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No.371 科学、する?

 勤務先は、中学3年生に「卒業研究」を課し、発表会(2月)で全員が発表する学校です。パソコンでパワーポイントを駆使しながらのプレゼンテーションを保護者を招いて行います。発表後は「卒業研究冊子」が作成され、卒業時に記念品として配布されます。さて、今年の進捗状況は?

 毎月、調査と実験と分析を踏まえて研究成果をとりまとめ、指導教官と打合せをしながら次の課題を決め、内容を深めて行きます。実験や観察の結果に一喜一憂する姿を見るのも又、楽しいものです。

 さて、日本人としてノーベル物理学賞を受賞した2人目(1人目は湯川秀樹博士)となったのが、朝永振一郎博士(1906年~1979年)です。その朝永博士が、「科学」について、こんな言葉を残しています。
 「ふしぎだと思うこと
  これが科学の芽です。

  よく観察してたしかめ
  そして考えること
  これが科学の茎です。

  そうして最後に
  なぞがとける
  これが科学の花です。」

 「科学」することについて説いたその言葉は、端的で分かり易く示唆に富んでいます。なるほど、卒研の筋道もそのようなものだと教えられます。
 「よく観察してたしかめ、そして考えること」
博士は謎解きのような面白さも忘れずに、日々の研究にいそしまれたのでしょう。生徒達にはその思いを受け継いで、強い茎の科学の花をさかせて欲しいものです。

 2021年のノーベル物理学賞(3人)に、米プリンストン大学の真鍋淑郎上席研究員(90歳だとか)が選出されました。「地球全体の気候をコンピュータ上で再現して予測する数値モデルを開発し、大気中の二酸化炭素濃度が気候に与える影響を初めて明らかにした」ことの功績によるものだそうです。

 これまでノーベル物理学賞の受賞の対象となっていたのは、天文学と宇宙物理学や原子や分子、素粒子物理などがほとんどで、気象や気候の研究分野をノーベル物理学賞の対象としたのは初めてだそうです。それだけに、ご本人も、
 「気候変動で物理学賞をもらうとは思っていなかったので、びっくりしています。また非常に光栄に思っています。好奇心ではじめた研究でした。本当におもしろい研究というのは、好奇心から出るのが大事です」
とTVで話しておられました。

 先日、米国の首都ワシントンにある科学アカデミーでメダルと賞状が授与されました。受賞理由として、「気候科学の基礎を築き、地球温暖化対策の後押しになった業績」が高く評価されたそうです。式典後に明るい笑顔で真鍋先生はおっしゃいました。
 「大変ハッピーです。この分野は面白い。日本の若い人にももっと来てほしい」
その呼びかけに応える若者の登場を心待ちにしています。科学、する?

 さて、毎日のように気候変動をコンピュータで解析して、今後を予測するシステムは、気象庁を先頭に、世界中の天気予報で採用されており、我々も、毎日その成果のお世話になっています。先の朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」も気象予報士という仕事を通して人々の役に立ちたいという主人公・永浦百音の青春記でしたが、真鍋先生の先駆から受けた恩恵は、彼女の生き方にさぞ大きな力を与えてくれたことでしょう。こういう形で、点が線になる。私は、不思議なめぐり逢いの歴史の証人になれた気分でいます。

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