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感受性マイノリティを差別してはいけない

「形」に囚われる限り、ぼくたちはマイノリティを生み出し続ける

 新しいマイノリティがある。世界中で、あらゆる「マイノリティ」が問題とされている。貧困、部落、発達障害、身体障害、難民、LGBT...あらゆるラベリングが、あらゆる区別を生み、随伴的に差別を生み出す。世界をそんなに分かりやすく分割することなんて難しいのに、隔てることばかりに精を出すんだ。大きなものからくくってカテゴライズすれば、残ったものはマイノリティ。至って自然な演算で、残酷だ。

 ぼくが今もっとも難しいと感じている新たなマイノリティが存在する。題名にあげた通り「感受性マイノリティ」だ。感受性マイノリティは、ある事象に対して一般的に感じる「と思われている」感情や感覚とは異なるものをしばしば受け取る。ほとんどの場合、その感想は理解されない。それどころか「あいつは変なことを言ってる」と村八分に合うのが大方のオチだ。だから、個人的な感性を封じ込め、マイノリティに合わせる外ない。そうして、感受性も平均化されていく。

 「式が参加するべきだ」「将来に役立つことをしたほうがいい」「未来のために今は無理してでもがんばろう」「みんなで協力して頑張った後の達成感は最高だ」「一人はみんなのために、みんなは一人のために」「孤独は不幸だ、助けてあげよう」.........

 あげ出すとキリがないくらい、社会には「一般社会通念」が溢れていて、人々が認識できない初期ルールとしてぼくらを動かしている。暗黙知、とでも言おうか。いつどこで習ったかも忘れたけれど、静かに、強く、ぼくたちの思考と行動を強制する。無自覚な社会のOS。

 しかし「感受性マイノリティ」は、そのような一般社会通念上は真とされている感性を持っていない。「ズレた」感覚を持ってしまったあまり、一度でも口にすれば村八分をくらう。本当は感性にズレなんて存在しないのに。あるいは口にせずとも、ゆっくりと精神が蝕まれていく。カエルを鍋に入れてゆっくり蒸すと温度の上昇に気づかずに死んでいくように、精神はゆっくりと麻痺をしていき、気が付いた頃には取り返しがつかない破綻に至る。感受性は、死ぬんだ。

 何が問題なのか。それは「感受性マジョリティは感受性マイノリティを傷つけていることに無自覚である」ことだ。マイノリティは、マジョリティの感受性が理解できる(一般社会通念的なものなので)が、逆はない。マジョリティは、決してマイノリティの感受性を理解できないし、まさか知らぬ間にマイノリティを殺していることも、マイノリティがマジョリティに合わせていることにも無自覚だ。この構図だと、感受性マイノリティが救われることは決してあり得ない。それが、問題なのだ。マジョリティは、甘えているのだ。気づけ、バカ。

 例えば、足が悪く車椅子生活の男性がいたとする。すると、人々は視覚的に確認できる情報から彼を「身体障害者」とみなし、接する。あるいは、ルワンダからの難民の方も、その色や言葉づかいから判断され、一定の配慮が及ぶ。彼らは、見て確認できるくらい「大変そう」だからだ。もしくはその「大変さ」に「障害者」「難民」などと名前がついているからだ。

 しかし、感受性マイノリティは目に見えない。その人の心の中でどんな感情は芽生え、同時に殺されているのかをマジョリティが知る、あるいは気づく手立てはない。確認できない生きづらさ。分かりづらい生きづらさ。だから、感受性マジョリティは、無意識に感受性マイノリティを殺すのだ。

 あるいは、感受性マイノリティは「気のせい」や「気持ちの問題」という詭弁によって優先順位は下げられる。みんな違う傷があって、誰が救われるべきだなんてことはないのに、感受性マイノリティの傷は「病院には行かず保健室で応急処置だけ」くらいの程度で処理される。そのことが、また傷を深くするんだ。

 もう、形あるものに囚われるのはやめにしないか。世界を分割して単純化して、真理を掴んだかのように軽率に生きるのはやめないか。何も分かっていないのに、分かったふりして強がって生きるのはやめにしないか。当の本人もさほど幸福ではないのにも関わらず、一定のマイノリティを不幸にしているのだから。Lose-Loseなゲーム。感受性マイノリティを差別してはいけない。時代と状況によっては、次はあなたがマイノリティかもしれないのだから。


追伸1 「感受性マイノリティ」だなんて名前をつけて、カテゴライズしたことを許してほしい。過渡期として、告発のためのカテゴライズは必要悪だと思った。あるいは、この「必要悪という言い訳」が現状を呼んでいるかもしれない。

追伸2 感受性マジョリティとマイノリティは、どちらかに属するのではなく、ケースバイケースで可変的でグラデーションのあるものだ、という認識は必要かもしれない。人はそんなに割り切れない。

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