聞こえるかもしれませんが。

明治以降、書道は書壇という世界にほとんど閉じてしまいました(もちろんそこでは現在に至るまで切磋琢磨、日々精進されている)。

丸文字が流行った1980年代は、まだインターネットが普及する前。

小中高生を中心に、文字の角をとって極端に丸く書いた特徴的な文字が大流行しました。当時500万人が使っていたのではないかと言われているほど。「世尊寺流」「菱湖流」のような書道の格式ばったものではないけれど、明治以降、一般に一つの書体が流行したのは丸文字以外にはないと思います。

明治の文字大変革から80年ほど、社会現象と言わしめた丸文字は、その頃の書道よりも社会に影響を与えたと言わざるを得ない、と考えることもできます。

しかしそれは、誰ともなく始まって大きな渦を成したものであり、創始者も権威者もいない。ひとりが発明したのではなく、集団が発明したもの。丸文字は、書道の世界に切り込むものでもなければ、文化的に名を残すような性質ではありませんでした。

またそして、社会に影響を与えた大きさの分だけ、社会からの弾圧を受けて丸文字は短命に姿を消していきました。平安時代の散らし書きのように後世に語り継がれることはなかったのです。

その後、ケータイが流行り丸文字文化を受け継ぎ、デジタル打ち文字であるギャル文字も少し流行ったがそれも短命に終わりました。

また時折、現代にも彗星の如く、相田みつを氏や武田双雲氏や金澤翔子氏など、広く一般に知られる書道家が現れますが、彼らによって一般に文字の変革や流行が起こったとは言えないかなと思います。


(追記)「新しいもの」の流行とその後


「書道」が「新しいもの」として人々を熱狂させた平安時代。この頃に「書道」の全ては一旦成熟・完熟してしまったとも言えそうです。「新しいもの」の火が落ち着いた平安期以降現代に至るまで、その追熟をずっと楽しんでいるような。

例えば。1960年代に音楽分野において「ロック」が爆発的に流行しました。そこから20~30年ロックの火は煌々と燃え続け、下火にはなったものの2023年の今もロックは健在です。

しかしながら、1960年代の頃の炎と同じ大きさの炎を再び見ることはおそらくないのではないか。それは、平安期の書道も、その他の分野(江戸時代からの歌舞伎や落語など)も同じことが言えるのではないかと思います。(何だか切ないけれど)

ちなみに、ヒップホップで日本語ラップが流行り始めたのは1980年代。そのカルチャーは成熟しつつ、2020年代にも比較的同じような熱量で燃え続けている気がする。それは、出だしが爆発的流行でなかったからか、日本語ラップの性質か。

だから、明治の三筆が有名でなかったどころか、平安期の三筆・三蹟以外は一般にほとんどその名を知られてない、と言うのが正しいのかもしれません。


まあでも、書道もロックもオワコンだという話で締めたいわけではありません。丸文字のように、日本語ラップのように、再度ストリートに根付くというのは文化創生・再生(?)の一つの切り口なのかも・・・?(丸文字は上手く残れなかったけれど)





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