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第1話「生まれつき地黒なの?」後半

前半では、バイト先での個人的なやり取りから、質問の背景にあるモヤみやしんどさについてお伝えしました。
ここからは、もう少し社会の方に目を向けていきたいと思います。
それは、肌の色が異なる「人種※1」間の差別だけではなく、同じルーツの人同士でも肌の色で偏見があったり、メディアなどを通して社会の中に浸透した偏ったイメージによって起こるものがあります。

(2)社会に浸透した「カラリズム」

 こうした肌の色をめぐって、最近「カラリズム Colorism 」という聞き慣れない言葉を知った。例えば白人から黒人に対する差別を「レイシズム(人種差別)」ということはみんな知っていると思います。「カラリズム」は「肌の色が明るい方が良いという価値観や偏見によって、同族内で差別を行うこと」だとされ、同じエスニック・グループ内部の問題を示す言葉のようです(※2)。この「カラリズム」の意味を知ったとき、一番に頭に浮かんだのは、私のルーツでもある、スリランカの人たちのお見合いでした。

わだかまり④ 肌の色に優劣なんてないはずなのに・・

 スリランカでは少し前の日本のように、今でもお見合い結婚が主流です。親が結婚させたい子どものために、最高のパートナーを探す。相手方の親と意気投合してから、本人達の結婚の話がやっと進む。こういったお見合いには効率よく”いいひと”を見つけるために、結婚相手に求める条件に順位をつけることが多いです。
 その条件のひとつとして、この「肌の色」が案外上位に来ているという印象を持ちます。親、もしくは本人が「肌の色が白い綺麗な女性と結婚させたい・したい」と思っていたり。肌の色が濃い息子や娘が優劣を感じないよう、お相手も同じような肌の色の濃さがいいと思っている親たち。肌の色が明るい家系なので、それを守るべく、同じような肌の色の親戚間での縁談を行うなど。スリランカのお見合い事情を考えると「肌の色が白い方がかっこいい・綺麗・かわいい」といった価値観は同族間にも根深く存在していると感じました。結婚式で見る花嫁は不自然なほどに白いファンデーション塗りたくられています。
 同じように、日本でも特に女の子同士で小学生くらいのときから「○○ちゃん、足しろーい」「○○ちゃん、焼けても赤くなるだけで黒くならないんだね、いいなー」「○○ちゃん、白すぎ、めっちゃ綺麗」と自分と周りの容姿が特に気になり始めますよね。本人はただ「肌が白くて可愛いから褒めているだけ」と感じるかもしれないけど、同じ日本人なのに肌の色が白い人だけを褒め称え、羨ましく思うのは差別に繋がります。そう思う時点で、白い肌とそうじゃない肌の色に優劣をつけていることになるからです。また、白くない肌の色を持つ自分を「美しくない」と卑下するのも同じです。それはその偏った価値観を内面化しているだけに過ぎません。このように、カラリズムは時に常識や一般的な認識にも深く染みついています。

(3)色々な「はだいろ」へ

 では、なぜカラリズムはこれほどまでに、常識の中に浸透しているのでしょうか。まちがいなくその理由の一つは、長年社会的に作り上げられてきたからだと言えます。化粧品のCMでよく目にする「美白」という言葉や「白い肌こそ美しい」という感覚。これらはメディアによって無意識に構築された認識です。私がアルバイトをしていたヨガスタジオのようなエステや美容関係の世界では、特に「美白」を崇高しているかのような雰囲気が充満してました。 
 また多くの人は「はだいろ」というクレヨン(※3)を幼少期に手にしたことがあると思います。肌の色にはもっとグラデーションがあるはずなのに、特定の色を「はだいろ」と名づけたクレヨンを手にとって、何の違和感もなく使っていたとしたら、それが無意識のうちの自分の肌の色の基準として埋め込まれていったのかもしれない。私たちが偏った感覚を持ってしまうのは、なにも個々人だけの責任ではない。社会のあらゆるものに影響されて私たちの価値観や物の捉え方が出来上がっていきます。
 しかし、だからと言って物事の本質を見ようとしないのは私たちにも責任が問われます。私たちは自身で常に意識を磨かなければいけません。そのためには、日常の中で自分のアンテナを使う機会を増やすことが大事でしょう。
 実際、近年は「はだいろ」という名前を使わないようになったり、様々な色からなる「はだいろ」色鉛筆セットが販売されたり(※4)といった動きもあります。他には、多様な肌の色に合うように3種類のカラーから選べる絆創膏も作られました(※5)。


 また、このコラムを執筆中に2つのニュースを目にしました。ファミマでは肌色と表記された下着が回収され花王では化粧品の『美白」という表記を取りやめる方針をを固めたようです。こうした動きが今後もっと加速することを願います。

 こうした動向も、これまでに声をあげてきた人たち、その声を聞いて実際に行動をおこしてきた人たちの努力の結果だと思います。私がここに経験を綴り、皆さんがそれを読むことでさらに視点を広げ、よりよい社会へと向かうことができるかもしれません。こんな地道な方法から始めることでしか、結局は私たちマイノリティとマジョリティが本当の意味で“寄り添う”ことはできないんだろうなと感じています。

(4)まとめ:マイクロ・アグレッション「生まれつき地黒なの?」をめぐって

今回のわだかまり
①初対面で言うこと?
②色白こそが”美”!?
③日焼けと「同じ」じゃない!
④肌の色に優劣なんてないはずなのに・・

 あなたにあなたの肌の色があるように、私にも私の肌の色がある。それが白いのか黒いのか茶色いのか黄色いのかで扱いが違うのは間違っています。白が美しく黒が醜いものでは決してありません。肌の色には本来、上も下も、良い悪いもない。

 にもかかわらず、ここのところ#StopAsianHate というハッシュタグが注目を集めるように、残念ながら、東アジア系の人たちも肌の色や見た目により暴言や暴力に巻き込まれているという事件が起こっています。肌の色に対する評価は単に見かけの問題だけではなく、様々な社会問題に繋がっていることが分かるかと思います。

 たとえ、差別的な意識がなくても他者の肌の色について言及するのは避けるべきだと私は思います。誰かに肌の色について聞きたくなったなら、わざわざ話題として取り上げる必要があるのか?と一度たちどまって自分自身に問うてみてください。お互いが安心して生きれる社会になるためには、そうして想像力を養い、みんながこれを社会全体の問題として考えることが一番の近道になるのではないでしょうか。


※1 最近では学術的などでは「人種」という言葉自体が使われなくなってきているようなので、同表記したらいいのか迷いました。一般的にまだ使われているという事と、「エスニック・グループ」などというと少しわかりずらいということでカギカッコつきで「人種」と表記しました。

※2 Sofia|同族内のColorism(カラリズム)と美白化粧品 https://slofia.com/others/colorism-and-skin-whitening-cosmetics.html

※3 NHK|クレヨンから消えた"肌色"     https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/800/299152.html

※4 朝日新聞|ファミマ、「はだいろ」表記のPB下着を回収https://www.asahi.com/articles/ASP3V6WZ2P3VULFA02Q.html

※5 日経新聞|花王、「美白」表現を撤廃ー人種の多様性議論に配慮 化粧品でーhttps://www.nikkei.com/article/DGKKZO70408840W1A320C2TJC000/




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