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便利なマジックワード「織込み済み」。

「利上げ」局面の特性としては、シナリオがどんどん前倒しになること

 "リアル" な「金利上昇」。ー 米2年国債@0.30%越え、5年@1.00%越え。|損切丸|note でそう note. したのがほんの4ヶ月前(2021.9.28)。当時は「利上げ」がリアルになった証拠としてシグナルを出したが、実際金利の推移(  標題チャート)を見ると、@0.30%越えが転換点になっていた。当時「織込み済み」だったのは:

 ①:FRBは2022年央に「利上げ」開始 → 年末@0.50%
 ②:従来のFFレートの最高到達点@1.50% → @1.75%(5年後)

 しかし昨日(2/8)時点で米2年国債金利は@1.34%に急伸。正直@0.50~0.60%は買っても良いのではないかと思ったが大甘(苦笑)。それもこれも「ハト」だと思い込んでいた パウエル議長の "心変わり" 。|損切丸|note があからさまだったから。まさか「コウモリ」だったとは…。

 現在は年内3月~11月のFOMCで6回連続@+0.25%「利上げ」を行うことを「織込み済み」2022年内に政策金利は@1.50%まで一直線に上がり、最高到達点も@2%越え ↓ 。

 後講釈で恐縮だが、過去のFRBの「利上げ」を経験した者としては、まあ「普通」である。一度上げ始めたら「目標金利」まで一気に引き上げるのが常道であり、期間の短い債券はどんどん「利上げ」を「織込む」

 そもそも国債為替も、マーケットでは3ヶ月先、6ヶ月先、あるいは1年、3年後の「将来価値」を取引する、と言われる。時価会計で用いられるNPV( Net Present Value)は「将来価値」を現在に引き直した値だ。

 「多数決」で決まる株や為替と違って「金利」は中央銀行が「人為」で政策金利の変更を行うため、より具体的な動きになる。

 ”マーケットは既に「織込み済み」”

 便利なマジックワードではある。だがマーケットでは「将来価値」を取引しているのだから、今の価格は全て「織込み済み」相場が動くのは新たな変数が加わって「将来価値」に変化が生じたからであって、何でもかんでも「織込み済み」を後付けで相場が動く理由にするのは乱暴かつ不正確。この辺りの理解は広まってきており、最近そういう言説はかなり不評だ。

 さはさりとて、やはりウォール街「+2%の利上げは織込み済み」を旗印に蠢いてきている。ここまで値を下げてきたナスダック銘柄やビットコイン、あるいは「金利上昇」「インフレ」に強い銀行、素材・エネルギー関連株の「買い推奨」を掲げてきている。2021年は相当「ボーナス」が良かったようなので「二匹目のドジョウ」狙いなのは明らか。

 だが「金利」の世界では唯一「織込めないもの」がある ー 「現ナマ」の動きと「資金繰り」、つまり「量」「流動性」の部分だ。

 かつての「利上げ」局面と大きく異なるのが、この「量的緩和」解消の部分。銀行で「資金繰り」を担当した立場から言わせると、「将来価値」もNPVも所詮「机上の空論」、つまり「バーチャル」に過ぎないFRBが金利を@0.25%、@0.50%と引き上げていくためには、市場に余っている「現ナマ」を回収していく必要がある

 「資金取引は ”ババ抜き” のようなもの」

 かつてある日銀の方と話をした時に出た表現だが、確かに金利が2%、3%有る時は、資金の「出し手」は「取り手」を見つけて運用しなければ「金利」を得られない。最後に余れば「金利ゼロ」=ジョーカーになってしまうので、「金利」を下げてでも運用しようとする。つまり市場で「現ナマ」が余れば「金利」には「ゼロ引力」がかかる

 今後FRBが政策金利を@1.5%とか@2%とかに引き上げようとすれば、この「量」「流動性」の回収は不可避。これはもう物理的に「目の前で起こる現実」であり「将来価値」もへったくれもない。どんな高度なAIも高速システムも対応は不可能だ。リスクを計測するVAR(Value At Risk、予想最大損失額)においても、この「流動性」だけは「穴」。実際過去の ”クラッシュ” は「流動性不足」で起きている

 筆者の経験で言えば、「欧州通貨危機」でポンド金利が@100%以上に急騰して半年以上の収益が一瞬でぶっ飛んだり(苦笑)、「リーマンショック」「利上げ」もしていないのにドル金利が+5%も+6%も上がってしまったのがその例。潰れそうな会社が駄目と判ってもヤミ金融に飛びつくのと同じで、「流動性」は理屈ではない人の ”気持ち” が深く関わっており、「資金繰り」に窮すれば「金利」などと言っていられなくなる

 「リーマンショック」(2008)~「コロナ危機」(2020)と日米欧の中央銀行は10兆ドルを超える途方もない「現ナマ」をばらまいてきた「正常化」とはこれを元に戻すこと「将来価値」で「金利」の名目値は「織込み済み」でも「現ナマ」回収は3月以降が本番。国債金利対比の「イールドスプレッド」で ”株に買い安心感” もいいが、あくまで「バーチャル」だ。

 今のトレーダー真の意味で「お金が足りない恐怖」を味わった事がない、良くて忘れている(敢えて言えば2020年3月の「コロナショック」で株、国債が同時に急落した場面)。世界を1つの銀行に例えるなら、今後「資金繰り」的に自由に使える「お金」は兆ドル単位で減っていく。市場はそれに耐えうるのか、「強度」が試される。そうすんなりとは行くまい。かなり時間と労力を要するはずで、クライマックスはまだ先である。


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