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同窓会【ショート小説】


私にはお気に入りの配信者がいる。
話の内容からおよそ同世代の男性だと思う。
カドが少し欠けたお風呂のタイルのようなハスキーボイス。
一度聞いただけで好きな声だと思った。

タレントでもなんでもないし顔を知っているわけでもない。
ネットの広告でやたらと見るラジオアプリだから、余計な情報もなく声に集中できるのも気に入ってる要因の一つかな。

移動中は常に聞いていて、
仕事帰りに最寄り駅の一駅前で降りて
彼の収録されたラジオを聞くのが私の日課。
今日は母親の愚痴を言っている。
「若いなあ」そんな感想を飲み込んでイヤホンを取った。

目的地に着いたのだ。

今日は12年ぶりの中学の同窓会。
地元でも有数のマンモス校だったので、
同級生だけでも1000人は超える。
会場は笑ってしまうくらいに豪華絢爛なホテルだった。

大広間の立食パーティ。
ほとんど顔も覚えていない子もちらほらいたれれど、
彼の居場所は一目で分かった。
思い思い彩られた人ゴミの中、
差し色のようにシンプルなセットアップが逆に目を引いた。
理由はそれだけだったと思う。同級生の中でも輝いていた。

やっぱ身長伸びたんだな。
色んな顔の中でも、頭一つ抜けていた。

彼には、中学3年生の時告白された。
家も近かったから小学生までは一緒に帰っていたけど、カップルだと揶揄されだした10歳頃から意図的に避けあいだした、なんとなく気まずい関係。
当時から整った顔立ちがさらに洗練されて、彼の人気と幼馴染と知った女子からの私を羨む声は日に日に高まっていた、そんな折の告白だった。

もちろん彼には話しかけなかった。
何度か彼が近くに来たときは、
興味もない話で周囲の人間とわざとらしく盛り上がった。
今の彼が私をときめかせるのも、その逆でも嫌だったから。

気が付くと彼はもう見つけられなかった。
最終の新幹線で東京に戻るために帰ったらしい。
どこかでホッとして、私も会場を後にした。


仕事終わり、最寄りの一駅前から歩いて帰る。
コンビニで買ったサワーとお気に入りの配信者を耳のお供に。
彼は今日、ずっと好きだった人に告白するらしい。
どっかの誰かが羨ましかった。

憩いの時間を遮るように、電話が鳴った。
「もう寝るから上がったら、栓抜いてちゃんと洗ってね」だって。

わざわざ電話するような内容?
お母さんはいくつになってもうるさいな。

サワーを一気に飲み干す。
自分の中の感情に気づいて、
私もまだまだ若いなと思いながら
実家の古びたお風呂を思い出していた。

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