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爽やかなテレビ(短編小説30)

かなこがSNSを見ていると「自分で自分を大切にする」とか「手放す」「癒す」とか、何やらアグレッシブなワードがたくさん並んでいるのを見る。

かなこも数年前まではそういった概念が興味深くて、色々学んでいたし、実践もしていたけれど、いくらやっても、どうしても手放せないものも、どうしても癒せないものもあったから、最近はなんだか、気疲れしていた。

ふとテレビをつけてみると、綺麗な女優さんがインタビューを受けていた。自分らしさってなんだと思いますか?といった内容で、人前でふらっと聞かれて、女優という、何かを演じる立場にある人がふらっと答えるにしては、随分と深い問いだなあ、とかなこは思った。

「そうですね、どうしてもどうしても、そうなっちゃうこと、やめられないこと、手放せないこと。そういうものが自分らしさだと思います。仕事の時にも、あります。どんなに演じても、どんなに隠しても、消えないもの。それは一見、人から見たら、そんなのダメだよって、言われてしまう自分らしさなこともあるかもしれません、遅刻魔とか(笑)でも、どうしてもどうしてもそうなっちゃうのなら、それはもはや、その人らしさとして、社会の方が受け入れるべきことなのだと感じます。」

ーどうしてもどうしても、そうなっちゃうことー

かなこは、自分の中にも、それはある、と思った。どうしても癒えないもの、どうしても手放せないもの。

ーなんだ、自分らしさなんて、ずっと前から、あったんだー

「なるほど、でも、遅刻されまくったらみんな困りますよねえ?」

インタビューワーがそんな質問を重ねる。

「そうですね(笑)でも、だからこそ、スケジュール管理が得意な人の個性が生きてくるのだと思います。みんな、できないことをできないままにしないから、できる人もできるを発揮できなくて迷惑してるんです(笑)」

「できないことをできるようにしちゃうのは、自分らしく生きたい社会にとって、迷惑なんですねw」

「そうですよー(笑)みんな、そんなに完璧じゃないんで、勘弁してください〜」

かなこは、賑やかで軽やかなテレビを見ながら、心の中に風が吹くのをかんじていた。

おしまい

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