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AIはaikoを超えられるのか?

先日、NHK-FMでaikoの歌手活動25周年を記念して「今日は一日“aiko”三昧」という特番を放送していた。
その番組でOAされた数々のヒット曲を振り返りながら、aikoにずっと感じていた一つの印象が明確になった。

番組によると、aikoの歌唱には、aikoリズム、 aikoブレスと称されるほど独自性があるということで、非常に同感だなと思うと同時に、個人的には「aikoピッチ」が一番気になっていたことを思い出した。aikoの楽曲はサビで「行き切らない」印象があるのは何故なのか、おそらくずっと気になっていた。

前提として、aikoは歌唱力がすごくあって、低音から高音の複雑な進行を地声とファルセットを組み合わせて歌いこなす印象があり、ほとんどの場合音程は非常に正確だと感じる。でも、ネット上には音程が不安定だと指摘するコメントも少なからず見られる。今回はそれに対しても持論を展開したい。

例えば代表曲「花火」「ボーイフレンド」、さらに個人的に好きな曲「蝶々結び」を切り取ってみる。

どの曲もサビは高音になることが多く、普通だったら声を張り上げると同時に情感も絶頂になるであろうフレーズが並んでいる。だが、確実に高音にはリーチしているのに、はみ出さないレベルに制御されている気がするのだ。
これを分解すると、若干、実音そのものより気持ち低く捉えているように聴こえる部分が、ある。

「ボーイフレンド」でいうと「Ah テトラポット登って」だが、この「Ah」のピッチはまさにaikoピッチと言うことができそうだ。扉が全開ではなく、8割くらいの開きというか。この思い込みをより具体的に言うなら、Cの音を441Hzで取るか440Hzで取るか、というレベルの微差。
ちなみにさらに高音に行く「てっぺん先睨んで」の「先」の音程の取り方も同様。トラックがカントリーのリズムでジャジーなアレンジであることも手伝って、この「ジャスト過ぎない」aikoピッチが絶妙にマッチしている。

他の曲でも見ていく。「花火」の場合、前述のぶら下がりに加えて、しゃくりの現象が多くある。
Bメロ(「三角の目をした〜」)はフレーズ全体としてぶら下がり傾向。でも「聞いて」などとりわけ高音の部分はしっかりと当てている。
サビの「こんなに好きなんです 仕方ないんです」の「ないんです」は、「な」を思いっきりしゃくりあげているが、このしゃくりの効果は聴感上かなり重要で、例えばこれらを一切なしにして、単純に正確な音程で「な」を当てるとすると、前の音からの跳躍が大きい分、今より強いアタックになってしまうので、唐突な印象が残るはず。これも、この曲のリズムがややブギー/ジャジーで後ろノリであることが、脈々としたaikoピッチとマッチしていると言えるし、シンガーソングライターなので、どちらかというと曲に合わせてアーティキュレーションを調整した結果こうなっている、ということかもしれない。

最後に「蝶々結び」に触れたいと思う。
この曲も上記2曲と同じくJ-POP的でありながら、アレンジ、リズムは非常にジャジーである。ただこの中では一番、ボーカルラインがJ-POPらしく仕上がっている。
まずサビ直前「抱いて 抱いて」だが、これは前述にもあるaiko定番のしゃくり。サビは「過去にも2人は」の「た」が、若干低い。これはポイントになっていて、もしこの「た」を正確にアタックしたら大きく味が変わる。一方その後の「出逢ったならば」の「ら」はしっかり音程を当てている。さらに「恋をしたね」の「恋」は3度上にハモを重ねてあることもあって一聴しただけでは「C」にも「B」にも錯覚できるのが面白い。
その後も見ていくと、「この気持ち 言い切れるほど」の「き」も、大きくしゃくっていたり、aiko曲の中でも比較的高音をキープした中での移動が多いだけに、若干苦しそうに聴こえる人もいるかもしれない。

もしかすると「aikoピッチ」は、本人の感性による偶発的なものも含むのかもしれないが、聴き込むとかなり精緻なレベルで「音程を当てる箇所」と、「しゃくる箇所」、「敢えて少しぶら下げる箇所」、が歌い分けられているように自分は感じる。
どちらかというと、人間の声より、ヴァイオリンの構造に近いのかも?
ヴァイオリンは弦楽器の中でも最も肉声に近いと言われるが、旋律を弾く際、常に4弦を行ったり来たりするため運指によっては下からしゃくって当てたり、少しぶら下がった音程にする(なる)こともある。。

終わりに。
今回aikoピッチについて考えて思ったことは、
aikoの細かい音程の揺れは、AIが生成するのが一番苦手なタイプかもしれない、ということ。
AIによる楽曲生成が一般的になってきた昨今、ボーカロイドが音程ジャストでしか歌えなかったように、基本は「正しい音」を模倣するのが機械の得意。
aikoの歌の特徴である「正確な音程に固執しないグルーヴ重視の音程の揺れ」は、人間の聴感上は見事に特徴を覚えさせるものの、一般論で、また理屈でパッと”良さ”を説明をすることは難しい。
つまり、音楽的・グルーヴ的にOKとされるラインを考慮して”音程の揺れ”までを生成することは、今のAIには流石に難しいのではないか?と思うが、、
もしかして、これらもゆくゆくは人工知能が学ぶことが可能なのか?

そんなことを考えるきっかけになった、aikoラジオ特番からの、aikoの歌の振り返り。
やっぱaiko、名曲揃いですね。

読んでいただきありがとうございました。


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