求ム!〈元カノ会談〉~たまたま集まった女子会のメンバーがみんな僕の元カノだった〜


死後の名声を望んだ芸術家は、果たしてどれくらいいたのだろうか。

生涯を通して自分の専門分野と真摯に向き合ってきたのだから、死を迎える前に評価を集める機会を作ってあげてほしい。

記事タイトルに似つかわしくない大それた導入をこの記事の論点(→自分)に置き換えると、こうなる。

生涯を通して自分の交際相手と真摯に付き合ってきたのだから、(恋愛における)死を迎える前に評価を集める機会を作ってほしい。

そう。僕が求めているのは 〈元カノ会談〉 である。

僕(アラサー晩年の男子)の元カノたちが一堂に会して、ほかでもなく僕についてあれこれいろいろ語り合ってもらうミーティングだ。

【しれっと叶えられそうに見えて実際はほぼほぼ叶えられないもの】ランキングの第1位かもしれないとひそかに思い続けている。

なにより実現させるのが困難の極みだ。元カノたちを漏らさず招集することを想像するだけで気が遠くなる。自分で一人ひとり連絡するよりも共通の知人/友人を介して別々に誘い合わせるほうが得策かもしれない。それでもみんなの予定を合わせて同じ場所に集めるのは大変だし、予定が合っても急用が入るかもしれない。みんなそんなひまじゃない。今やそれぞれ別々の人生を送っているのだ。旦那さんがいるだろうし、子供ちゃんもいるだろう。
奇蹟的にフルキャスティングできたとしても、それは企画内容を伏せたからこそ集められただけの話で、企画主旨に対して参加者全員「満場一致」の賛同を得た上で会談を催すなんてのは、夢のまた夢のそのまた夢だろう。

いざ集まったところで、自分が『朝まで生テレビ』の田原総一朗ばりに会談のMCを務めて場を回すのは彼女たちにとって話しにくさと気持ち悪さしかないだろう。そうかといって、会談に誘導する案内アナウンスを吹き込んだ録音テープと《キュンとした話》《イラっとした話》なんかのトークテーマを書いたフリップを用意しておくだけでは、会談が首尾よく進行するはずもない。それこそ巷で流行りの〈謎解き脱出ゲーム〉のように集まった元カノたちをひとところに閉じ込めて、「解放」を条件に会談を促すくらいの荒業が必要かもしれない。
…いや、違った。僕は彼女たちに「嫌々」とか「渋々」といったスタンスで会談に臨んでほしくなどないのだ。
あくまで朗らかに、「たまたま集まった女子会のメンバーがみんな僕の元カノだった」くらいのテンションで催されてほしい。(↑これラノベのタイトルみたいでいいね!副題にしようっと)。
できることなら、それぞれ印象的なエピソードをひとつずつくらいはシェアしていってもらいたいところだが…こうやってアルコールならぬアイディール(→理想)濃度が高い意気で膨らます想像は妄想をはるか超えて夢想の域に達してしまう。

独力で主催するのが困難だとしたら、仰ぐべきは第三者の協力だ。
〈元カノ会談〉の実現にあたって現実的で実践的な方法論としては、やはりテレビ番組やYouTubeチャンネルなどの嘘企画をこしらえてもらうことだろうか。それなら彼女たちもそれなりに流されてくれて一応の形にはなるような気もする。
でもでも、またわがままを言うようでなんだけど、(共通の友人だけならまだしも)第三者が介入すると、《僕と元カノたちの/僕と元カノたちによる/僕と元カノたちのための/会談》ではなくなってしまう気がするし、プロデューサーではなく総合オーガナイザー(→主宰)として君臨できぬまま自分の手から離してしまった時点で、えてしてイメージ通りにはできなくなるんだ。

うん。そう。わかってる。
実現しないとわかってるからこそここに記しているようなところもある。

「実現」がくるりと転がってひっくり返った「現実」を二度見くらいしてしまったので、ここでいったん逃避する。

出し抜けにぶっちゃけると、僕は自分のことが好きだ。大好きだ。
そして自分が大好きな自分のことを、他人にも好きになってほしかった。
とはいえ不特定大多数の人間に好かれたい気持ちは毛頭なくて、自分が好意を抱く特定極少数の人間のうち自分と深く関わってくれる人が好きになってくれさえすればいい。そう思いながら三十余年の人生を生きてきた。

そんな自分にとっての「自分が好意を抱いて深く関わってきた人物」を振り返ってみると、困ったことに、その時々の恋人たちがほぼ大勢を占めてしまっていたのだ。

今も付き合いのある昔ながらの友人とは昔のままの関係性が続いているのだとするなら、元カノたちだけが(大人になってからの)自分の人となりや本性を知ってくれていることになる。

はい。太文字いきます。

自分のことを誰よりもよくわかってくれている人たちが、一度も自分についての話を共有してくれないなんて、こんな勿体ないことはないんじゃないだろうか?


「別れてしまったら何も通じ合わなくなることも含め、それが男女の機微ってものよ」
とどこかのスナックのママさんが色っぽいシナを作ってたしなめてくれたとしても、「男ってのはいつまでもガキのまんまなんさ」という『男はつらいよ』の寅さんが言いそうなセリフをお返しして、この記事ではなおも心を強く持って突っ走りたい。

巷でよく云われる【女の恋愛は上書き保存】説も重々承知している。彼女たちの中にもう僕のファイルなどとっくの昔になくなっている。でも、彼女たちのデスクトップ上からは消えていても、僕と一緒に過ごした時間の欠片が彼女たちのハードディスクの中にはしっかりと残ってるはずなのだ。

そして彼女たちに〈元カノ会談〉で掬い上げてほしいのは、一緒に映った写真とかお互いに贈った手紙とかそういう記録として残りがちな出来事ではなく、ふとした時に何の脈絡もないままぽっと浮かんでくるようなちりぢりになった記憶の断片のほうなのである。

と、まあ、ここまでくどくどと御託を並べ立ててきたけど、本当に言いたいことはきっと違う。

白状しよう。


僕は、元カノたちのことが好きなままなのだ。

もちろん(恋愛対象としてではなく)、「人間」として。
なにしろみんな聡明でユーモア(→機知)に富んだ人たちばかりだった。

はい太文字。

それって実は、なによりも誇るべきことなんじゃないだろうか?

人生で何かを成し遂げたと言えるようなことはまだひとつもないけれど、今まで付き合ってきた女性はみんな面白くてチャーミングな子ばっかりだったよ、と胸を張ることはできる。

彼女たちなら、何かの拍子で元カノ同士として顔を合わせる機会があったとしても、僕のことを二、三のエピソードとともに語ってオチをつけるくらいの懐の深さも見せてくれるだろう。一方的にそう信じたいように映るかもしれないけど、僕は元カノたちのそういうところが好きだったのだ。

それを裏付ける説得力を示すとすれば、「〈元カノ会談〉を催したい」などとキテレツなことを言い出した自分はもしかすると頭のネジの外れた変人なのかもしれないが、その変人と付き合ってくれたのが彼女たちなのである。
こんな調子ですぐヘンテコなことを言い出す僕に対して、彼女たちはいつだって笑って受け入れてくれるだけでなく食い気味にノっかってくれたのだ。

そんな彼女たちが同じ空間にそろって僕のことをああだのこうだの言い合ってくれるだけで、たとえその会が悪口陰口からヒートアップしての罵詈雑言に終始しようとも、自分の半生は無条件に肯定される。なんだったら短所や欠点でひとしきり盛り上がってくれるほうがむしろ、僕という存在を肯定しているようにも見えかねない男女関係よろしき趣きも味わえそうだ。

イイところもダメなところも共有してほしいし、それこそハードディスクの中に残っていた思い出の切れ端をつまみ上げてつなぎ合わせるような感じでもいい。そこで交わされる話が、振り返った思い出が、元カノたちの間に浮かんだ心象風景が、僕という人間をなによりありありと表すのだ。

そして僕は何があっても彼女たちのことが好きなままだから、願わくば彼女たちも僕のことを好きなままでいてくれるきっかけになったら最高だ。

これってのはエゴだろうか??

自分の恋した人に自分への(恋愛感情に満たない)好意を持ったままでいてもらいたいと思うのは、何もおかしいことではないんじゃないだろうか!?
(これは恥ずかしいから太文字にはしないでおく)

…ここまで語ってきた〈元カノ会談〉を成立させるにあたって必要となる事実というか条件がひとつ、ある。
それは、すべてが終わった恋であること。
誰とも個別に連絡を取っておらず、互いに未練も抱いていないフラットな状態だからこそ発案できるし成立しうる企画であって、後腐れがすでにあったりその後に残しかねなかったりするならば妄想するにも値しなくなる。

終わった恋は、そりゃ終わった直後は思い出したくもなかったかもしれないけど、喜怒哀楽をたっぷり味わった恋をゴックンと消化できたら人生にとって最高の栄養になるはずで、その栄養の効き目を示し合わせて何度でも味わい直せるサプリメントとして結晶化させるのが〈元カノ会談〉なのだ!

変な喩えでうまいことまとめ損なったので最後にもう一度繰り返すが、〈元カノ会談〉はあくまで妄想を超えた夢想に近い願望であって、実現できるとは思っていない。「かとう、動きます」と実現に向けて働きかけていくつもりもないし、これを読んだ第三者が面白がって企画してくれないかなー、なんて期待や希望的予測もまったく抱いていない。

「わざわざ思い出す必要もない過去を蒸し返そうとすんじゃねーよ」なる罵倒や「ハードディスクの思い出のほうが重めで面倒だろ」という至極真っ当なご意見や、もっと単純に「綺麗事の絵空事ばっかり並べてんなし(女はもっとシビアなんだよ)!」と理想論をのたまうことに過敏な人たちには一蹴されてしまいそうだけど、でも、「浮気現場で鉢合わせた女性同士が仲良くなった」なんていう出来事も実際に観測されてるんだし、この世のどこかではピースフルな〈元カノ会談〉が実際に催されていたりするのかもしれない。

あ、こんなことを言い出しているからには、もし元カノ主催の〈元カレ会談〉に召集された日には、もちろん張り切って参加するつもりだ。むしろ行きたい。なんなら〈元カレ会談〉のほうが実現しやすそうだし元カノの元カレたちと交流して彼らとの共通項や相違点を肌で感じたい!
僕には彼らに対してリスペクトを示すに値する信頼感がある。
なんたって、同じ女性に恋した男たちなんだから。

あれ、でも待てよ?
自分が参加するところを想像してみるに、ひょっとすると巷で流行りの〈オンライン飲み会〉とやらならもっと簡単に実現できそうかも!?

求ム!〈オンライン元カノ飲み会談〉!!

「サ」ポートに「シ」ェアと「ス」キ…『「セ」ンスが爆発してますね』という「ソ」ウルフルなリアクションまでお褒めの"サシスセソ"ください!