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魔法少女の系譜、その136~『コメットさん』(大場久美子版)~


 今回は、前回までとは違う、新しい作品を取り上げます。それは、テレビの実写(特撮)ドラマです。
 大場久美子さん主演の『コメットさん』です。昭和五十三年(一九七八年)から、昭和五十四年(一九七九年)にかけて、放映されました。

 この『コメットさん』は、リメイクですね。さかのぼること約十一年前、昭和四十二年(一九六七年)から昭和四十三年(一九六八年)にかけて、九重佑三子【ここのえ ゆみこ】さん主演の『コメットさん』が放映されました。やはり、実写(特撮)ドラマでした。
 テレビドラマで、リメイクものが作られるようになったのは、何も、最近のことではありません。大場久美子さんの『コメットさん』のように、一九七〇年代から、作られています。四十年以上前から、やられている手法です。

 以下では、ややこしいので、九重版『コメットさん』、大場版『コメットさん』とします。

 九重版『コメットさん』は、『魔法使いサリー』と並んで、日本の魔法少女もの草創期の作品でした。『サリー』と、九重版『コメットさん』とが、大人気になったことで、その後、日本で、魔法少女ものの娯楽作品が、作り続けられることになります。
 九重版『コメットさん』は、日本の娯楽作品の中に、「魔法少女もの」というジャンルを作り上げた、偉大な作品でした。
 ただし、九重版『コメットさん』の時代には、まだ、魔法少女という言葉も、魔女っ子という言葉も、存在しません。これらの作品は、「魔法もの」、「魔法使いもの」などと呼ばれていました。

 大場版『コメットさん』の時代には、「魔女っ子」という言葉が生まれていました。「魔法少女」という言葉は、存在したかもしれませんが、普及していません。

 大場版『コメットさん』は、九重版『コメットさん』の設定を、おおむね、引き継いでいます。
 主人公のコメットさんは、宇宙人です。宇宙人だから、魔法が使えるという設定です。九重版も大場版も、ここは、同じです。
 九重版と大場版とでは、コメットさんが地球に来た理由が、違います。
 九重版では、コメットさんがとんでもないいたずらっ子で、いたずらをした罰として、地球に送り込まれます。良いことを積み重ねて、改心したと認められたら、故郷の星へ帰れるようになっていました。
 大場版では、コメットさんは、学校の卒業試験として、地球に送り込まれます。彼女は、地球で、「何か美しいもの」を探し出すことが、課せられていました。

 九重版のコメットさんは、成人なのですが、子供っぽいです。地球でも、時々、いたずらをして、騒動を起こします。
 大場版のコメットさんは、いたずらもしますが、基本的に、良い子です。いたずらネタの話よりも、恋愛ネタの話のほうが多いです。美男の俳優― 一九七〇年代に、イケメンという言葉は、まだ、存在しません―が、ゲストキャラとしてよく登場して、コメットさんと恋愛します。

 恋愛ネタが出てくる点で、九重版『コメットさん』の時代と比べて、「魔法少女もの(魔女っ子もの)」というジャンルの成熟を感じますね。
 九重版『コメットさん』の時代は、魔法を使う人が登場するだけで、新しいドラマでした。「魔法使い」は、普通の人と違う存在なので、恋愛の対象にはなりにくいです。伝統的な口承文芸の「異類」からの流れですね。「異類」と「普通の人」とでは、そもそも、対等な付き合いが難しいわけです。
 対等に付き合えない、自分と共通点がないと感じられる相手とは、普通、恋愛はできませんよね。

 大場版『コメットさん』では、宇宙人でありながら、コメットさんと地球人との恋愛が成立します。どこかに共通点がある、対等に付き合える相手だと思われるからこそですね。「魔法が使えるけれど、完全な異類ではない」という扱いです。
 ただ、大場版のコメットさんは、必ずしも、地球人を恋愛の相手にするわけではありませんでした。地球とも、自分の故郷の星とも違う、別の星出身の宇宙人が相手になることも、何回かありました。

 大場版の『コメットさん』で特筆すべきは、ウルトラシリーズとの関係です。ゲストキャラとして、ウルトラセブン、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンレオが登場する回があります。大場版コメットさんにとっては、何と、ウルトラマンタロウが、初恋の人ということになっています。ウルトラセブンは、友人です。
 『ウルトラセブン』も、『ウルトラマンタロウ』も、『ウルトラマンレオ』も、大場版『コメットさん』が放映される頃には、放映が終わっていました。『ウルトラマンタロウ』と、『ウルトラマンレオ』については、放映が終わった後の後日談が、大場版『コメットさん』で描かれる形になっています。

 大場版『コメットさん』は、ウルトラシリーズと、完全に世界観を共有するわけではありません。一部を共有する感じです。二〇二〇年現在の言葉で言えば、シェアードワールドでしょうか。もちろん、一九七〇年代に、こんな言葉はありません。
 まったくジャンルが違う―と、思われることが多い―テレビドラマ作品の間で、シェアードワールドが使われた、珍しい例ですね。

 九重版と大場版とを比べた場合、ヒロインの印象と、演じた女優さんの実年齢との差が、興味深いです。
 九重版では、演じた当時、九重佑三子さんは、二十一歳でした。成人済みです。でも、ドラマの印象では、子供のようないたずらっ子です。
 大場版では、演じた当時の大場久美子さんは、十八歳でした。ぎりぎり、少女と言える年齢ですね。でも、ドラマの中の彼女は、初恋を振り返る余裕がある程度には、大人でした。

 服装の違いも、興味深いです。
 九重版のコメットさんは、スカート姿が基本です。大場版のコメットさんは、前当ての付いた、オーバーオール型のショートパンツ姿の印象が強いです。実際には、これでずっと通していたわけではなくて、いろいろ、着替えているんですけれどね。
 『コメットさん』主演当時の大場久美子さんは、愛らしくて、オーバーオール型のショートパンツが、よく似合っていました(^^) だから、印象が強いのでしょう。

 ズボン姿の魔女っ子(魔法少女)というのは、一九七〇年代には、少数派でした。大場版『コメットさん』の前には、『ミラクル少女リミットちゃん』くらいですね。
 『キューティーハニー』は、変身した後にレオタード姿になりますが、この作品は、時代から突出して斬新だったので、一九七〇年代には、参考にしようがない感じでした(^^;
 『恐竜大戦争アイゼンボーグ』の立花愛や、『ウルトラマンA【エース】』の南夕子、『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』のアイちゃんなどは、ズボン姿の制服を着ています。けれども、彼女たちは、放映当時、「魔女っ子(魔法少女)」だとは、思われていませんでした。別ジャンルの存在でした。まだ、「戦闘(美)少女」という言葉が生まれる前のことです。
 一九七〇年代の見方で言う「魔女っ子」(魔法少女)では、大場版『コメットさん』と、『ミラクル少女リミットちゃん』とが、希少なズボン姿の「魔女っ子」でしたね。

 大場版『コメットさん』には、九重版に登場する、ベータンのようなマスコットがいません。ベータンは、日本の魔法少女ものにおけるマスコットの元祖ですね。
 大場版『コメットさん』の時代には、まだ、魔女っ子とマスコットとの明確な結びつきは、ありませんでした。

 このような違いがありつつも、大場版『コメットさん』は、九重版『コメットさん』から、多くのことを引き継いでいました。
 「魔法を使う時、バトンを使う」ことも、その一つです。『コメットさん』と言えばバトン、バトンと言えば『コメットさん』です。そのくらい、コメットさんというキャラクターと、バトンとは、分かちがたく結びついています。
 ずっと後、二〇〇〇年代になってからアニメ化された『コメットさん』でも、ヒロインがバトンを持っていて、それで魔法を使います。

 コメットさんが、日本の一般家庭に、「お手伝いさん」として住み込むことも、大場版が、九重版から引き継いでいます。
 九重版のほうは、ハリウッド映画『メリー・ポピンズ』を参考にして、ヒロインをお手伝いさんにしました。大場版は、それを忠実に受け継いでいます。
 一般家庭と言っても、お手伝いさんを雇えるのは、裕福な家ですよね。九重版も、大場版も、そこはきちんとそうなっています。
 大場版では、住み込む家のお父さんが声楽家で、お母さんが歯科医です。二人の間には、男の子が二人います。一九七〇年代に、夫婦でこの組み合わせは、非常にハイカラで、目新しいものでした。

 大場版のコメットさんも、お手伝いさんをやりながら、魔法の力で人を助けたり、騒動を起こしたりします。そうしているうちに、「地球人の心の美しい部分」に、気づいてゆきます。

 名作のリメイクは、期待されるぶん、難しいですね。けれども、大場版『コメットさん』は、九重版に負けないくらい、好評を博しました。
 『コメットさん』の主演前から、大場久美子さんは、当時のトップ級アイドルの一人でした。それが、『コメットさん』のヒットにより、さらに著名なアイドルとなりました。
 これにより、日本の娯楽作品の中に、一つの流れが生まれます。「当代人気の少女アイドルに、魔法少女を演じさせる」という流れです。大きな流れにはなりませんでしたが、一九七〇年代の末から、一九八〇年代にかけて、こういう流れがありました。

 九重佑三子さんも、『コメットさん』の主演前にデビューしていて、それなりに期待された女優さんでした。とはいえ、彼女を有名にして、トップ級女優にしたのは、間違いなく、『コメットさん』です。
 大場久美子さんの場合は、もともとトップ級アイドル歌手だったのが、女優に軸足を移す中で、『コメットさん』という作品に出会った感じです。

 前記のとおり、作品のリメイクは、難しいです。期待が高まるぶん、コケる確率も高いです。
 にもかかわらず、大場版『コメットさん』は、ヒット作となりました。これで、製作者の側が、味をしめたのではないでしょうか。「『コメットさん』みたいな魔女っ子を、人気のある少女アイドルに演じさせれば、ウケる」と。

 例えば、一九八〇年代には、薬師丸ひろ子さんが、『ねらわれた学園』の映画で、超能力少女を演じています。大場版『コメットさん』のヒットがなければ、こういう映画は、生まれなかったかも知れません。

 大場版『コメットさん』が、九重版『コメットさん』と並んで、名作といわれるのは、「当時の大場久美子さんが、トップ級アイドル歌手だったから」という理由だけではありません。
 大場さんの元気溌剌な魔女っ子ぶりは、むろん、称賛に値します。そればかりではなく、脚本、監督、演出、周囲の俳優さんたちの名演技、その他の要素が集まって、名作が出来上がりました。
 後の「トップ級の少女アイドルが、魔法少女を演じた作品」には、このことを踏まえなかったのではと思われる作品が、散見されます。それが残念です(^^;

 今回は、ここまでとします。
 次回も、大場版『コメットさん』を取り上げます。



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