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【今宵ランプは】秋の夜長に中原中也【ポトホトかがり】


Go to トラベルを使ったからって、出費は出費です。
焼け石に水ですが、預金額をなるべく元に戻そうと単発でアルバイトをしました。

中学受験の模試監督です。

スーツの袖をちょいちょいって引っ張って、上目遣いで「先生、トイレに行ってもいいですか?」って聞いてくる小6のキッズがかわいかった、っていう話は今日はおいておいて。

机の間を練り歩くだけじゃつまらなかったので、ボスの目を盗んで国語の問題を開いてみました。

評論文は、英語を学ぶ意義について。

いわく、「日本で英語は、世界競争の中でのツールとして教えられているが、言語を学ぶ本当の目的は日本語の檻から抜け出して、他の言語で世界を見られるようになること」。

趣味で外国語を勉強している人にとってみれば、これは日々感じることなんじゃないでしょうか。

この模試を解いている小学生6年生の君たちも、春からそんな風に楽しみながら英語を学べるといいね。


オノマトペ面白い

わたしは、外国語の習得の楽しさは、もう一つあるように感じています。

「日本語を客観的にみられるようになる」ということです。


当たり前のように使っていた日本語も、他の言語と比較することでその特色に気づけるようになります。

表音文字と表意文字を使っていたり、どの語族にも属さなかったり、日本語の面白い点はいろいろありますが、
その中でもオノマトペの豊富さには目を見張るものがあります。

ばらばら、めらめら、ふわふわ、くるくる、、、
幼稚園生でも使っているような簡単な単語ですが、どれも語感でニュアンスを表現しているがゆえに、他の言語には訳しづらい。

逆にいえば、語感を共有している日本人の間であれば、創作オノマトペでもある程度ニュアンスが伝わります。伝わりにくい部分があっても、読み手が自由に想像できるという楽しさがあります。


好きな詩人は中原中也

有名なオノマトペの創造主に、詩人・中原中也がいます。

よく知られた「ゆあーん ゆよーん」は、周りにウザがられるくらい自分で口ずさんでいたらしく、自分のオノマトペと語感をこの上なく愛していた人なんだと思います。

多用されている七五調や五七調のリズム感も相まって、わたしの好きな詩人のひとりです。


数ある彼の作品の中でも、一番好きで、今の時期にぴったりな一遍をご紹介します。


1935年作の未発表詩編「曇つた秋」の第3節です。

ぜひ音読して語感を楽しんでみてください。


曇つた秋

君のそのパイプの、
汚れ方だのこげ方だの、
僕はいやほどよく知つてるが、
気味の悪い程鮮明に、僕はそいつを知つてるのだが……

 今宵ランプはポトホト燻り、
 君と僕との影は床に
 或ひは壁にぼんやりと落ち、
 遠い電車の音は聞こえる

君のそのパイプの、
汚れ方だのこげ方だの、
僕は実によく知つてるが、
それが永劫の時間の中では、どういふことになるのかねえ?……

 今宵私の命はかゞり
 君と僕との命はかゞり、
 僕等の命も煙草のやうに
 どんどん燃えてゆくとしきや思へない

まことに印象の鮮明といふこと
我等の記憶、謂はば我々の命の足跡が
あんまりまざまざとしてゐるといふことは
いつたいどういふことなのであらうか

   今宵ランプはポトホト燻り
   君と僕との影は床に
   或ひは壁にぼんやりと落ち、
   遠い電車の音は聞える

どうにも方途がつかない時は
諦めることが男々しいことになる
ところで方途が絶対につかないと
思はれることは、まづ皆無

   そこで命はポトホトかゞり
   君と僕との命はかゞり
   僕等の命も煙草のやうに
   どんどん燃えるとしきや思へない

コホロギガ、ナイテ、ヰマス
シウシン ラツパガ、ナツテ、ヰマス
デンシヤハ、マダマダ、ウゴイテ、ヰマス
クサキモ、ネムル、ウシミツドキデス
イイエ、マダデス、ウシミツドキハ
コレカラ、ニジカン、タツテカラデス
ソレデハ、ボーヤハ、マダオキテヰテイイデスカ
イイエ、ボーヤハ、ハヤクネルノデス
ネテカラ、ソレカラ、オキテモイイデスカ
アサガキタナラ、オキテイイノデス
アサハ、ドーシテ、コサセルノデスカ
アサハ、アサノホーデ、ヤツテキマス
ドコカラ、ドーシテ、ヤツテクル、ノデスカ
オカホヲ、アラツテ、デテクル、ノデス
ソレハ、アシタノ、コトデスカ
ソレガ、アシタノ、アサノ、コトデス
イマハ、コホロギ、ナイテ、ヰマスネ
ソレカラ、ラツパモ、ナツテ、ヰマスネ
デンシヤハ、マダマダ、ウゴイテ、ヰマス
ウシミツドキデハ、マダナイデスネ

推しポイント

いかがだったでしょうか。


わたし的推しポイントをご紹介すると、

・「今宵ランプはポトホト燻り」のポトホトの語感、途中の「そこで命はポトホトかゞり」への転換。

・「遠い電車の音は聞こえる」「デンシヤハ、マダマダ、ウゴイテ、ヰマス」。静まった夜に響く電車の音から感じたのは、完全な孤独ではないという安心感なのか、あるいは相対的な孤独なのか、人によって受け方が変わってくる。

・「ところで方途が絶対につかないと 思はれることは、まづ皆無」それなー。禿同。

・「アサハ、ドーシテ、コサセルノデスカ アサハ、アサノホーデ、ヤツテキマス」 いくら長い夜だって、自然と明けるから心配しないでいいんだよ、というさりげない励まし。中也自身が幼い息子に向けて書いた言葉なのかもしれません。いいパパ。


いいわあ、やっぱ好きだわ中原中也。


他にも素敵な詩がたくさんあります。


しーんとした秋の夜長に、窓辺で、ホカホカのミルクでも飲みながら、お気に入りの一遍をぺらぺら探してみてはいかがでしょうか。


それから、朝が顔を洗ってやってくるまで、おやすみなさい。



 

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