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下着泥棒に考えさせられる社会のあり方(窃盗) 傍聴小景 #4

裁判ライターの普通です。本日の記事は皆さま無料でお読みいただけます。

昔の小説とかを読んでいると、今とモラルやマナーが全然違うことに、いい悪いでなく面白く感じることがあります。電車の座席でタバコ普通に吸ってたり。

同じ観点で、男性の家事についての考え方、女性の働き方など夫婦の在り方の考えってのもここ20年くらい(?)で一気に変わっていますよね。
今回、紹介する裁判は、そんな夫婦のあり方について、もしひと昔だったらどう捉えられていたのだろうと気にしたくなる事案です。

はじめに

罪名: 窃盗
被告人:30代前半の女性
傍聴席:15人

女性の窃盗事案って、女性が被告人の事件の中では決して珍しくはないんです。

ただ、今回の被告人はビシッとスーツで法廷に立っていて、こういうタイプの女性の窃盗事案はすごく珍しい気がしています。女性の窃盗犯はスエット着用が相場と決まっているようなものなので。
これも、勝手な女性のイメージをするな!って女性窃盗連盟、通称・女窃連から怒られたりするのかな。ちなみにそんな連盟無いですよ、念のため。

事件の概要(起訴状の要約)

被告人は、イオンモール内の婦人インナー売場にて、女性用下着を1点窃取した

下着泥棒って言葉は、男性の性的偏向者のための言葉かと思ったのですが、確かにこれも下着泥棒ですね。
ただ、そういう理由以外での下着の窃取というのは相当に珍しい。寒さに耐えるために上着を盗んだ人の裁判は傍聴したことはありますが、この下着はどういう理由なのでしょう。

検察官による証拠や供述提示

被告人は結婚しており、子どもも1人いる
事件当時はとある銀行の正社員として働いていた。事件後は別の仕事をしてる。

被告人は相当回数、いろんな店舗で同種の窃盗行為を行っており、その窃取品をメルカリで転売していた。通帳にはメルカリからの28万円の振り込みが5回ほどあった。

犯行は売場で買い物かごに商品をたくさん入れ、試着室に行き、自身のバッグに何点か入れて、盗らなかった商品は売場に戻すという方法で行っていた。

犯行動機について、夫の転勤で来た大阪で、慣れない地での生活を夫に相談したところ、経済的な観点を指摘され、自身で稼ぐことで旦那を見返す目的だったと供述。

相当回数窃盗したと、被告人も各種供述で言っているようなのですが、被害品と照合ができないためなのかわかりませんか、起訴事実は窃盗1点とされていました。そういうもんなんですね。

それにしてもメルカリで転売のためとは時代を感じるなぁ。まぁ同じくこのnoteにしても有料記事を置いていますが、一ユーザーが記事を販売するなんて考えは昔はなかったし、やはり時代は流れますね。
理由はあとで詳しく聞くとしても、関係ないお店を巻き込んではいけません。お店は被害弁償を受け入れなかったようなので、怒っていることがよくわかります。

それにしても、夫はどんなことを言ったのでしょうか。被告人の今後の更正の意味も含め、証人として夫が出廷しました。


証人(被告人の夫)尋問

「今はどこで働いていますか?」
「東京です」

「奥さんは大阪に住んでいますので、単身で東京にお住まいということですか」
「はいそうです」

「今の証人の年収は」
「約1,100万円です」

お~、持っとるねぇ。この方、30歳ちょい過ぎくらいなんですが、これでこの年収はすごい。このnoteの定期購読してくんねぇかな。そのうえで単品での記事購入も頼む。

でも、やはり仕事柄なんでしょうかね、事件のきっかけも大阪への引っ越しによるストレスだったのに、またも引っ越しをして今は被告人とは離れて過ごしているようです。

「今回の件の原因はなんだと思いますか」
「妻に、家事などの負担をかけてしまったストレスなのかなと思います」

「被告人はあなたに、年収をバカにされたと言っていますが、その記憶はありますか」
「はっきり覚えていませんが、したのかもしれません」

「被告人は、家事についても協力的でないと思っているようですが」
「妻に任せてしまっていた部分はあったと思っています」

「具体的に、自分の方が稼いでいるのだから、家事までさせないでよと言った記憶はありますか」
「記憶はありませんが、言ったのかもしれません」

あーあ、言っちゃった。
会社とかにも学歴や年収をすごく気にする人っていますけど、それで優劣つけ上に立った気になっている人って、小さいって思われているの気付いていないのかな?これ読んで自覚ある人は、マジ気を付けた方がいいですよ。

ちなみに僕も高校・大学とかめっちゃ聞くんですけど、それは単純に学生スポーツが好きだからなんっす。僕が「あっ…」ってなっても、それ偏差値的な話でなく、「スポーツの話題振れないから、何の話をしよう」と困ってるコミュ障なだけなので悪しからず。

「そういうことを言ったかもしれないことをどう思います?」
「一緒に暮らすものとしてすべきでなかった」

「被告人のストレスを軽減するために事件後、何か変えましたか」
「今は距離が離れているのですが、家に帰ったら子どもの面倒見たり、定期的に電話で話を聞くようにしています」

「本当に、それで充分だと思いますか?」
「…わかりません」

もう止めてあげて!
たぶん、この裁判が20年前だったら証人への質問はこんな風にならないんだろうな。まぁ時代背景も違うし、単純比較もおかしいんだけど。

ただ思うのは、ストレス軽減は確かに犯行の抑制になるかもしれないけど、その点だけ突き止めたって仕方ないと思うんだよなぁ。いや、そりゃあ被告人に多少同情はできても、何十万円分も万引きするのは、それは全然別の話だよ。

でも、そんな感じで証人を問い質し続け、弁護人の質問は終了してしまいました。本当にそれでいいのか、弁護人よ。

代わりに検察官が証人に質問します。

「事件発覚前に何か異変に気付くことはできたと思いますか」
「メルカリを使っているという話は聞いていたので、それ以上は女性用下着のことなので深く突っ込めなく反省している」

「被告人は土地感が変わったうえ、育児もという点がありますので、もっとあなたの方でサポートの必要性を感じてくれますね
「はい、もっとサポートできればと思っています」

「コミュニケーションを取ることで、ちょっと変わった挙動などに気付くこともあると思います。そういった点からも被告人にアンテナを張ってあげてくださいね」
「はい、そうします」

検察官の方が、よっぽど弁護人っぽい質問をしています。弁護人、仕事せい。

被告人が元々どういう性格かはわかりませんが、大量のものを盗んだという行為は発生した訳ですから、それが癖にならないよう監督の重要性を感じ取ってもらうのはとても大事だと思います。
それにしても、裁判の場においてもそういった奥さんへの気遣いの話が挙がるなんて、やっぱ時代は変わっているんだなと思います。

最後に裁判官が質問します。

「被告人は今後、監督者という立場であることを理解していますか」
「はい、しています」

「被告人にどういう判決が下るかわかりませんが、あなたは東京にいても、距離であったり、仕事の忙しさというのは当然再犯を見逃していい理由にならないのはわかりますよね」
「はい、そう思います」

あなたにその覚悟はありますか?
「二度とこのようなことがないよう尽力します」

今度は裁判官が検察官のような質問をしていました。

二度目はないぞという、危機感をしっかりと持てているかということですね。
検察官が弁護士の代わりに、裁判官が検察官の代わりにと、お互いを補ってたっぽいこのシーンは、裁判ってのは単に罪の重さを決める場でなく、社会で次なる犯罪を生まないための取り組みであることがよくわかります。かなり、いいように捉えてはおりますが。

続いて、被告人本人にも話を聞きましょう。

被告人質問

「あなたは、今回の事件の原因はなんだと思いますか」
「育児や家事のストレスの影響があったと思います。」

「どういう下着を盗んでいたのですか」
「自分でかわいいと思うものを」

「ほかにはありますか」
「あまり在庫の管理がされている感じがしないものを」

「どれくらいの頻度で犯行を行っていたのですか」
「だいたい週に1回くらいです」

もう、それプロやん。旦那じゃなく、俺の関心を引いてどうすんだ。私は裁判一筋よ。
しっかり意識的に仕入れを意識し(在庫管理がまばらそう)、売り上げを意識し(かわいいと思うもの)、そして継続的に仕入れる。社会人的、ポイントを押さえた犯行に、職業的犯行と言われても仕方ない気が..。

続いて検察官

「今回の万引きの手法は自分で考えたのですか?」
「はい、そうです」

「生活するお金に困っていたのですか?」
「いえ、困っていませんでした」

「バレると思わなかったのですか」
「試着室でならバレないと思いました」

「売却したお金は何に使っていたのですか」
「自分のための食事代の足しや服などに」

ごめん、女性がどう思うかわからないけど、そもそものきっかけはそうかもしれないけど、この犯行に対する積極性を動機のせい一つにするのは、さすがにちょっと厳しい気がする。

最後に裁判官が聞きます。

「元々、銀行で働かれていたようですが、お金を管理、循環させる立場にいた身として、それらの仕組みをひっくり返すような行為だと思いませんか」
「気付かれないと思ったので…」

「自分で歯止めがきかなかったのですか?」
「ストレスがあって繰り返してしまいました」

「そこまでしてお金を作りたかった理由は?」
「(泣きながら)『育児なんて休みみたいなもんや』などと言われ、悔しくて、どうして女性のキャリアはこうなんだという思いが強くなって」

「育児なんて休みみたいなもんや」は論外ですけど、だからといって盗みを繰り返す判断も論外です。

ただ、やっぱ考えなきゃいけないのは、今回のSOSはどうしたら旦那に届いたのか、もしくは旦那は受け取ることができたのかということ。
言い方悪いですが、起きた犯罪はこれくらいで済みました。でも、こういうSOSの出し方、SOSの受け取り方の問題ってどんな会社でも似たような事象ってあるんじゃないでしょうか。少なくとも僕の社歴上はあった。

まさか下着泥棒の話をしていて、会社組織について考えることになるとは

論告・弁論

論告
・犯行の動機は安易で同情の余地なし
・手慣れた犯行で、発覚していない分も含めると多額の被害額が予想され悪質
求刑 懲役一年六月

弁論
・被害額が小さく、罰金刑が相当
・稚拙で古典的な犯行
・夫が家事や育児を積極的に手伝うと法廷で誓っているので再犯の可能性はない

後日の判決を見ることはできませんでした。

「下着泥棒で会社組織を…」なんて先ほど書きましたが、意外とこういう事件の方がその時代に沿った人と人とのコミュニケーションを具現化してて、わかりやすいのかなと思ったり。

今回の話は一部ですが、YouTubeでも話しています。本日書いた内容と情報量が違うので、見え方がまた違うと思います。
他にももう1件、下着泥棒の話などしているのでもしよかったら、こちらもご覧ください。


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