見出し画像

日本でも注目集まる「Tiny Desk Concerts」の楽しみ方

 10日ほど前、「Tiny Desk Concerts」の日本版に藤井風が出演したというニュースを目にした。

実際にNHKで放送がなされたのはその数日前ということだったが、3月20日にYouTube公開された【tiny desk concerts JAPAN】藤井 風「満ちてゆく」〜は、すぐさま急上昇動画トップ10前後にランクイン。これをきっかけに「Tiny Desk Concerts」そのものを知ったという人も多いのではないかと推察する。

ただし日本版のYouTubeでの扱いは本国と違い、アイコンであるオープニング映像がなく、1曲のみの切り抜き編集で期間限定公開という形だった。全編はNHK総合と+で放送/配信されており、「NHK WORLD JAPAN」でも数回放送されるということがなかなかハードルが高く、筆者はフルサイズでは見れていない。

ともあれ、「Tiny Desk Concerts」に注目が集まっている良い機会なので、個人的な同番組の楽しみ方と、お気に入りのアーカイブ動画について書きたいと思う。

「Tiny Desk Concerts」は、アメリカの公共ラジオNPRが2008年に始めた音楽プログラム。Tiny Deskとは「小さな机」という意味で、NPRのオフィスに設置されたTiny Deskをステージに見立て、さまざまなアーティストが生演奏を披露するというもの。
一目でわかるように、狭いスペースに集まったミュージシャンたちが、時には”流石に無理があるのでは?”というくらい、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた状態でセッションする。その様はまるで、「借りてきた猫」だが、しかし窮屈さ故のマイナス要素を全く感じさせないスケールの大きな音楽を奏でるのが醍醐味だ。

おそらく、本国では実際のオフィスそのものを使っていて、美術的な作り込みがほとんどされていない。そのためデスクの散らかり具合、背景の本棚に陳列するLPや書籍など、局にありそうな感じの自然な空間がそこにある。それが、作り込まれたステージとは相反する魅力的な演出として効いているのだ。

日本版を見たときの違和感としてはこの美術の部分が大きい。渋谷にあるNHKオフィスとのことだが、小綺麗に整えられた室内ライブスペースに、観葉植物がちらほら。神々しさを醸し出すような木漏れ日系の照明ーーミュージシャンも楽器も、それぞれが十分なスペースを保持して配置されている。良い悪いではなく、全く違う趣旨のステージに感じてしまった。

本国版に話を戻すと、番組に出演しているアーティストは、多くが世界的な知名度を持つ大物。通常であれば大掛かりなステージ装置や照明、音響システムが完備された場でパフォーマンスすることが主であろうという中で、基本的に皆が番組に用意された環境的な条件のもと、ライブを行っているというわけだ。
(ちなみに「Home」というラインは、パンデミック中の措置として、アーティストからバーチャル・パフォーマンスを提供してもらう形をとっていたそうで、上記の定義とは異なる)

演奏面も、イメージ通りその場で生音を出しているアーティストがほとんどだが、ややテクスチャに共通点のあるMTVアンプラグドとは違い、音楽・アーティストのジャンルを相当広めにとっているということもあって、場合によっては一部同期音源(あらかじめ録音してあるサウンドトラック)を流して重ねている演者もいるという印象だ。

以上、番組の楽しみ方・特徴をかいつまんだ上で、最近特にお気に入りの本編を紹介したい。
とかく圧倒的なものを見せてくれたのは、3月中旬に公開されていたJustin Timberlake

完璧にTiny Desk仕様にアレンジを詰めたであろう自身の楽曲を、てだれのミュージシャンたちと過去最大(?)の人口密度で披露した。
ホーン隊とコーラス隊を贅沢に入れ「生」の要素を強調しつつも、原曲のアウトラインを出すべき箇所ではDJとシンセキーボディストが抜け目なくその役を果たす。
このメンバーで普段からライブやってるのか?と思うほどの完成度の高さで、一回限りの本当に特別なライブを見せてもらった気持ちになった。

このところJustin Timberlakeの活動をほぼ追いかけていなかった身としては、こんな引き出しのある中年に進化していたのか、と感慨深い気持ちもあり、同時に、やはりトップオブトップを極めたアイドルであり、マイケルに正しく影響を受けたアーティストの成せる業だなと、同時代を生きている1人の人間として胸が踊った。

セットリストは下記。

SET LIST
"Señorita"
"Rock Your Body"
"Pusher Love Girl"
"Until The End Of Time"
"Selfish"
"What Goes Around"
"SexyBack"

Tiny Deskの醍醐味と特にマッチしていた「Señorita」、「Rock Your Body」は生音の配置により、よりファンクな味付けに。そして本人も「It they said we they said don’t do this song at tiny desk….」と言及していた「SexyBack」といえば、Justinの14年前の大ヒット曲でありしばらく代名詞的に認識されたナンバーだが、この曲のステージはいつもド派手で女性パフォーマーを引き連れての演出だったことを思い出す。音もEDMまではいかないまでも、強めのベース音をミニマルにループし、ボコーダーを多用したヴォーカルが印象的で、とうてい生音スタイルとは結びつかないものだったがーーまさか2024年にこういった形でカムバックする日が来るなんて、本当に面白いなと思うしかなかった。

ミュージシャンのリストは下記。

MUSICIANS
Justin Timberlake: lead vocals, guitar, keys
RaVaughn Brown: vocals
Camry: vocals
Erin Stevenson: vocals
Kenyon Dixon: vocals
Justin Gilbert: keys
Mike Reid: drums
Elliot Ives: guitar
Derrick Ray: bass
Leon Silva: saxophone
Kevin Williams: trombone, flute
Dontae Winslow: trumpet
Sean Erick: trumpet
Adam Blackstone: keys, percussion, music direction
Andrew Hypes: DJ

”知っているヒット曲が別の形に昇華された”という意味でいうと、Lizzoの2019年に公開されたパフォーマンスは、見た目も音も、すごかった。

セットリスト、ミュージシャンは下記。

SET LIST
"Cuz I Love You"
"Truth Hurts"
"Juice"

MUSICIANS
Lizzo: vocals, flute; Devin Johnson: keyboard; Dana Hawkins: drums; Vernon Prout: bass; Walter Williams: guitar

代表曲「Juice」はやはりラスト。若干、いや意識的にか、歌が楽器隊に対してかなりモタっているのが返って凄みを増していた。この番組ならではの色が出たアコースティックな「Juice」には一見の価値も一聴の価値もありすぎた。
アレンジは、ベース、パーカッション、ギター、キーボード、そして、Lizzoのフルートという最小単位ともいえるような布陣で、引き算の賜物のような仕上がりになっていた。
特にヴォーカルは、後半疲れて息が上がっていそうに見せかけて、フルートパートになると息遣いには一切のブレがなかったり、ラストに絶叫のようなビブラートをかけてきたりと、元来の豊かな表情や声の色調が際立っていた。
やはり一流のヴォーカリストでありミュージシャンの彼女だが、昨年訴えられた問題により最近は見聞きすることがグッと減ってしまったこと、その現実に改めて嘆息した。

個人的な好みで一番触れたかったのは上記2つのパフォーマンス。
そして以下3つは、最近「Tiny Desk Concerts」に興味を持ったという人には、是非観てもらいたいと思う”間違いない”と推せるパフォーマンスたち。

・Alicia Keys

見所:課金したいくらい素晴らしいライブ。Aliciaのすごい筋肉にも注目。

・Hiromi(上原ひろみ)

見所:上原ひろみは自分の自己紹介をしない……

・Bono and The Edge

見所:Bonoの歌の響きがどんどん良くなっていく。シンプルなので曲の骨格を味わいつつも、新たな気づきがある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?