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ちおこ(地域おこし協力隊)メンバーの仕事や生活などを知り、ちおこ募集事業者を巡る旅「岩手県・大槌町 ちおこ旅」。
あっという間に時間は過ぎ、今回の旅もついに、最終日となる3日目を迎えました。

ちおこ旅 3日目(1月29日)


■8:40 各自が選んだ「ちおこ受け入れ事業者」の見学へ

宿泊先をチェックアウトした後「おしゃっち」に集合。
「NPO法人吉里吉里国」「大槌復光社協同組合」「大槌町移住定住事務局」のうち、それぞれが選んだ1社を見学します。
行先ごとの車に分かれて、大槌での最後の一日がスタートしました。

■9:00 「大槌復光社協同組合」でサーモン養殖施設を見学

今回密着したのは、“岩手大槌サーモン”の陸上養殖と、淡水サーモン“桃畑学園サーモン”の養殖に取り組む「大槌復光社協同組合」を見学するチーム。

大槌川沿いの道を、山間部へ向かって車を走らせ、15分ほど。
辿り着いたのは、桃畑地区にある“桃畑養魚場”です。
さっそく「復光社」理事の金﨑さんからお話を伺います。

「大槌復光社協同組合」の金﨑さん(写真左)
初日の夜の懇親会にも参加してくれていました。

サケの漁獲量が激減する中、ギンザケの養殖を始めたのは2019年のこと。
現在は地元の職員たちが中心となる中、ブランディングなどの面で、外部の新しい視点が必要であると感じ、ちおこを募集しています。

昨日お会いした先輩移住者・大場さんが代表を務める「NPO法人おおつちのあそび」と協力して、昨年から養魚場の生け簀で”釣り体験”のプログラムも始めました。
「釣って捌いて、食べるところまで体験できる。とても良い企画になって、子どもたちがとても喜んでくれました」と、嬉しそうに話す金﨑さん。
「淡水育ちの“桃畑学園サーモン”は、町内での消費・循環を目指しています。大槌に来ないと食べられない、本当の意味でのご当地サーモンに育てていきたいです
これからの展望と期待を込めて、思いを語ってくれました。

もちろん、昨日お昼に食べた“サーモンコロッケ”も話題に上がります。
「クリームコロッケなんてアイデア、俺らじゃとても思いつかないよね!」
若者ならではの発想に驚きと感心を語りながら、金﨑さんは腕を組みます。
「さっぱりして食べやすく、料理に向いている…そんな“桃畑学園サーモン”の良さを、ちおこの山﨑さんが活かしてくれた。イベントでも販売してみたのですが、皆さん『美味しい、美味しい』と言ってくれて、一日で700個ぐらい売れたんじゃないですかね」

嬉しそうに話す一方で、見えてきた課題もありました。
町内での認知度の低さや、価格面の難しさです。
「テレビ出たり、話題になると『どこで食べられますか、買えますか』って必ず電話が来るんですよ。でも、仕入れてくれる魚屋さんや飲食店が無いと、案内することもできない…」

漁師町である大槌町で、サケは“貰うもの”であり、”安い魚”でした。
不漁や燃料の高騰が続く昨今でも、そのイメージを変えることは容易ではありません。
”養殖もの”に抵抗を持つ人も少なからずおり、加えて今年は猛暑や獣害などの損失で、これ以上の値下げは難しい…。
町内での消費・循環を目指す”桃畑学園サーモン”でしたが、なかなか地元の鮮魚店や飲食店の仕入れに繋げることができずにいました。

そこで金﨑さんが考えたのは、大槌町からあえて飛び出すこと。
「町内での消費・循環を目指す上で、町外から評判になれば、町の人の見方も変わっていくんじゃないかと考えました」
盛岡市内の飲食店にサンプルを持参したりと自ら営業を続け、現在は使ってくれるお店も少しずつ増えてきたと言います。

参加者の皆さんが真摯に耳を傾ける中、金﨑さんは最後に、切実な思いを語ってくれました。

「大槌は、海も山も『なってもある(何でもある)』と言ったりもしますが、近隣だって同じ。”新巻鮭”発祥の地とは言え、そのサケが海や川に帰ってこないのが現状です。三陸の海は変わった。朝の市場に響く声、エンジンや滑車の音。ワチャワチャとしたあの賑やかさが恋しい。…そんな中で、私たちや、漁業に携わる人たちは今、なんとか精一杯やっています。だからこそ、皆さんの視点や、力を貸してほしいです」

生け簀を見学し、餌やりの体験もさせてもらいました。
寒い時期は餌をあまり食べないそうですが、この日は水しぶきを上げて元気に食いつく様子も。

「大槌復光社協同組合」と金﨑さんの詳しい記事はこちら

■ 「MOMIJI株式会社」で大槌ジビエと“いのち”に触れる

3チームに分かれていた参加者の皆さんは、再度集合。
全員揃ったところで、先輩ちおこのお話で何度も話題に上がってきた「MOMIJI」の取り組みについて、お話を伺っていきます。

すっかり顔なじみとなった先輩ちおこ・工藤さんが、社内の設備を案内しながら、鹿が解体・加工されて食肉になるまでの過程を説明してくれました。

「MOMIJI」といえば、大槌ジビエ、鹿肉…というイメージがありますが、その業務は多岐に渡ります。
「状態によっては食肉に加工できない場合もある。ハンターさんから引き取って、一定数溜まったら焼却炉に持っていく仕事も請け負っています。鹿がどんな物を食べているのかなどを知るため、胃の内容物を調べる検査も最近始めました。あとは主に、連絡を受けての出動です。大槌でも、クマやイノシシが町に降りてきてしまうことが増えていて…。猟友会のハンターさんは別に本業があるので、うちで対応しています。罠を仕掛ける時は、大きさにもよりますが、男性2~3人がかり。車が入れないような場所もあって、運び込むだけでもとても大変な仕事です」

先輩ちおこ・工藤さんのお話を聞いていると、社長の兼澤さんが戻ってきました。
まさに今、罠を仕掛けるため現地の下見に行ってきたとのこと。

「“MOMIJI”のスタッフは、ほとんどが外からやってきた人。ずっとこの町に住む自分の視点や、大事にしたいもの。みんなが魅力を感じる外からの視点。それらが相まって今、良い方向に向かっていると感じています」
参加者・ヤンさんのお子さんたちにも伝わるよう、兼澤さんは優しく語りかけました。

参加者の皆さんの質問や素直な感想に、笑顔で答えてくれる兼澤さん(写真中央/男性)

「この子は、メス。2歳ぐらいかな」
手渡されたお皿には「MOMIJI」自慢の鹿肉と、確かな”いのち”の重み。
試食した参加者の皆さんは、その美味しさに目を輝かせました。
その様子を、誇らしげに見渡していた兼澤さん。
「やわらかく、クセがない。それでいて深みがある。牛肉よりも美味しいと言ってくれる人もいます。もちろん、獣臭く噛み応えがあってこそ鹿肉…という意見もありますが、“MOMIJI”ではより一般的に、家族みんなで楽しんでもらえるような鹿肉を目指しています

ヤンさんのお子さんたちは、初めての鹿肉に「美味しい」とにっこり。
兼澤さん「初めて食べたのがうちの鹿肉だった子は、みんな鹿肉大好きになるよ!」

鹿肉の味わいが口内に残る中、その“いのち”を巡るアニメーションを視聴。
先輩ちおこ・工藤さんが脚本を手掛け、町の保育園や小学校でも授業に取り入れられているそうです。
物語は、森で暮らす鹿の親子から始まっていきます。
母さん鹿は『私の魂は、ずっとこの森で生き続ける』と小鹿たちに語り…。

「害獣、獣害と言われて、悪さをする鹿だけれど、それは人間の一方的な視点なんだということを忘れないで欲しい。人も、鹿も、自然の一部なんだよと、子どもたちに伝えられるアニメーションを工藤さんが作ってくれた。“いのち”の循環というものを、大槌で少しでも実感してもらえたら嬉しいです」

兼澤さんは一人一人の目を見つめながら、しっかりとした口調で話してくれました。

ご厚意で「鹿革キーホルダー作り」の体験もさせてもらいました。
こちらは参加者・ミィさんが、自分の作品を撮影したお写真。

「MOMIJI」と兼澤さんの詳しい記事はこちら

■12:00 「おしゃっち」に戻り、旅のまとめ

「今後に向けて、改めて下調べをして、学び続けていきたいです」
「地元の人との懇親会が少し不安でしたが、皆さんあたたかくて…」
プログラムを終えたばかりの皆さんから、素直な感想が語られていきます。

「人の力を借りるって、大事なんだなと思いました」
そう切り出したのは、ヤマタクさん。
「自分はやはり、都会と地方と、二拠点での生活を目指したい。大変だったり、難しいこともたくさんあると思うけれど、お互いに助け合いながらであれば、自分にもできるかもしれない。改めて、やってみたい!と思いました。大槌にまた戻ってきたいです

初日のオリエンテーションでは緊張気味だった皆さんも、最後はリラックスした笑顔に。

移住定住事務局の運営元である(一社)おらが大槌夢広場・代表理事の神谷は最後に、こう結びました。
「都会の幸せ、田舎の幸せ。それぞれを改めて考え、感じてもらえたのではないか。ヤマタクさんに『戻ってきたい』と言ってもらえて良かった。今回の旅では、事務局と参加者という立場でしたが、皆さんと次会う時は『おお!また来たね』『来たよ!』とフランクに声を掛け合いたいです。大槌で3日も一緒に居て、もう“顔なじみ”ですから

一抹の寂しさを感じながらも、再会への期待が膨らみます。
笑顔で挨拶を交わし、参加者の皆さんは、それぞれの日常へと帰っていきました。

記事4本に渡りお送りしてきた今回の「ちおこ旅」レポート。
いかがだったでしょうか。
ここに書き切れなかった出来事も、もちろんたくさんあります。
大槌に来て実際に見聞きするからこそ、本当の意味を持つ言葉も、きっとある。そして何より、参加者の皆さん一人一人が感じたこと…質問や感想などで口に出なかった、まだ言葉にならなかった感情こそが「ちおこ旅」の意味になっていくのだと感じました。
参加者の皆さんとの交流は、私たち地元出身スタッフにとって、故郷・大槌を見つめなおし、改めて自分や家族の未来を思う時間でもあります。
日々の暮らしや“当たり前”の中でどうしても見失ってしまう、大槌という町の魅力と課題。「大槌復光社」の金﨑さんが打ち明けた『皆さんの視点や力を貸してほしい』という言葉の重みを痛感する一方で、参加者のヤマタクさんがくれた『誰かと助け合いながらであれば、自分にもできるかもしれない』という言葉が、大槌で生きる私たちの背中を押してくれています。

次回の「ちおこ旅」は、2024年夏に企画される予定です。
悩んでいるひと。迷っているひと。再出発を願うひと。
ふとしたきっかけや偶然が繋がり、巡り、訪れた”今”。
この記事を読んでいるあなたに、大槌町で出会えることを祈って。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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