見出し画像

sushi 19

和歌山に住んでいると何かと地震のことを考えるシーンが多く、大地震については小学生の頃から授業があった。中には気の利いたギャグを言ってるつもりなのか「みんな死ぬんですよ」とかってニヤニヤと笑いながら話をする先生もいて、今のご時世だったら絶対にアウトだ。
そして、当時心ない小学生だった私はささやかな仕返しとしてその先生のことを裏で「ハゲ」と呼んでいた。今のご時世それもダメ。

私の実家は築ウン十年にもなろうかという昭和の借家で、一時期流行ったらしい絨毯が埋め込み式の一軒家だ。レトロポップな壁紙や水回りのタイルのディティールがかわいい。けれども耐震基準法が変わる前からの家なので、大家さんが定期的にメンテナンスをしてくれるものの、地震が起こったら崩壊するんじゃないかととても怖かった。今は両親が二人だけで暮らしていて、たまに帰った時には、頭上に落ちてきたら危ない荷物をこっそり下の方に移動させたりしている。で、この前の週末はベッドを移動させることにした。

両親の寝室は1階にある。耐震が心配なので「2階で寝てほしい」と伝えるも、「2階にのぼる際に階段から落ちる可能性の方が発生頻度が高い」とかなんとか理屈をつけられ、頑なに1階から移動してくれない。単に足腰が弱ってきていることもあるかもしれない。じゃあ1階なのは諦めるとして、もう1点懸念があった。それが両親の眠るベッドの頭上に取り付けられたエアコンだった。

引っ越してきた当時両親はその部屋で寝ていなかったため、エアコンがどこに取り付けられても問題がなかったが、いざその部屋を寝室にしましょうとなった時には狭い部屋の中に大きなベッドを設置するのは難しく、どうしてもその配置になってしまったらしい。しかも、その部屋だけ和室なので壁が土壁のような脆い作りになっていて、工事会社の人が器用に壁を補強してくれたことでなんとか自重を保っている状態だった。どう考えても地震がきたら、二人の頭の上に落ちる。それが小さい頃からずっと気がかりで、家を離れた今でも気になっていた。でも、なんとなく家具の配置とかってこだわりがあるかもしれないし、あまり模様替えを好まない父のことを思うとなんとなく言い出しそびれて、気がつけば何十年も経過していた。

ところが先日、ふと気がついた。ベッドの向きを、180度回せばいいのでは?そうするとエアコンが落ちてくるのは頭上ではなく足元の方になり、少しリスクが軽減される。なんでこんな簡単なことに今まで気がつかなかったんだろう?そう思うと居ても立っても居られず、思いついた木曜日には母親に一時帰宅する旨を伝えて、土曜日には実家に帰って作業をした。

クイーンサイズあるベッドを母と2人で移動させるのは骨が折れたけれど、改めて掃除してみると気付きがたくさんあった。まずベッドの下はものすごい埃で、その中からなくしたと思っていたスリッパが出てきた。さらにベッドをくっつけていた壁にコンセントがあり、発火一歩手前の量の埃が溜まっていて肝を冷やした。あとは父が好きなプロレス団体のWWEのレスラー名鑑も出てきて、そういえば私も小さい頃それを読みながらケーブルテレビでRAWやSMACKDOWNを見ていたことを思い出した(当時はWWF)。

余談だけれどもWWEではジ・アンダーテイカーが好きで、特に地獄からの使者風の棺桶男時代でなく、数年間一瞬やっていたバイク野郎期がとても好きだった。友達がドラマやお笑い番組を見ている中、テレビのチャンネルの権利は父が全権を握っていたたため、姉と弟とドラマを見る感覚でWWEを見ていた。勧善懲悪がはっきりしているので子供ながらも結構面白かったけれど、小学校の話題には完全に置いてけぼりだった。

ベッド掃除に話を戻す。母となんとか180度回転させることに成功し、私の長年の胸の支えだった「頭上のエアコン問題」は簡単に解決された。模様替えが苦手な父は「ありがとう」とは言わなかったけれど、黙っていてくれたということは娘の心配する気持ちを汲み取ってくれたんだと思う。母はあまり物に執着がなく、こだわりを持たないようにしている人なので「じゃあ次回は押し入れ掃除でも」と、労働力があるならこれ幸いといった感じで笑っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?