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2013年に発行した詩集「0」(私家版)より数点ピックアップしました。
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記事一覧

ゆめのなかで逢ったひと

ゆめのなかで、たしかに   に逢ったことがある。けれど   の顔を忘れてしまった。ゆめのなかで、たしかに   に逢ったことがある。けれど   の声を忘れてしまった。ゆめのなかで、たしかに   に逢ったことがある。けれど   のことを忘れてしまった。やさしいまどろみのなか
、誰かに手をひかれて、天井のない白い家の  をくぐった。たしかにそのときまで、   のことを覚えていたのに、もう忘れてしまった。

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風を見ていた

そのとき、私のからだはいくつもの場処で目覚めた。
緑の葉が、目の前で5月の予感に揺れていた。
静けさが、私の足下を固く踏みしめていくのがわかった。
夢の中に、聞いておくべき有り難い話の数々を置き去りにしてしまったことに気づいた。
それは、大事な約束のようなものだったのかもしれなかった。
でも、私は何も対処せずにゆるやかなあくびをひとつした。
くちの中の空気と一緒に、すべて逃がしてあげたかった。

まぼろしみたいにやさしい

奇跡のてざわりを、誰もが肌で覚えている。ほころんだ梅が、吹きすさぶ嵐が、揺れる稲穂が、肩につもる雪が、あなたを今も抱いている。どこかに帰りたくて、誰かを思い出したくて、眠れない夜に、そっと枕元で音がする。軽やかな羽音が。天使のように。神様みたいに。あなたをじっと見つめてる。毎朝涙がでるのは、夢の中に置き去りにした人がいるからだ。今となっては思い出せない、いとしい誰かの面影が、胸をかきむしる。その国

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