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選評*淡雪や麹花咲く麹室

淡雪や麹花咲く麹室  岡田 耕
麹は蒸した米や麦に麹菌を繁殖させたもので、麹、あるいは糀とも書く。「麹」はこうじ菌が繁殖して蹴鞠のような形になったものを表し、「糀」は同じくその菌がお米に花が咲いたようだと言うのだろう。
 酒造りは「一麹、二醪、三造り」と言われるが、先ずは麹作りから始まり、その出来具合次第でお酒の味が決まると言って過言ではない。蒸したお米に麹菌を散布し、それを混ぜたりほぐしたり、温かに管理したむろでまる二昼夜に渡る寝ずの番で様々の手入れをされて出来上がる。今手元にある酒造りの工程を撮した河野裕昭氏の『大吟醸』という写真集に、見事に満開に咲いた麹の拡大写真が収められている。氏によればそれは麹ではなく糀、米の花だと称えられているが、一粒の米から無数に伸びた菌糸の先にびっしりと付いた丸い胞子は正に花そのもの。
 酒造りは主に杜氏の農閑期の冬に行われるが、いささか寒が緩み、雪が淡雪となった季節に、毬のように咲いた麹の花。そして淡雪のようにふんわりとして、手に取ればたちまちちってしまいそうなはかなげな花。

俳句雑誌『風友』令和五年六月号「-風紋集・緑風集選評ー風の宿」磯村光生

(岡田 耕)

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