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品性は1日にして成らず

滋賀への旅行の帰り、どこかに寄りたいねと思い付きである場所へ足を伸ばした。琵琶湖の南側、石山を更に下った山の中にある、「叶匠壽庵 寿長生の郷」である。

寿長生の郷(すないのさと)は、叶匠壽庵が運営している大自然の中の和菓子屋さん。ベーカリーやカフェ、お茶室なども併設している。広大な敷地は、6万3千坪もあるらしい。

藁ぶき屋根の案内所での呈茶に始まり、品の良いおばあちゃん家に遊びに来たようだった。

至るところに山の草花を活けてあったり、打ち水をしてあったりと、まるで別世界。携帯も圏外で、いっそ清々しい。

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子連れでの旅行となると、いつもはテーマパークやプールなどの分かりやすい場所を探して出かけている。それはそれで楽しいのだけど、なんだか人工の添加物みたいだな、と薄い罪悪感がある。

濃い味ばかり食べていると、お出汁の滋味深い味わいが楽しめない。旅行=テーマパーク三昧では、いつか草原で楽しめない気がして。

(私の育児方針は、たとえ異国の何もない草原であっても、人生を楽しめる人・身ひとつで、幸せを感じられる人を育てること、なのである。そして私もそうなりたい)

平日の瞬殺飯は味覇頼みでも、お雑煮や茶わん蒸しはきちんと出汁を取る。旅行も、たまには子ども向きではない場所で楽しみたいと思っていた。

今回は、前日も琵琶湖だったから、よし、このままお出汁のような旅にしよう、と思った。

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娘は和菓子とお抹茶が大好きで、息子もかき氷があると聞いて色めきたっていた。冒頭の藁ぶき屋根の家で、地図をもらい、砂利道を歩く。そんなに回る場所はないのだが、敷地が広いのでまるで探検のよう。

むっと立ち込める木々の匂いも、シオカラトンボの青も、ああ夏だ!という風情だ。木の椅子のひんやりとした感触や、ざくざくと踏みしめる葉の音が心地良い。

写真を撮り、そっと触り、匂いを嗅ぎながら進む。これぞ五感を使った散歩だと、心が満たされる。夫は虫の種類をよく知っていて、田舎育ちの知性を存分にアピールしている。

やがてたどり着いた美しい茶室には、それはもう品の良い女性が出迎えてくれた。ずんだ餡の葛餅に娘が目を丸くし、苦いお抹茶を幸せそうにすする。

さらに進み、今度は茶房であんみつと桃のかき氷を分け合う。桃のかき氷には、アールグレイのシロップをかけて食べるらしい。控えめな甘さなのに、子ども達はとろけるような顔をしている。

だが、そんな品の良い場所で五感をフル活用しようとも、品性はそんなに簡単には磨かれない。

梅林の青々とした並木道を息子と歩いていると、黄色の梅の実が地面に落ちていた。拾って匂いを嗅いでみる。桃のような甘い匂い。息子はぱあっと顔を明るくして「これ、おうちにもってかえろう!」と言った。

でも、落ちた梅だから半分つぶれてぐしゅぐしゅだし、持って帰っても腐っていくよ、と私はそこに置いていった。息子も駄々をこねることは無かったが、「ふうん」とつまらなそうにしている。

私はもう一度彼に笑ってほしくて、さっき梅をつまんでいた人差し指と親指を息子の鼻に近づけて「ねえ、ママの指がまだ桃の匂いだよ」と言った。息子はそれを素直に嗅ぎ、再びぱあっと明るくなると、大きな声で前方にいる夫に言った。

「ねえパパ!ママのかんちょうがもものにおいだよー!!」

どうして指イコール浣腸なんだろう。浣腸したこともないし、今だって浣腸のポーズもしていない。そもそも彼はいつ浣腸という言葉を覚えたのだろう。たくさんの疑問が浮かびながら、私は膝から崩れ落ちた。

ちなみに、川沿いのガマの穂を見て、「ウインナーがなってるみたいだね」
と言ったら、「ちがうよ〇〇〇みたいだよ」とも言われた。
※〇〇〇に何が入るかは、あなたの品性にお任せします

まあでも、楽しかったからよし。
たまにはこんな風にお出汁のような旅もしよう。

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#子育て #育児  

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