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理念と実践(7)大人たちの責任「現代人物論 池田大作」小林正巳著(昭和44年9月25日)第24回

中国問題への提言
 平和に徹する池田の姿勢は、四十三年の創価学会学生部総会における中国問題に関する講演にもあらわれている。一万数千人の大学生会員代表を集めたこの会合で、池田は訴えた。
 「いかなる国も、自国のために他国を犠牲にすることは絶対許されない。( 略)私どもの実践と闘争こそ、過去数千年にわたる悪夢の連鎖の歴史に終止符を打つ、真実の生命の世紀への本流であることを自覚しよう」と。
その立場から、池田は「中国を国際社会に復帰させない限り、アジア、世界の平和は実現できない」として、日中国交回復の必要性を強調した。具体的には、日中首脳会談の提唱、中共の承認、中国の国連加盟の促進、吉田書簡の廃棄などである。
 全体で二万字近いこの講演は、結論の骨子だけが、当時の新聞などで報道されたが、私には結論よりもむしろ、この提案の前段で述べた部分にポイントがあるように思われた。
 「日中両国の間には、まだあの戦争の傷跡は消えておりません。しかし、戦後すでに二十三年、今日ここに集まった諸君達のほとんどは、あの戦争には直接関係のない世代であります。中国で活躍している紅衛兵などの青少年も、やはり戦争とは無関係でありましょう。そういう未来の諸君達にまで、かつての戦争の傷を重荷として残すようなことがあっては断じてならない」

新世代への期待
 池田の指摘しているように、いま二十二、三歳の青年達にとって、日本と中国が交戦状態にあったのは、彼らが生まれる以前のことでまったく関係ない。戦前に生まれたものを含めて、だいたい昭和の世代のほとんどが、直接武器をとって中国と戦争した体験をもっていない。しかも、昭和生まれが日本の人口の七割を占めるほどになった今日も,歴史的文化的、地理的に近い両国が、いまだに国交がないばかりか、 仮想敵国のような状態におかれている現実、たとえば、隣りに住む親同士が仲違いしたため、その争いに無関係だった子供たちまでが、親のお仕着せで不仲を強いられているような状態について、その矛盾をついたものといえる 。
 さらに池田は最近の「人間革命」のなかで 、対中国政策について提言している。つまり、日本国内で廃棄や段階的解消だといくら安保条約をつついてみたところで米の極東政策の変わらない限り事態は変わらない。日本の自主性を貫き血路をひらく道はただ一つ、万難を排してまず中国との国交を回復ずることだ。それによって国際環境は一変し、日米安保条約も軍事基地もともに色あせたものになるに違いない。人はそれを非現実的というかも知れないが、誰かが率先して平和と友好のきずなを結ぶ努力をはじめなければアジアの民衆の安泰はあり得ないという趣旨である。
 もちろん、これは外交に匝接たずさわらないものの主張ではあっても、それは政治家を含む数百万の弟子たちの胸にしっかり刻みつけられる点に重味があるといえよう。
 日本がいまだに、中国との国交を回復し得ない要因は日本のおかれている国際環境、とりわけ日米関係、日中両国の体制の相違、終戦のとき中国大陸の支配権を握っていた台湾政権との関係などに起因していることも事実だ。が同時に現状でなにができるかに終始し てきた日本の外交姿勢に原因があったことも確かだろう。これについて池田は、「つぎの世代に生きる青年を平和に生かすためには、過去に戦争の過ちを犯してしまった大人たちが、自分たちの責任において解決すべき問題だ。そう考えれば自ら解けることだ」という。要するに、古い世代から新しい世代への円滑な引きつぎが行なわれるべきことを強調するのだが、そうした池田の発想は、小説「人間革命」のつぎの一節にも共通するものがある。
 「いつの時代でも、いかなる国でも、年配者が真に平等に、子供等の成長と、幸福を願ったなら、戦争など起る道理がない。最も単純にして、しかも偉大な哲学といえる」
 「この社会、この世界は、決して大人だけのものではない。次にゆずるべき青年達の社会であり、世界であることを、真摯に自覚すべきである」
 「やがて、二十一世紀の輝かしい歴史の舞台に登場するのは、前途洋々たる青年である。すでに年をとった政治家たちは、危機に瀕した世界の現状のなかにあって、ともかく短い余生をつつがなく終えればよいと思っているかも知れない。だが、未来の春秋に富む若い世代の前途は断じて塞いではならないのだ」
 それはまた、かつての戦争当時の支配層がいまだに陰に陽に日本の政治に 影響力をおよぼしていることに対する池田の不信感の表われともいえるだろう。

曇りがち青春の空
 最近、池田が高校二年生のために書いた「青春の空」と題する随筆がある。いまの高校二年にあたる旧制中学の高学年のころの想い出に触れたものだ。
 そのなかで、池田は終戦直後のひどい生活のなかにも、平和をとりもどして夢と希望に胸をふくらませた青春を空の色にたとえながら、今日の日本外交への懸念を示している。
 「いま時代が変って、生活経済は豊かになったが、私の高校時代の、澄んだ青い空はどこかへ行ったようである。諸君の青春の空はドンヨリ曇ってスモッグに悩ませられているように思える。いったいなにがスモッグなのであろう。現在の日本の社会は残念なことに、かつて戦争を指導した連中の残党が、いつかまた君臨している。絶対平和の青空を二十一世紀に 望むからには、諸君はこれからのスモッグに悩ませられてはならぬと思う」

参考:「日中国交正常化提言(創価学会第11回学生部総会)1968年9月8日」のスピーチはこちら。1時間15分にわたって,烈々たる提言をされている。
https://www.youtube.com/watch?v=mAGbG2rvUgA