見出し画像

東京イーストサイドをスタートアップの集積地に。スタートアップと複業人材の共創を実現する「おためし複業」

スタートアップの事業成長の加速化でカギを握るのは、即戦力人材。そんな優秀な人材を迅速に巻き込める手段として「複業人材の採用」があります。今回はスタートアップと複業したい人材をマッチングする「おためし複業」を運営する株式会社ATOMica(アトミカ)代表取締役Co-CEOの嶋田 瑞生さんと、日本橋を中心に東京の東側エリアでスタートアップ向けワークスペースを提供する三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部の太田 聖さん、「おためし複業」の事業開発兼コミュニティマネージャーを務める藤田 崇志さんに、ATOMicaが三井不動産とともに複業サービスを始めた背景や、スタートアップや複業希望者が抱える課題、今後「おためし複業」が目指すことを伺いました。


ATOMicaが三井不動産と運命的に出会った「THE E.A.S.T.」とは

― ATOMicaの事業概要と自己紹介をお願いします。

嶋田(ATOMica)ATOMicaは2019年に宮崎で創業したスタートアップです。コワーキングを起点とした「共創」を持続的に生み出す仕組み「ソーシャルコワーキング®」や、施設・コミュニティ・イベント運営のノウハウを集約したコワーキング運営システム「knotPLACE(ノット プレイス)」など、多岐にわたって日本の各地域で共創と繋がりをつくるサービスを展開しています。2020年からは「いい学生を採用したいと考えている地元の企業」と「地元に帰って面白い企業に就職したいと考えている学生」がコラボレーションして新規事業を開発し、既存サービスをアップグレードさせる新しいインターンシップ・コミュニティ「ATOMatch(アトマッチ)」を始動するなど、地場の中小企業や自治体向けによろず支援をしています。

ATOMicaが全国約30の街で事業を展開すると同時に、東京の日本橋にもオフィスを構えようとしたタイミングで三井不動産の担当者と出会い、志の高い仲間とともに熱量を高め合い、事業を飛躍させる起業家のために作られたワークスペース「THE E.A.S.T.(ジ・イースト。Empowering Ambitious Startups in Tokyoの略)」を知りました。東京の意欲的なスタートアップを勇気づけ、力を発揮してもらうという構想に惹かれて入居を決め、以来、ATOMicaのメソッドを地方都市だけでなく東京でも活かすために、三井不動産に背中を押していただきながらさまざまなプログラムを企画・運営しています。

太田(三井不動産)三井不動産は総合不動産デベロッパーとして、オフィスビルや商業施設、ホテル・リゾート、ロジスティクス、住宅、これらの複数の用途を組み合わせた複合施設などを介し、まさに総合的な街づくりを行っています。近年では、不動産開発のノウハウを活かした海外事業や産官学連携事業なども幅広く展開しています。

三井不動産ベンチャー共創事業部は日本橋を含む東京の東側エリアをスタートアップの一大集積地にしていくことに取り組んでいますが、THE E.A.S.T.はその核となる拠点として設立したスタートアップ向けのワークスペースです。私が所属するベンチャー共創事業部の「31VENTURES(サンイチベンチャーズ)」では、このワークスペースやコミュニティ、出資の3つのソリューションを提供してスタートアップエコシステムを構築しながら、スタートアップとともに既存事業の強化と新規事業の開発に取り組んでいます。最新テクノロジーを駆使する成長の著しいスタートアップと大企業の私たちが取り組むことで、より大きなブレイクスルーを実現できると考えています。

2022年に三井不動産へ中途入社する前、私は不動産ベンチャーでシェアハウスの運営や、シェアオフィス運営事業の立ち上げに携わり、当時から「単純に床を貸すだけではなく、入居企業とイノベーティブな挑戦ができる関係を構築したい」と、事業に踏み込んだコミュニケーションの重要性を感じていました。現在は三井不動産で当時の「こういうことがしたい」を推進しています。

藤田(ATOMica):私は新卒で石川県にある創業90年の商社に入社し、法人営業を3年間行いながら、複業でコミュニティを企画・運営していました。その後、メガベンチャーへの転職を経て独立し、現在は複数の企業にてコミュニティを立ち上げ、KPI設計からメンバー育成、イベント企画・運営までを担っています。ATOMicaでは日本橋オフィスで複業人材の集うコミュニティのマネージャーを担当しています。一人ひとりの才能がスタートアップに「価値」として評価されるために、コミュニティの組成・活性化に励んでいます。

株式会社ATOMica 代表取締役Co-CEO 嶋田 瑞生さん

スタートアップ ✕ 複業人材。2者の願いを満たす「おためし複業」

― 「おためし複業」のサービス概要を教えてください。

藤田(ATOMica):「おためし複業」は、社会人の皆さんが「複業人材」としてスタートアップへ気軽に参画するチャンスに出合えるサービスです。これまでのキャリアで培ったスキルや経験を活かし、複業人材として社会的価値を生み出す事業に挑戦することで、人生の可能性を広げるキッカケを提供しています。

― 「おためし複業」を立ち上げた背景をお聞かせください。

太田(三井不動産):私たちのいる日本橋から東京駅までのエリアは全国有数の大企業の集積地です。その東側に位置する隅田川あたりまでのエリアに目を向けると住・商の混在地域、つまり、住む、飲食する、働くができる多様性に富んだエリアになっていて、築年数が経過した中小型ビルや、立地の優位性に対して賃料水準がリーズナブルなオフィスビルが並んでいます。

ここで新しいスタートアップが続々と誕生したら、大きな業務地区が隣接していることからtoBビジネスが発展しやすいのではないか。スタートアップにとっても、事業が成長したら東京駅周辺のビジネス街に引っ越してステップアップしていく、大きなストーリーを描きやすいだろうと考えました。また、この東京駅エリアには大企業でキャリアを積んでいる優秀な人材が集まっているため、複業の機会を拡大することで、スタートアップに挑戦するフィールドやセールス対象のフィールドが循環するエコシステムが実現できると思い描いたんです。

嶋田(ATOMica):ATOMicaは各地で「学生 ✕ 地場企業」「起業支援者 ✕ 起業したい人」「地場の個人事業主同士」など、さまざまな「想いを持つ2者」を繋ぐ事業を展開してきました。両者のニーズを言語化し、お互いに気持ちよく繋がる仕組みを提供・事業化することは私たちの「いつもの価値発揮パターン」であり、当然、以前から「複業」も意識していました。

一方、東京以外の地域では複業という働き方がまだ浸透しておらず「私たちが得意とする地方都市では、初期的には複業事業には挑戦しづらいだろう」「でも、まだ知見の浅い東京でどうやって始めようか」の2つに頭を抱えました。価値を届けられる相手を増やしたい、でもATOMicaだけで取り組んでもインパクトは出しにくいと考えていた矢先、THE E.A.S.T.の事業構想を持つ三井不動産と巡り合い、複業事業を立ち上げる決心をしました。

現在「おためし複業」でスタートアップと複業人材が繋がり、ATOMicaが世の中に提供する価値の幅が広がって嬉しく思います。この2者を巻き込めるようになったら「地場企業 ✕ 都内のスタートアップ」や「地場企業 ✕ 複業人材」を繋ぐきっかけになるし、私たちにとっても次の領域への挑戦にもなります。

太田(三井不動産):施設運営側としては、THE E.A.S.T.に入居するスタートアップがどうしたらより成長できるだろうかと思索を巡らせています。一般的なヒト・モノ・カネ・情報で考えると、「モノ」ではオフィスを提供している、「カネ」ではファンドに取り組んでいる。「情報」ではセミナーなどを頻繁に開催してスタートアップに必要な情報を提供したり、コミュニティでご利用者同士が情報を交換しやすい環境づくりに取り組んだりする一方「ヒト」にはまさに今着手しているところです。THE E.A.S.T.の入居企業には「事業を成長させたいが人材が足りない」と人材採用で強いニーズがあります。入居企業であり、人と人を繋げる強みを持つATOMicaとの連携は、入居スタートアップの人材採用支援や、ATOMicaそのものの事業支援にも繋がると考えました。

三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 太田 聖さん

スタートアップが悩むのは、事業フェーズにふさわしいペルソナの設定

― 「おためし複業」のご利用者には「複業人材を採用したいスタートアップ」と「複業したい社会人」がいらっしゃいます。まず、スタートアップはどのような複業人材を求めていますか?

藤田(ATOMica):スタートアップのフェーズによって全く異なるニーズがあると感じています。例えば、創業初期ではジェネラリスト系の人材や、創業者にないケイパビリティを持つスペシャリストが好まれる傾向がありますが、アーリー期に入っていくと各分野のスペシャリストや、正社員へのコンバートを狙った複業人材のニーズが上がってきます。結局、その企業や創業者の方のご経歴に依存する部分が大きく、奥が深いなぁと日々感じています。

― 「おためし複業」をご利用になっているスタートアップは、採用でどのようなことに悩んでいますか?

藤田(ATOMica):優秀な人材になかなか出会えないという普遍的なテーマもさることながら、意外と「今のフェーズではどんな人材が必要でしょうか」と、ペルソナの絞り込みに悩む方も多い印象がありますね。営業やマーケティング、PRなどの業務の切り出し方や、その切り出した業務を担える人材にはどんなスキル・経験が必要か、どんな時給単価でどのくらい稼働していただいたらスタートアップ側のニーズに合致するのかといった条件の整理や言語化もサポートしています。

嶋田(ATOMica):業務委託の発注はスタートアップに欠かせませんが、実は、慣れるまではレベルの高い仕事ですよね。正社員であれば前職の給与水準があり、こちらの指示が多少曖昧でも週5日の勤務時間にすり合わせられます。一方、業務委託の方に適切な金額を提示し、適切な業務を依頼し、適切な進捗管理を行うことは難しい。私も初めて起業した24歳の頃「業務委託の方にお仕事をお願いするのって、正社員の方にお願いするのとは全然違う・・・」と途方に暮れたことがあります。

THE E.A.S.T.に入居すれば「Aさんの会社ではどうやって即戦力人材を発注した?」とスタートアップ同士で情報交換ができます。初期のスタートアップでは業務委託の契約期間や成果物の著作権の帰属など、業務委託契約書を準備していないこともザラにありますし、複業人材の採用では共通した課題を抱えているため、私たちはマッチングが成立するまで多方面で後押ししています。

藤田(ATOMica):「優秀な人材に業務を依頼したら時給単価が高そう・・・」と尻込みする方もいますが、プロフェッショナル人材は必ずしも高い時給を求めているわけではないため、お互いのニーズや目的をすり合わることで、納得のいくマッチングは実現できます。地方に移住しながら東京の企業で働きたいエンジニアが、そのライフスタイルを優先するために時給を下げて業務委託契約を結んだ事例もあります。

また、スタートアップが複業人材の発注に慣れておらず、依頼する業務が切り出せていなくても、複業人材は「業務依頼を受ける=明確な職種や条件が定まっているはず」と思っています。両者で情報の非対称性が生じる分、提案できる余白があるため、私たちは面接に進んだ複業人材に「先方はBtoBマーケターを募集していますが、あなたの強みを先方に伝えながら一緒に事業戦略を考えましょう」とも提案していますね。

「おためし複業」事業開発兼コミュニティマネージャー 藤田 崇志さん

「おためし複業」で必要な営業スキル、交渉術、経営者思考を獲得

― 今度は複業人材について伺います。どのような方が複業に興味を持っていますか?

藤田(ATOMica):大きく2パターンの方がいます。まず、正社員として1社で経験を積んできて、新たな分野や環境にも触れてみたい方。自分のスキルに漠然とした不安があり、他社でも通用するのかを試してみたいと思っています。2つ目は、ゆくゆくは独立やスタートアップへの転職を考えている方です。いずれにしても、明確な目的を持って勤しんでいますね。

おためし複業」でマッチングした後、複業先で活躍しているのは20代後半から30代後半の方、外部顧問やCxOとして活躍しているのは40代の方が多いです。「おためし複業」はまだ大々的に告知していませんが、複業先で実績を作っている方が自発的に紹介してくださるおかげで新規登録者が順調に増えています。

― 初めて複業に挑戦する方をどのようにサポートをしていますか?

藤田(ATOMica):今後の働き方がメンバーシップ型からジョブ型に移行していくのに先立って「育成カリキュラム」を設け、自分の名前で活躍するために必要な営業スキルや交渉術、経営者思考などを提供しています。スタートアップの経営者は常に忙しいので「この人に会いたい」と瞬時に想起していただけるプロフィールシートづくりにもこだわっています。自分のスキルを棚卸ししたら、それぞれに分かりやすいタグを付け、実績を紐づけていく。すでに複数社で活躍しているのに自分のスキルを上手く表現できず、時給単価を低く設定されてしまう方には「このご経歴だったら、もっとレベルの高い業務とマッチングできますよ」とPR方法を提案したり、個別相談に乗ったりしています。

― 「おためし複業」をきっかけに、皆さんは複業先でどのように頭角を現していますか?

藤田(ATOMica):本業でUI・UXデザインやプロジェクトマネジメントに携わっている方は、複業先でも新規サービスの開発に向けて上流部分の戦略立案や壁打ち相手を担ったり、開発チームのディレクションも務めたりしています。また、PMF(プロダクトマーケットフィット)を終えて拡大期に入ったSaaS事業でBtoBマーケティングを担当している方は、複業先でリード獲得に向けた企業戦略の策定に関わっています。他にも、経営者の視点に立って収益性の高いビジネスモデルや健全な財務戦略を立案し、経営戦略をもとに予算や目標値、実現の方策を設定するなど、複業先でも経営企画の力を思う存分に発揮している方もいます。

複業に挑戦した方々は最初、自分に何ができるのかが不安でしたが、育成カリキュラムでスキル・経験が明確になり、新しいお相手から感謝の気持ちを受け取った瞬間「築いてきたキャリアに意味があったんだ」と。収入が増えたことよりも、自己実現や社会貢献ができることに価値を感じていただいていますね。むしろそちらに価値を感じる方でないと、複業は上手くいかないのかもしれません。

「おためし」で複業する文化が進むとさまざまな制約が消え、新たな出会いやご縁が増えていく

やってみたいけれど挑戦できない。「なら、おためしで複業してみる?」

― 今後「おためし複業」をどのようなサービスにしていきたいですか?

嶋田(ATOMica):「おためし複業」の文化を作り、それをきっかけに選択肢を広げて楽しく過ごす方々を増やしていきたいです。「スタートアップでの仕事に挑戦してみたい。でも、一発目から起業したり転職したりするのって怖い」という方には「一旦、おためしで複業をやってみる?」を提案します。マッチングすればそのまま転職したり、本業とかけ持ちしたり、自分で起業したりしてもいいですよね。

スタートアップが「この方を採用したいけれど、相性が合わなかったらどうしよう」と悩む場合、3ヶ月から半年間はおためしで一緒にプロジェクトを走らせてみて、マッチングが高いと確信したら正社員採用をオファーする。「やってみたいけれど、すぐには挑戦できない・・・」は法人にも個人にもありますし、白黒はっきりさせなければならない話ではありません。

私たちは都内でこのサービスが軌道に乗ったら地方にも徐々に展開していきます。「地元に帰りたいけれど、面白い仕事がない(あるいは、面白い仕事があっても気づかない)」とお困りの方は多くいるため「軸足を地元企業に置いて正社員として働きつつ、都内の企業でも複業するのってどう?」と今までにない提案もできるかもしれません。「おためし」で複業してみる文化が進むとさまざまな制約が消え、新たな出会いやご縁が増えていくと考えています。

太田(三井不動産):「おためし複業」は、スタートアップや人材の成長を実現するサービスです。当初は日本橋エリアのスタートアップエコシステムを盛り上げていくことや、THE E.A.S.T.に入居したスタートアップを支援することを目指していましたが、現在は、スタートアップや複業人材が抱える課題や、彼らの人生を賭けた選択に携わっていることに身が引き締まる思いですね。

世の中ではジョブ型雇用へのシフトが進みつつあると言われていますが、メンバーシップ型か、ジョブ型かの両極のスイッチではなく、その間のグラデーションの多様性がカギではないでしょうか。「フクギョウ」も主・副の「副業」と、パラレル・マルチの「複業」のどちらにフォーカスするのがいいのか、どちらもいいのかはまさに議論しているところです。大企業が主・副の「副業」に取り組むことにも意義があり、メンバーシップ型で気づけなかった自分の強みを発見して磨きをかける機会や、長期的なキャリアを考える機会になるかもしれません。

この動きは、生産労働人口が減少する中で一人ひとりのパフォーマンスを上げていくことにも繋がります。メンバーシップ型が中心の日本で、各々がスキルアップして自分に合った仕事を見つけやすい状態を作るのは中長期的に重要です。さらにジョブ型雇用が活発になっていくと、地方で抱える課題に対してプロフェッショナル人材を集めてプロジェクトチームを結成して解決していける可能性も大いにありますよね。この取り組みを一歩ずつ着実に進めていった先には、働き方の自由と住む場所の自由の拡大があると予想しています。

藤田(ATOMica):私は複業で活躍している方やこれから試してみたい方がお互いに情報交換や交流、成長のできるコミュニティを育んでいきます。私自身も複業を経て独立していますが、収入が減るリスクや社会的な居場所を失うリスクと隣り合わせで戦ってきました。独立して体調を崩したりうつ病になったり、経済的困窮に陥って正社員に戻ったりする友人も沢山いました。

仲間が集う「複業家コミュニティ」があれば、お互いに苦労や喜びを分かち合い励まし合えるので複業先でいきいきと活躍できるし「挑戦してみようかな」と、気軽に複業を始める方も増えていくのではないでしょうか。今後も、皆さんが仲間と切磋琢磨しながら複業に挑戦していくために「おためし複業」をアップグレードしていきます。

― 嶋田さん、太田さん、藤田さん、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

(取材・文:佐野 桃木 写真:宮崎 朋佳)

【企業様向け】複業人材の採用についてご質問やご希望のある方は、こちらよりお問い合わせください。
「おためし複業」事務局: otameshi_fukugyou@atomica.jp

【個人様向け】複業を試してみたい方や、どのスキルで複業すればいいのかを迷っている方は、以下のフォームよりお気軽に「おためし複業」へお申し込みください。
https://forms.gle/RRHnxb4o7iJMQJGe7