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エピローグ第21話:濃厚なキス 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖


(トイレで激しく咳き込む音)

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ…」

あいつ吐いとんのか?

大丈夫か~?マーティ~ン!?


(トイレから)

「ダ、ダイジョブデス…」

では「濃厚なキス」の話に戻ろうか…

いよいよ、この映画の最後の秘密を解き明かす時がきた…

・・・・・

映画『スリー・ビルボード』の元ネタとなったチェーホフの小説『狩場の悲劇』では、「濃厚なキス」はこんなふうに描写される。

のちに殺される娘オリガ(父子家庭、19歳)と、その殺人事件の捜査を行った予審判事セルゲイ・ペトローウィチ(ギリシャ風イケメン、実は真犯人)の「濃厚なキス」だ…

オリガの顔が火のように燃えていたところを見ると、きっとわたしのキスは熱烈だったのだろう。その顔には今しがた流した涙の影も見当たらなかった……

中央公論社版(訳:原卓也)より

「顔が火のように燃えていた」って誰かさんみたい(笑)

やめて頂戴…

せやけど「熱烈だったのだろう」っちゅう過去形で流すんかい?

肝心のディープキスはどこや!?

被害者と加害者の間で交わされた「濃厚なキス」は、それ自体は描かれないんだ。

ただ「濃厚なキスをした」という「事実」だけが提示される。

ええ~!?

すべてを投げ捨てて逃げて来たオリガは、もうどこにも行き場が無くて、洞窟の中でひとり泣いていた。

そこに予審判事セルゲイ・ペトローウィチがやって来て、彼女を優しく慰めるんだ。

最初は手にキスをし、次に額にキスし、そして腰に手をまわし抱き寄せた…

「もういいんだ!もういいんだよ!」と自分に言い聞かせるように繰り返しながら…

詳しくは前々回を。

そして予審判事はオリガに熱い口づけをする。

しばらくして予審判事は、放心状態となった彼女を抱きかかえて洞窟から出て来た。

そのとき彼女の顔が火照っていたのは、キスからまだ五分しか経っていなかったからなんだ。

「五分しか経ってない」やのうて「五分も経ってるのに」やろ。

五分後も相手が火照ってるキスは、そうとうなもんやで。

せやろ?花笠君…

・・・・・

「洞窟の中での被害者と加害者による重要なキスが描かれない」ということは、『スリー・ビルボード』でもそのまま応用された。

「行き場を失った19歳の娘」と「地域の治安を守るという責任ある立場にあった男」が、馬小屋で「濃厚なキス」をするんだけど、それは劇中で描かれない…という、まったく同じ設定でね。

「まったく同じ設定」じゃないよ。

「洞窟」と「馬小屋」は全然違う。

同じなんだよ…

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