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働くことは、許すこと。

最近、都合の良い夢ばかりを見た。
とてもとても都合が良い。

夢には、疎遠になった昔の友だちや、いまは亡くなってしまったサッカー選手が出てくる。
みんな、自分が後悔している出来事に絡んでいる人たちだ。

その人たちは、夢の中で僕に優しくしてくれる。
心の中で後ろめたさを感じながら、とても楽しく、笑いながら話をする。
そして最終的には、こう言ってくれる。

「あの時のことは仕方ないよ。
 君の気持ち、すごくよく分かるよ」

相手がもう気にしていないことがわかってホッとしたところで、だいたい目が覚める。
この夢を見たあとはいつも、何も解決していない現実に少しだけガッカリするけれど、不思議とスッキリした気持ちになる。

潜在意識は、夢でメッセージを送ると聞いたことがある。
あいかわらず過去をずるずると引きずりながらも、少しずつ自分のことを許し始めているということなのだろうか。

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今年、僕は仕事でコンペにひたすら負け続けた。
出ても出ても、負けた。
ほぼ取れると確信していたものも、背伸びしてチャレンジしたものも、全て負けた。
この一年を振り返って、取れた案件数を数えると、悲しくなる。
昨年より、売り上げた金額はがくんと下がってしまった。

イチ営業としても、イチプランナーとしても、納得できる結果が出ない状況は、どんどん自分を追い込んでしまっていたらしい。
蕁麻疹が出るようになった。ほぼ毎日出るような時期もあった。
自分と対照的に、一緒のチームの仲間がコンペで勝った報を社内チャットで見ると、気持ちがさらに沈む。
いつも一緒に頑張っている同僚が報われることは嬉しいことだけど、余裕がなくなってた。

自信は、どんどん萎んだ。
毎日自分がやっていることに意味があるかもわからないし、積み上がっている実感もない。
偉そうに人に指示したり意見を言ったりする立場ではないという意識が大きくなった結果、取引先や同僚との会話を僕は避け始めた。
電話も取りたくない、MTGも少しビクビクする。
だって、見解を求められても、役に立てる自信がない。
営業としても、プランナーとしても、消費者としても、うまく答えられないんじゃないか。

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びくびくしている様子を見かねてか、ある日の夜、上司にご飯に誘われた。

僕は、上司にけっこうカチンときていた。
なぜなら僕が携わるほぼ全ての仕事に、上司は全く介入しない。
自分で判断しないといけないし、困った時は相談してもほぼいつも機嫌が悪くて、気分が悪くなる。

最初は大人らしく談笑しながらも、酒が入っていくうちに徐々に不満が漏れていった。

あの時のトラブルはもっと助けて欲しかった。休みがもっと欲しい。徹夜で企画書を書くのがしんどい。なんでもかんでも自分で判断しないといけないのが辛い。自信がない。

真剣な顔で聞いていた上司は、けっこう的外れな受け答えをしてきて、イライラした。
自分の武勇伝を話しはじめてムカついた。
いまそんなことは聞きたくないのだ。
価値観が大きくズレていることも感じて、虚しくなった。

無駄な時間だったなと帰りの支度をしているときに、会計を済ませた上司がポツリと言った。
「オレも20年以上この仕事やってるけど、自信ないよ」
「想像するしかない。それ以上のことはできないし、だからよく間違えるよ」
かけて欲しかった類の言葉を、意識してか無意識にか、なんだかんだで最後の最後に言う上司にイラっとしながらも、大事に覚えることにした。

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帰りの電車で、言葉を反芻する。
自信満々でお客さんにもっともらしい話をして、偉そうにしている上司ですらそうなのか。
だったら僕もなんでも完璧にできるわけがないし、そういうもんだと思った方がいい。
歯を食いしばって、なんとかしようとしすぎていた。
もっと、楽にしよう。

年末になってそう思えるようになってから、自分を許せるようになってから、夢の内容はかなり都合が良くなった。
それまでは、ひたすら追い込まれた夢、途中で目覚めることもあったけど。
なぜか、今まで交流があった、後ろめたい思い出のある人間たちが日替わりで登場して、僕を褒めては慰める。
蕁麻疹もあまり出なくなってきた。

できないことはそれはそれで受け入れるけど、正解がないなかで頑張った結果だから、仕方がないことだ。
そんな中でできていることもある。それはすごい。
環とはじめたこの文章も、これで2人合わせて30本目だ。
三日坊主の自分がここまで続けられたのは嬉しいことだし、自信に値する。
そうやって、一つずつ積み上げていくってことなんだろう。

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来年も、どんなことがあるかはわからない。
きっと結果がでなくて悩んだり、うまくいかなくて落ち込んだりすることも多いだろう。
でもそんな自分を受け入れよう。
うまくいったときは、いつもより褒めてやろう。

僕のような頭の固い人間にとって働くのに大切なことは、自分を許すことだ。
それは働くだけではなく、生きていく上でも。


12/26以降の年末ソング / [Alexandros]

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@YFTheater
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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