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魔法少女の系譜、その168~手塚治虫の『ブッダ』~


 前回までで、「日本人以外の有色人種ヒロイン」と、「ターザンもの」の話をしましたね。
 今回は、一転して、新たな「魔法少女もの」の話をする予定でした。ですが、もう一度だけ、「日本人以外の有色人種ヒロイン」と、「ターザンもの」の話をします。

 以前、「日本人以外の有色人種ヒロイン」が登場する作品について、以下の一覧を示しましたね。

昭和四十三年(一九六八年) 『サインはV!』
      ↓
昭和四十六年(一九七一年) 『原始少年リュウ』
      ↓
昭和四十八年(一九七三年) 『はるかなる風と光』
      ↓
昭和四十九年(一九七四年) 『ファラオの墓』
      ↓
昭和五十年(一九七五年) 『アンデス少年ペペロの冒険』
      ↓
昭和五十一年(一九七六年) 『王家の紋章』
              『あやかしの伝説』
      ↓
昭和五十三年(一九七八年) 『海のオーロラ』
      ↓
昭和五十四年(一九七九年) 『機動戦士ガンダム』

 じつは、この一覧に付け加えるべき、重要な作品が、もう一つ、あります。
 しかも、その作品は、「日本人以外の有色人種ヒロイン」ばかりでなく、「ターザンもの」の要素も含んでいます。

 その作品とは、手塚治虫さんの漫画『ブッダ』です。昭和四十七年(一九七二年)に連載が始まり、昭和五十八年(一九八三年)に連載が終了しました。
 この作品は、仏教の創始者であるゴータマ・ブッダの伝記ですね。仏典にあるブッダの生涯を「原作」として、手塚さん独自の解釈も加えながら描いています。二〇二一年現在もなお、手塚さんの代表作の一つとして、売れ続けています。

 『ブッダ』の主役は、当然ながら、ゴータマ・ブッダその人です。舞台は、ゴータマ・ブッダが生きた古代インドです。したがって、登場人物は、ブッダ自身も含め、ほぼ全員が古代インド人です。一部に、ヒト以外の動物や、悪魔なども登場します。
 『ブッダ』には、女性キャラクターも、おおぜい登場します。けれども、メインヒロインと呼べるようなキャラクターは、いません。

 ゴータマ・ブッダは、生まれた時には、カピラヴァストウという国の王子さまでした。シッダルタと名付けられます。のちに、出家して、悟りを開き、ゴータマ・ブッダとなります。

 シッダルタを生んだ母マーヤは、出産後まもなく、亡くなってしまいます。シッダルタは、養母パジャーパティに育てられます。シッダルタがまだ幼いうちに、ヤショダラという妻と結婚させられます。
 マーヤ、パジャーパティ、ヤショダラなどの女性キャラクターは、仏典に記録があり、実在した人物と思われます。他にも、スジャータ、イダイケなど、仏典に記載される女性キャラクターが登場します。
 リータ、ミゲーラ、ユーデリカなど、手塚さんが創造した女性キャラクターも、何人も登場します。
 彼女たちは、ほぼ全員、古代インド人です。「日本人以外の有色人種ヒロイン」が、山盛り登場するわけです。
 唯一、架空の女性キャラクターであるユーデリカだけが、金髪碧眼です。彼女は、西方の国出身とされています。戦争捕虜として、古代インドに連れてこられたという設定です。

 これらの女性キャラクターの中で、ミゲーラの造形が、注目すべきものです。
 彼女は、恵まれない境遇に生まれ育ち、盗賊の女頭目となりました。のちに改心して、ブッダに帰依します。出家はせず、タッタという軍人の妻になり、三人の子をもうけます。
 盗賊の女頭目だけあって、彼女は、戦う女性です。眼をつぶされて盲目になってしまいますが、その状態でも馬を乗りこなし、軍人の妻にふさわしい活躍をします。普通の人なら、自殺しかねない悲運に、何度も見舞われながらも、そこから立ち上がってきます。非常に強く、格好いい女性です。
 昭和四十年代(一九七〇年代後半)に、このような戦闘少女―ミゲーラの年齢は不明ですが、最初に登場した時には、間違いなく十代です―を登場させるとは、さすが手塚さんですね。「日本人以外の有色人種ヒロイン」+「戦闘少女」を、『ファラオの墓』のアウラ・メサより早く、実現しています。

 『ブッダ』の中には、「ターザンもの」の要素も含まれます。ゴータマ・ブッダの敵として有名な、ダイバダッタのエピソードです。

 これは、手塚さんの創作部分ですが、ダイバダッタは、幼いころに自分の家から追放され、オオカミの群れに拾われます。そこで、狼少年として育ちます。オオカミのような体力と、ヒトの知恵を持つ存在となり、しばらく野生生活をします。いろいろあって、人間の生活に戻り、ブッダの弟子となります。のちに、ブッダに反旗を翻します。

 手塚さんの『ブッダ』よりずっと前に、『ジャングル・ブック』が日本に紹介されていました。また、『ブッダ』の連載が始まる九年前に、テレビアニメの『狼少年ケン』の放映が始まっています。ダイバダッタの狼少年エピソードは、直接的に、『ジャングル・ブック』、あるいは、『狼少年ケン』に触発されたのかも知れません。
 それにしても、昭和四十年代(一九七〇年代後半)の時点で、「日本人以外の有色人種ヒロイン」+「戦闘少女」に加え、「ターザンもの」の要素も入れるなんて、すごいとしか、言いようがありません。どれだけ先見の明があったのでしょうか、手塚先生。

 「日本人以外の有色人種ヒロイン」が登場する作品一覧に、『ブッダ』を入れて、更新しておきますね。

昭和四十三年(一九六八年) 『サインはV!』
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昭和四十六年(一九七一年) 『原始少年リュウ』
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昭和四十七年(一九七二年) 『ブッダ』
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昭和四十八年(一九七三年) 『はるかなる風と光』
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昭和四十九年(一九七四年) 『ファラオの墓』
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昭和五十年(一九七五年) 『アンデス少年ペペロの冒険』
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昭和五十一年(一九七六年) 『王家の紋章』
              『あやかしの伝説』
      ↓
昭和五十三年(一九七八年) 『海のオーロラ』
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昭和五十四年(一九七九年) 『機動戦士ガンダム』

 今回は、ここまでとします。
 次回こそ、新たな魔法少女作品を取り上げる予定です。



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