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初めてクロマニヨンズのライブに行った話

時は流れ、私は大学生になっていた。国立大学には進学できなかったものの、どうにか地元仙台の私立大学に滑り込むことができた。
大学では軽音楽のサークルに入部し、来る日も来る日もギターを弾いていた。
その7月、とうとう私はクロマニヨンズのライブに行くことが叶った。
初めてお金を払ってプロのライブを観に行く。高揚感と緊張感で肺が押しつぶされそうだった。
土曜授業を終え、すぐさま仙台Rensaを目指した。仙台Rensaは、キャパ700人を擁する仙台有数のライブハウスである。そんな規模のライブハウスに行くのは初めてだったので、余計に胸が高鳴った。会場に着いたのは物品販売が始まる40分も前だった。

物品販売は、Rensaが入っているビルの屋上だった。エレベーターで7階を通ったとき、かすかにバスドラムとベースの音が聞こえた。もう、リハをしているのだ…。
屋上で黒いツアーTシャツを購入し、急いで近くの公園のトイレで着替えた。
公園から戻り、ビルの前でしばらく待っていると、ツアーTシャツを着た係の方がプラカードを持って出てきた。
「ザ・クロマニヨンズ イエティ対クロマニヨンのライブに入場される方はこちらです〜。」
会場のある7階まで、長い列をなして登っていく。1フロア上がるたびに、いろんなことを思い出していた。
中学生のとき、給食の時間に聴いた「少年の詩」、高校生の頃、ベランダでみんなで歌った「日曜日よりの使者」、震災のとき、炊き出しを終えて電気の点かない家の中でハーモニカで吹いた「GO GOヘドロマン」、そして震災の後何度も何度もテレビで聴いた「ナンバーワン野郎」

私の青春の思い出は、彼らの曲とともにあった。そんな彼らにいよいよ会えるのだ。眼の前で演奏を聴けるのだ…
そんなことを思って前の人に続いて進んでいると、突然パッと湿っぽい冷気に迎えられた。そして、顔を上げるとまず目に飛び込んできたのは、ステージ上のカツジのパールのドラムセットだった。わらわらと他のお客さんの間を抜けて前へ進むと、見えてきた…
マーシーのメインギター、TVイエローのギブソンレスポールJr。
スモークマシーンの薄い煙の向こう、静かにオーラを放っていた。舞台袖を見ると、サブギターの水色のストラトもスタンバイされている…。

それから、しばらく待った。味のあるブルースのBGMが止み、MCの方が出てきて、手拍子とともにコールが始まった。
他のお客さんと一緒になって手を叩いていると、ステージの照明が明るくなり、出てきた…

はじめに出てきたのはマーシーだった。客席に笑顔で手を振りながら、ゆっくりと歩いてくる。とてもスリムなイメージだったが、近くで見ると、意外と筋肉がある。そして女性ファンからの黄色い声援がハンパじゃない。
コビーとカツジも続いて出てきた。二人とも映像で見ていたよりもずっと貫禄がある。
そしてついに出てきた。
猫背のままステージの真ん中に躍り出た黒い影。マイクスタンドに手をかけ、ひょこっと顔を上げると、甲本ヒロトその人であった。

「オーライロッケンロー!!」

その声に続いて楽器がダァーン!と鳴り、ライブが始まった。頭が追いつかない状態のまま、私は前から3列目で他のお客さんと一緒にもみくちゃになっていた。もみくちゃにされながら私は思った
「あぁ、この人たち、実在するんだ」
テレビやYouTubeで散々見てきたものの、どこか遠い世界の人達で、会うことなんて叶わないと思っていた…。そんな人達が今、目の前で最高の演奏をしているのだ。思い出したように私も拳を突き上げた。

周りを見渡すと、私よりも年齢が上のお客さんたちが多かった。しかし、どの方もキラキラとした青春真っ只中の笑顔でステージを見ている。
静かな曲の時には、みんなでゆったりと左右に肩を揺らしながら演奏を聞き入ったり、曲の間で靴が脱げてしまったお客さんの靴をみんなで探してあげたり…。そしてクロマニヨンズの皆さんも見つかるまで待っていてくれたのだ。
ヒロトとマーシーは、たくさんの心を揺さぶる名曲を作ってきた。しかし、生み出してきたのはそれだけではない。温かなファンの雰囲気も培ってきたのだ。どんなときもファンを大切にし、最高のライブを積み上げてきたからこそ出来上がる空間がそこにはあった。

ライブの終盤、カツジが突如エイトビートを刻み始めた。それにヒロトもブルースハープで応える。
来る、あの曲が。そして始まった!
ナンバーワン野郎。
彼らはライブのMCやインタビューなどで、震災について語ることはほとんどなかった。しかしながら、曲を通して私達に熱いメッセージを届けてくれた。

やることは 分かってる 立ち上がる 立ち上がる

停電した暗い部屋の中、ブルースハープを吹いていた自分、炊き出しのために虫眼鏡で落ち葉に火を点けていた自分、学校で友達との再会を喜びあった自分…。いろんなことを思い出し、熱いものが込み上げた。

いなせな まっしぐら ナンバーワン野郎

これからも精一杯生きていこう!そう思わせてくれたひとときだった。またしてもロックンロールに、クロマニヨンズに、ヒロトとマーシーに魔法をかけられてしまった。

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