「仮想通貨」と「国家主権」と「覇権」

 2019年4月から書き始めた「損切丸」のnote。「お金のマニュアル」から始まったわけだが、まだ輪郭がはっきりしなかった「仮想通貨」について多少の受け売りと少ない知識から捻り出して書いたいた。「国家主権」とか「中央銀行」とか少し大袈裟に感じた読者の方もおられたかもしれない。実際知り合いに同じような話をすると、首を傾げる人も少なくなかった。

 しかし、ここへきてメディアを含む世間一般の認識が近づいてきてくれてちょっとほっとしている。筆者は中央銀行、特に日本銀行に近い所で長らく仕事をしてきたので、彼らの考える事はなんとなくわかっているつもりだ。

 ひとつ異論をはさむと、筆者の定義では現在取引が盛んなビットコイン(BTC)などは「通貨」ではない生活や商行為に係る決済に使われるものこそが「通貨」である。ビットコインでアマゾンの買い物は決済できない。

 少数の投資家が高いシェアを握る性質のものであることから、「通貨」というより「商品(Commodity)」に近いものだと思う。もっともシカゴあたりで取引されている Commodity は流動性も高くなっており、現在のBTCのように1%の参加者がシェアの80%以上を占める、というような極端な寡占状態ではない。今のBTCのイメージとしては、昔日本で大暴れした「小豆相場」などに近いものと認識している。

 フェイスブックの手掛ける「LIBRA」については、このところ異論が噴出してきている。まずはアメリカの国会から異議が出ているし、スイス中央銀行(スイスという所がミソ。アンダーグラウンドな役割を取って代わられる恐れか?)などからも懸念が示されている。いずれも様々な利権が絡んでいるのは明らかだ。

 インドの反応が面白い。「LIBRA」による「決済」は認めない方針を打ち出した。「エムベサ」が広く流通しているアフリカを始め、国際通貨を持たない国々にとっては、LIBRAのような新しい流通「通貨」の登場は脅威でしかない。法定通貨を使った国家の金融、財政(含.徴税権)が骨抜きになるおそれがあるからだ。このような拒否反応が相次ぐ可能性が高いが、20億人を超えるユーザーを有するフェイスブックのようなグローバルフラットフォームの動きを果たして止められるのかどうか。

 逆にこれらの「デジタル通貨」の動きを利用しようとする国も出てくるであろう。筆頭は中国。「LIBRA」構想の発表と前後して、中国独自のデジタル通貨構想をぶち上げている。実際スマホを使ったデジタル決済の仕組みなどは、おそらく中国が世界一進んでいると言っても過言ではなかろう(さすが共産国家)。その真の狙いはアメリカからの「覇権」の奪還である。

 「米中貿易戦争」においては関税ばかりが引き合いに出されるが、実は「通貨主権」の問題も大きい。人民元について、人為的な通貨安誘導である、と度々アメリカに攻撃されアキレス腱の一つとなっている。だから、国際的な決済制度が現在のドル中心から「仮想通貨」になった場合のインパクトは計り知れない。特に安くて良いものを作る自身がある国々にとっては、世界中同じ「通貨」で商品が売買されることは願ってもないだ。

 そこで「仮想通貨の母国」と認識され、金融危機などを他国に先駆けて経験し、金融や通貨に関する法制度や決済インフラなどを整理してきた日本。実は新しい「通貨」導入の条件が最も揃っていると筆者は確信している。アメリカとの同盟関係には気を配らなければならないが、「円高」懸念が常に付きまとう日本にとって「LIBRA」のような「仮想通貨」が主流になるメリットは大きい。商品の質で勝負できる、という意味ではドイツなども同じ立場かもしれない。

 「一物一価格」は我々消費者にとってもメリットが大きい。逆に為替トレーダーや商社はその存在意義を問われる事態になる懸念もある。今後、様々な利権 -「国家主権」、「世界覇権」、etc. etc. - を巡って戦いが繰り広げられていくだろう。その中で、これまでのような友好国や同盟関係も根本から見直す必然性に迫られるかもしれない。

 私見だが「仮想通貨」のコントロールは「量的金融」の枠組みになる可能性が高いと思っている。つまり物価の変動に合わせて供給量をコントロールするやり方だ。リーマンショック後、量的金融緩和(Quantitative Easing)として主要国で一定の成果を上げてきているが、仮想通貨では「金利」がなくなる分、実はシンプルで手掛けやすくなるかもしれない。

 これまでも何回か主張してきたが、現在世界中で進む低金利化は、従来のように単純に景気動向や金融政策を反映するだけのものではなく、既存の法定通貨の価値の減少と共に、金利のない「仮想通貨」本位制への流れの中にあると位置づけている。国家の借金が膨大に膨らんでしまっている今、法定通貨の価値が毀損されて困る国はほとんどないのだから。一部騒いでいる「逆イールド」についても筆者は従来とは全く違う見方をしている。

 日本には過去の金融危機などから決済制度など積み上げたノウハウがあるので、ここはうまくこの流れを利用してほしいものだ。うまくいけばフロントランナーになれるかもしれない。「日はまた昇る」???  さてさて。

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