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『とけるをすくう』


溶ける、解ける、融ける


「 … 」

パフェグラスから溢れる白い液体を、無言で拭う喫茶店のおばちゃん。

止まらない、止まらない。

もうどうしようもないと言わんばかりに、ゴトッと、鈍い音で置かれるパフェ。

「今、おしぼり持ってきますから」

食べることを急かすようにどんどん溶けていく。それを夢中で掬って食べる君。パフェにとっては救世主かもしれないな、なんて思う。

掬う、救う、透くう


僕の街にしては、暑い日だったと思う。
それでも店内は空調が効いていて、どうして君のパフェだけがそんなに溶けちゃうのか全く理解できなかった。だって、僕の目の前にあるプリンアラモードに添えられたバニラアイスは、頭がしゃりしゃりのままだったから。

「写真、撮りたかったのに」

すっかり空になったグラスに視線を落として、君が拗ねたように言うもんだから、ちょっぴり可哀想で、それでいて可愛くて、笑ってしまった。

僕のプリンアラモード。君がみつめる。
ひとくち掬って渡した。君が

「え、いいの?私、欲しそうな顔、してた?」

と言いながら、食べる。
さっきまでの勢いはどこへ行ったのだろう。
ゆっくりゆっくり飲み込まれていくプリンとバニラアイス、それから果物。

「もう大丈夫。ありがとう。美味しいね」



「あれ、ヨーグルトだった」

店を出てから君は僕にそう言った。
暑さのせいじゃあなかったんだな、と思った。
火照った君のせいでもなかったんだな、とも。

その場で言えばいいものを、君は、
あとになって伝えてくることがある。

僕の気持ちを見透かすように、教えてくれる。

結ばれたものがほぐれるように、君はこっそり教えてくれる。

そんなところが嫌で、嫌で、嫌で、好き。
きっと目の前のものを見つめすぎては、ぐるぐると考えてしまう僕のことを放っておいているのだと思う。

感じることも思うこともたくさんあるのに、瞬時にそれを言葉にすることができない。こころや脳内から言葉までの距離って、僕が思うよりもさらに遠いのかもしれない。その距離が遠ければ遠い程時間をかけて言葉にしようと思って、その場では「言えない」のだと思う。

「言わない」のだと思う。

君と居る時は、やけに脳内が騒がしい

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