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【SS】枯れたサボテン #笑っていいで昇華

 僕は隼人、十一歳。僕の家は明治より前にできた一軒家。結構古い。でも日当たりはとてもいいんだ。二階の南向きの窓の外側には、ちょっとしたテラスがあってお父さんがサボテンを大切に育てている。雨に直接当たらないように庇も作ってあるんだ。サボテンの数もだいぶ増えてきて、もう十個くらいになっているみたい。お父さんはとても大切にしているから、僕は時々テラスに出て触らないようにして眺めてるだけ。

 ある夏の日。日が暮れるころ、バケツに水を入れてテラスで夕涼み。バケツの水をテラスに撒くとちょっとだけ涼しくなるんだ。一応蚊取り線香も持って行くんだけど、やっぱり蚊が多い。蚊の動きを良く見ているとプーンという嫌な音を立てながら飛び回ってサボテンに着地している。僕は蚊に向かって怒る。

「おい、それはお父さんが大切にしているサボテンだぞ。離れろ」

 しかし、蚊はそんなことでは怯まない。僕の手足にも食らいついてくる。今日は虫除けスプレーをしていなかったと思い。一旦家の中に入って、洗面所に向かった。殺虫剤とか虫除けとかは洗面所の物置に置いてあるんだ。虫除けスプレーを手に取ると手足の出ているところに吹きかけた。ふと、隣を見るとキンチョールがあった。これを持っていってテラスの蚊を退治してやろうと考え、手に取って階段を駆け上がる。窓をそっと開けてテラスに出て、蚊が部屋に入らないように素早く窓を閉める。

 飛んでいる蚊に向かってスプレーするけど上手く蚊にあたらない。蚊が止まったところを狙った方が良さそうだ。一番多く止まっているところを見回した。サボテンに止まっている蚊が最も多い。

「お父さんの大切なサボテンに止まっている蚊のやつめ。覚悟〜」

 勢いよくキンチョールを並んでいるサボテンの端から端まで吹きかけた。止まっていた蚊は驚く暇もないくらいにパタパタとテラスに落ちた。僕はガッツホーズ。しかし、押し寄せるかの大群は止まることを知らない。それならばと、先回りしてキンチョールで濡らしておけばいいと思い、さらにサボテンに向かってキンチョールを噴射。

 だんだん蚊との戦いにも飽きて、部屋に戻ることにした。ちょうどご飯もできる頃だから。美味しい夕飯を家族みんなで食べてお風呂に入って、いつものように布団に入った。今日はいいことをした気持ちになってぐっすりと眠った。

 翌日、テラスにお父さんがサボテンの様子を見に上がって行った。僕は部屋でテレビを見ていた。何やら叫び声が聞こえる。

「何だこれは。いったい何があったんだ。サボテンが全部枯れてる〜」

 全く心当たりがない僕は、そっとテラスに行って茶色くなってしまった光景を見た。

「うわっ、本当だ。枯れてるっぽい。お父さん、また新しいのを買ってきたら」

「ああ、せっかくここまで大きくなったのになぁ。いったい何があったんだろう」

「本当だね。サボテンだから暑さには強いはずなのにね」

「仕方ないな。今日はもう気力も萎えたから、明日処分しよう」

 殺虫剤の注意書きに「植物に直接吹きかけないこと」と書いてあることを僕が知ったのは、この事件のだいぶ後のことである。


 柿葉さんの下記記事で、うりもさんの企画を知り、自分の小さい頃の体験でショートショートを書いていたことを思い出しました。ショートショートの元となったエピソードは以下のようなことでした。

 父が大切にしていたサボテンが窓際に10個くらいあって、かなり成長したことを父が喜んでいました。私が小学生の時、何気なく窓を開けた時、数匹の蚊がサボテンに止まっていたので、なんとかしないとと思い、慌ててキンチョールを取りにいき、サボテンの表面をキンチョールの薬剤が滴り落ちるほどかけてしまったのです。

 ちょうど父は出かけていて留守だったのです。蚊を退治することに満足した私は、そのまま窓を閉めてしまいました。当然、翌日の朝、父は様子を見るために窓を開けたのですが、サボテンは見るも無惨な状態になりかけていました。一晩経過したことでキンチョールの匂いや痕跡は無くなっていたので、父も何が起こったのかわからない様子。仕方なくサボテンの片付けをしていました。

 私は、知らん顔を決め込んでました。55年くらい前の話です。ずいぶん後にキンチョールの注意書きを読んで「もしかして」と思った次第です。今頃は天国で「お前だったのか」と怒っているかもしれませんね😅

うりもさんの下記の企画への参加です。


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#ショートショート #フィクション #創作 #小説 #掌編 #笑っていいで昇華

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