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睡眠

睡眠という行為に、いつも不思議な感触や畏怖の念を覚える。眠りに落ちると日常からすっぱり解き放たれ、夢を見るとか見ないとかにかかわらず、まったく別の世界に連れこまれる。無意識の中に、深く深く潜り込んでいく感覚である。目覚めると、いつもの景色がひろがっていて、「そういえばこの世界で生きてたな」というのを思い出す。目覚める直前というのは、定刻通りに出発する潜水艦にあわてて飛び乗って、意識の底から急浮上し、なんとか現実世界にたどりつくような感覚がある(同時に浮かび上がらなかったら、どうしようという焦りもある)。眠っているあいだ、五感を通じて取り込まれたさまざまなインプットが整理され、昨日のできごとの多くは過去の残滓となり、それが集められ腐葉土のようになり、新たなインプットを受け止める柔らかな土壌をつくる。寝ることで、新しい1日を迎えるための準備が整っているのだ。

ちゃんと眠りを理解して、もっと良い土壌をつくりたい。たまたま雑誌をみていたら、星野リゾートの社長が、睡眠マネジメントをsleep meisterというアプリでやっているという。興味を持ったので、ダウンロードして、睡眠効率というものを算出してみた。これは眠っているときの挙動を自動感知し、眠りの深浅をグラフ化することで、就寝した時刻から眠りに入った時刻、中途覚醒がどのくらいあったかなどを測定して、睡眠効率をみちびき出す。今週は月曜日が82%だったが、ほかはおおむね90%を超えているみたいだ。なんとなく数字やグラフはわかるんだけど、それがどうしたという感はある。原因が特定されるわけではないので、睡眠効率がわるかったら、間違った判断をしないように気をつけようと意識するくらいだろうか。とはいえ、やはり数字が低いときは、脳のはたらきが落ちていると感じる。

このアプリにはsleep talkという、寝言を自動的に録音してくれる機能もある。多くは寝返りによる布団の音なんだけど、1日8回くらい録音されていて、無意識のうちにこれだけ移動しているというのも驚きである。ただ、この機能もなんのためにあるのかよくわからない。面白い寝言とか言っていないか聞いてみたいんだけど、毎朝それを確認するヒマはなかなかないものだ。もう少し高機能になったり、データがたまってくると、寝言による夢診断などできるようになったりするのだろうか。アメリカで展開しているAmazon Echoという人工知能スピーカーがあるんだけど、それは肉声による「クラシック音楽をかけて」とか「ピザを宅配して」といった、さまざまなオーダーを叶えてくれる素敵なデバイスである。家庭内のあらゆる音を収集して解析するということだが、いずれいびきとか寝言とかも収集されて、そのデータによって彼らの対応が変わったりもするのだろうか。目覚めが悪かったらモーツァルトが自動的に流れて癒やしてくれる、なんてね。

眠りの世界は奥深いけど、あまり知りすぎてもいけないのかもしれない。恐れをいだきつつ、つつがなく無意識に抱かれる日々を送りたいものだ。

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