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新「ポーの一族」と人間の愛その2

(注意:現在連載中の「ポーの一族 青のパンドラ」のネタバレがあります)

前回、仮にエドガーが人間に戻ったとしても「人を殺した過去」なんて追求しないのではないか?(だってめんどくさいから)と書きましたが、ポーの一族「春の夢」から一通り読み返してみて、それは間違いだったことに気がつきました

ところで「春の夢」ではこんなやりとりがあります

クロエ 「老ハンナのせいよ! あの女はバンパネラのくせに 人間みたいに暮らしたいと言ってた!」
エドガー「人間みたいに…?バンパネラは人間にもどれるの…?もしかして」
クロエ 「まさか!ただ人間のふりをして人間の村のそばで人間に混じって暮らすのよ 狩りもしないで信じられない」

この時点で、既に、「人間にもどる」ことを語っていたのですね。それにしても、この会話の流れでエドガーが「人間にもどれるの?」と質問するのは不自然すぎるでしょ(笑)

新「ポーの一族」は今までに

・「春の夢」
・「ユニコーン」
・「秘密の花園」
・「青のパンドラ」

が描かれていて、「春の夢」はブランカ、「ユニコーン」はバリー、「秘密の花園」はアーサー・クエントン卿を中心とした物語になっています

ここで、ブランカとバリーは、新ポーで初めて描かれたキャラで、新ポーにおける重要人物ということなのでしょう。けれど、アーサーは、旧ポーから引き継いでいるキャラで、アーサーの話を長々と描写した意味はどこにあったのだろう?と疑問でした(「秘密の花園」ってぶっちゃけ面白くないんですよ)

・エドガーを保護する人物が必要だった

というのは大きいとは思います。
それ以外の注目すべき点として、「秘密の花園」では、エドガーが三度も人を殺すんです。旧ポーでも、エドガーはリデルの両親や村の娘を殺してましたが、改めて、エドガーの殺人シーンを描写する必要があったのではないかと思います。三度はちょっと多すぎですから

で、アーサーも自分の犯した殺人という過去に苦しむのです

他にも、「青のパンドラ」では、キング・ポーがまだ吸血鬼になりかけの人間だった頃、「私は人殺しだ」と自己嫌悪するシーンも出てきますし、なぜか吸血鬼になったはずのブランカが「人の命をないがしろにしてるわ!」と叫ぶシーンも出てきます

こういった点から、おそらく「人を殺した過去」は重要な要素になるのでしょうが、大丈夫なんですかね?「残酷な神が支配する」で殺人に苦悩するジェルミと同じ泥沼に陥らないんでしょうか?

新ポーで他に興味深かったのは、エドガーの台詞

「アランはぼくより人間っぽくて ピュアだった」「無垢(イノセント)なものがほしい」「アランをもとにもどしてほしい」

私、旧ポーを読んできて、アランは単純だとは思っていましたが(特に後半)、ピュア?無垢?いったい何を言っているのだろう?と思っちゃいました。新ポーでも、リデルを「エサ」とまで言ってのけてるし、感じたことをそのまま口にすることを、ピュアって言ってるんでしょうか?
よくわかりませんが、とりあえず萩尾さんはこの物語上で、アランをどうしても「ピュア」「無垢」ということにしたいのでしょう。まあ、アランって旧ポーの頃から、一定しないキャラではありましたよね

5ちゃんねるでこの疑問を書いたら

宝塚でアランを無垢だという台詞があり
それ以降アランはピュア(無垢)な存在になってしまったのだよ

【ワッチョイ無し】萩尾望都【68】
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/gcomic/1682305739/256

と親切に教えてくれた人がいて、どうやら「アラン=無垢」は私の知らない場所で定説になっていたようです……(そんなんでいいんだろうか)

他に「秘密の花園」のもう一つの注目すべき点として、アーサー・クエントン卿の幼なじみの少年ドミニクの存在があります。ドミニクの描写がやたら多いんですよ。この少年は若くして亡くなるのですが、アーサーは

「ドミニクは14歳で 天使のままで亡くなった」

と、この少年を回想していて、萩尾さんがドミニクを描いた理由も「ピュア」「無垢」といったあたりにありそうです。ドミニクは善良で優しい少年だったようで、アーサーはドミニクと自分自身とを対比しています。アーサー自身には、自分の子を妊娠した(と信じた)女性を殺した過去があるのですが、その告白を聞いたエドガーは

「アーサー エルフだって人を殺すことがあるんですよ…」「ぼくにはめずらしくも恐ろしくもありません」「でもね…エルフは殺しても後悔しません 人間と… 違ってね」

と答えます。ここも重要なシーンでしょう。後にアーサーはこれを思い出して、

エルフになりたい エルフになれば 後悔や苦痛から逃れられるだろう

と独白し、吸血鬼になるのですが、アーサーが後悔や苦痛から逃れられたのかどうかはまだ描かれていません

それ以外の新ポーで気になるのは、「子ども」です

人間時代、小さな弟を可愛がっていたブランカは、吸血鬼になってファルカと一緒に子育てします。幼い子を吸血鬼にして何がしたいんだ?と思ってしまいますが、ブランカもファルカもやたらと「子ども」に執着してるんですよ。でも「子ども」の吸血鬼はすぐ消えちゃうという新設定が登場し、ブランカは嘆き悲しみます(もしかして「子ども」は無垢だから吸血鬼として存在し続けられないのでしょうか?)

アーサーのことを好きだったパトリシアも、最終的に我が子を選んで、アーサーを諦めます。アーサー自身が自分の子を妊娠したと信じた女性を殺しちゃうのとは対照的です

キング・ポーが愛したという女性アドリアについても、アドリア自身を愛したというより

でもそこには私のほしかった青春 私のほしかった母と息子の姿があった

とあるように、出会った時には既に妊娠中で、彼女が息子を産み、母親となったからでしょう

おそらく、吸血鬼と人間の最大の違いは、「子ども」を作れるか作れないかってことなんだと思います

以前、萩尾さんが「エドガーの人間の愛への未練」について語っているのを読んだ時、人間の愛と吸血鬼の愛の違いがわからなくて、「人間の愛ってなんだろう?子作り?」と5ちゃんねるで語ったことがあります。もちろん冗談で書いたのですが、なんだか現実味を帯びてきたような……?

アランやエドガーが人間に戻って、我が子を授かる……、そこが新ポーの行き着くゴールのように思えます

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