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国際的な賞を貰いオーストリアまで招かれるも、式直前にコロナ陽性になってすぐ近くのホテルからロボットに代行してもらった話

世に名誉な賞は多々あれどアルス・エレクトロニカ(Ars electronica)とは大層な賞である。オーストリアのリンツで開催される芸術・先端技術・文化の祭典で、メディアアートに関する世界的なイベントとして有名だ。

10年前はまったく理解されなかった”分身ロボット”という概念や、呼吸器をつけた寝たきりでも働けるという発想が、Ars electronicaで最高の栄誉である「ゴールデン・ニカ賞」として国際的に評価された事をとてもうれしく思い、海外へ活動を発信する良い機会だとオーストリアへと勇んでやってきた

ヨーロッパといえばロボット業界の人はご存じロボットはヒューマニズムの敵とされ、ロボット研究者が脅迫されてきた歴史もある。そうした場で我々の研究がこのような賞をうける事はひとつの時代の象徴的な出来事ともいえる。

そんなリンツに到着直後、まあよりによって授賞式直前に体調をぶっ壊し、PCR検査の結果はみごとに陽性。ホテルからすぐそこで行われる受賞式に”展示作品” であり”デモ用”であった分身ロボットを遠隔操作して登壇する事になったという我ながらのやらかし話が今回の話である。

ようやく熱も38度を下周り、しかしまだ頭が朦朧としている中で書いているのでいつも以上に支離滅裂かもしれないが記念に書き残しておきたい。

ドナウ川を中央に、路面電車トラムバスが走る石畳のリンツの町に到着したのは9月5日。国をあげてのアルスエレクトロニカに街も沸き立ち、街の至るところで各国のアーティストあるいは国内の学生がArduinoなどを繋げた作品の展示準備をしている。
1日目と2日目は一緒に連れて来たスタッフやインターンの学生達と軽く街を見て回ったのち、展示の設営などを任せつつ、人と会ったり取材を受けたり、リンツの街を散歩したりしていた。

本当はリンツでの出来事をnoteに書いたり、オリィ部で現地配信しようと考えていたのだがそれどころではなくなってくるのが2日目の夜。

軽い頭痛と軽い倦怠感。しかしこれくらいは生まれつき身体が弱い身、普段から月に1,2回起こるものと同じ程度。飛行機16時間の疲労だろうと思い、いつも通り頭痛薬で抑制できたので3日目は日本と通話したり1日普通に仕事をしていた。

寝て起きたら治ってくれと淡い期待での4日目朝、頭痛に寒気、喉の痛みの三重苦で目覚める。38度以上の熱、正常な認識ができない状態になる。日本とのMTGをキャンセルし、展示も連れてきたインターンの学生や仲間に任せて自室で休む事になる。仲間のマリアが朝食を部屋まで持ってきてくれるもあまり喉を通らない。

窓の外はアルスエレクトロニカ。ホテルの下を行きかう人たちは楽しそうだ。街中に作品と音楽が溢れている。堪能したいし、晴れ舞台が目の前なのだ。立ちたかったし受け取るためにここまで来たのだ。この日はちょうど一緒に分身ロボットカフェを構想した親友の5年の命日でもあるのだ。
ついでに高校3年生の時にサイエンスの国際大会ISEFで3位になった悔しさから、いつか国際的な場で次は1位の賞を受け取れるよう頑張ろうと思った17年前の自分との約束なのだ。頼む回復してくれと願った。

そんな願い虚しく、翌日には体温はさらに上昇する。
これまでコロナ禍の中、かなり気を付けてセルフ隔離などで奇跡的にうまく回避してきたのによりによってこのタイミングかと思う。
久しぶりの海外旅行や1日目だけ食べた美味しい料理を堪能する事もなく、世界的なメディアアートのイベントが行われ賑わいに包まれている街の中心で、ホテルでの闘病生活が始まって今に至る。なんと悔しき滑稽な療養か

当然、授賞式への登壇は禁止と言われる。
・・・しかしこんな時の為にOriHimeを作ってきたのだ。
元不登校で家から出られなかった私が欲しかったもので、病気などで外出困難な子どもたちが学校に通うために、友達や家族と旅行にいくために。

運が悪いというべきか、逆においしいとでも言うべきか。
”コンピュータ界のオスカー”と称されるゴールデン・ニカの授賞式に、
私はホテルからコンピュータを介し、ロボットの姿で参加する事になったのだった。

意識朦朧のなか壇上で抱きかかえられ、咳き込むロボットに会場が盛りあがる。
意図しない盛り上がりで悔しいがそれはそれでアートで良しと自分を納得させる

本当は「やったぞ皆!」と、オリィ研究所や分身ロボットカフェの仲間たちに格好よく報告したかったところこんな格好のつかない形になってしまったが、アルスエレクトロニカでのゴールデン・ニカ、紛れもなく世界最高の賞のひとつだ。

レセプションパーティーもスタッフ達に連れられて回った。他のアーティスト達に「これでこの作品は完成したね!」とからかわれ、来賓のコグナーオーストリア副首相にも「え、近くのホテルから? 早く元気になって来てくださいよ!笑」と笑われる。まったくである。

良い人たちと出会えた事と、展示アシスタントとして連れてきた英語堪能なインターン達が貴重な機会を学んだり楽しんでいる姿をOriHimeで見れる事に救われる。

昔、ALSの恩師が「私はもう食べれないから沢山食べてほしい。喜んでくれる姿が私にとっての美味しさなんです」と言ったがほんの少しわかった気がする。悔しさはあるが虚しくはないし孤独ではない。なるほどこれは救いだな。

レセプションにて研究所スタッフたちと。私が操作するOriHimeの来ている黒い白衣は美大生インターンのゼゼ(左)が即席でタンクトップを裁断して作ってくれた。

まだ体調は悪く部屋から出られないので日本から操作するOriHime参加のパイロット達と一緒に街を散策したりアート鑑賞したりしている。(ホテルのすぐ近くの広場で旨そうなアイスを食べているのはちょっと悔しい)

のどが焼けるように熱くて痛くて声が出せないが、ALSの仲間たちと作ってきたOriHime eyeのような合成音声システムを応用し、テキスト入力で会話もできている。実験的に実装してある自動翻訳システムも使える。これまで開発してきたものが大活躍している。
5年くらい前、過労で呼吸困難で入院した時もベッドの上からOriHimeでイベント登壇の仕事をした事があった。ALSや難病など外出困難な人たちと作ってきたが、OriHimeは私が必要なツールだと感じる。
想定していた形ではなかったが十分だ。この体験だけでまだ作り続けられる。


つくづく、健康とは奇跡の時間だと思う。
健康とは体調を崩した状態から回復してから次に体調を崩すまでの間の事をいう。
人生には何も出来なくなる日がくる。万人にいずれやってくる。だからこそ動けるうちに動き、動けなくても踠き、成すべき事を為すのだ。

分身ロボットカフェ、必ずこっちでもやろう。
今はちょっと、もう少し休む

吉藤オリィ



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