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近くても遠くても家族…『夏日春風』 #映画感想文

アマプラで「中国映画」で検索して出て来たのをふらっとウォッチリストに入れておいたもののひとつ。
見始めてすぐに、中国の庶民的な生活や地方都市の風景の切り取りがすごくいいな、と思う。自分が滞在してた頃(ざっと25年前!)と変わらない、でももっとこざっぱりした感じ。(都市は多分別のところですがね。)

タイトルは『夏日春風』。右から読みます

主人公のキョウコウは兄と母の三人暮らし。父親は仕事で(?)10年前に出て行ったきり。兄はもうすぐアメリカ留学で母はその準備に余念がない。キョウコウは新しいビデオカメラが欲しくて、高校の授業をサボって養鶏場でアルバイトをしている。学校とのつながりはノートを貸してくれるクラスの女子コウコウくらい。コウコウの父は台湾にいるらしいが所在は不明で、父の友人とやらと連絡を取り合っている様子。お金をためていつかコウコウと台湾に行くのもいい、そんなことも考えるキョウコウだが、ある日10年間音信不通だった父親が突然帰って来て……。

まるでドキュメンタリーなのかなと思うほど、場を盛り上げる音楽などはなくて、むしろ街中の雑踏の音が時々強く聞こえてくる。
10年も戻ってこないだけでもう「ダメ親父」なのだが、10年ぶりに返ってきて、ことあるごとに父親ヅラしやがって、何だこの野郎。母親もいそいそとうれしそうにしやがって、ちょっとは文句くらい言わないのかよ……と思ったら、終盤の喧嘩の場面ではしっかりキレていた。「いいぞもっと言え」と思ったほど。しかしクソ親父のクソっぷりがはるかに上回っていたよ……!風貌のよい「人のよさそうなおじさん」ぶりに騙された~!
終盤にかけて家族の「秘密」がぽろぽろと剥がれ落ちて、観ているこちらも少ししんどくなるが、母親もまた「家族」という枠組みにあぐらをかいていた一人とも言えるわけで……そういう意味では、家族をテーマにしたものとしては、あるあるなのかもしれない。せめて父親が愉快な「自由人」だったらよかったんだろうけど、それだとこのストーリーにはならんわな~。
家族は人間関係の始まりで、ミルフィーユかバウムクーヘンみたいに積み重ねていくものなんだなと思う。決して自然にできるものじゃない。そしてミルフィーユみたいに脆くて口当たりのいいこともあるし、バウムクーヘンみたいにしっかりしていて口のなかがもさもさすることもあるんだ、多分。
あと台湾が、まるで日本で言うところの東京のように「上京する」みたいなニュアンスで出てくるのは面白い。香港じゃなくて台湾なんだなって。

観終わった後にエンドロールで学生映画であることを知る。おそらく低予算映画なので、それを考えるとこの完成度はかなりいい!と思うのです(毎度エラそうですいません)。
名前をキョウコウとカタカナにするなら、発音表記のほうがよかったかな。字幕と音声の名前が一致しないとちょっと混乱しちゃうね。

食事の時「もっと食べなさい」とおかずを家族の取り皿に追加で入れる仕草、夜の路上で飲み食いできる屋台の風景、信号のない大通りを歩いて渡るのとか、一本入った通りの街路、くたびれた壁の汚れや部屋の電球の灯り、昔ながらの学校ジャージなんかも「中国の風景」を余すところなく伝えていて、中国クラスタには絶妙でした。


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