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それぞれ紡ぐ物語

小さくて可愛いものが好きです。
紙もの、木のもの、ガラス、布、陶など。

それらを好きだと感じる時に浮かぶのが「物語」という言葉。
「物語が始まるようだ」とか
「手のひらから広がる物語」など。

情緒や風情。奥行きや広がり。流れの中の煌めき。大切なものを表す時のキーワードとして使っているけれど、

そもそも「物語」って何だろう?
私にとっての「物語」って何だろうと
ここのところずっと考えていました。



物語とは-辞典より

物語【ものがたり】
①物語ること。また、その内容。
②語り伝えられて来た話。
③〔平安時代以降の〕散文の形式を取った文学作品。「たあいも無い-に過ぎなかった/-上の人物/-性・歌-・説話-・軍記-」

新明解国語辞典 第八版


①物を語ることは全て「物語」だという。
さらにそこから②③が成立していく。

私が表現として使う「物語」は①なのかな。
物言わぬ雑貨たちが何かを語りかけてくるようだ、という意味で。分類するならこれで充分ではあるが、もう少し調べる。


-源氏物語「蛍」より

③平安時代以降に物語作品が成立する。現存最古は「竹取物語」。そして「伊勢物語」「源氏物語」なども平安時代の文学作品。
時代が移り変わってもなお②脈々と語り継がれてきた。

ラジオNHK第1で「マイあさ!」という番組が放送されており、その中で「古典さんぽ」コーナーがある。
イタリア出身の翻訳家イザベラ・ディオニシオさんが、源氏物語の解説とおすすめスポットを紹介するもの。

私は源氏物語をしっかり読んだことは無いが、イザベラさんが分かりやすく情熱的に話してくださるので興味深く拝聴している。
3月16日は「蛍」の帖だった。


光源氏36歳。玉鬘(夕顔の娘)を養女として迎えている。
女君たちが絵巻物を読んで過ごす雨の季節。物語に夢中な玉鬘に、彼の「物語論」を話す場面。
紫式部が光源氏を通して語った「物語論」とは。

その人の上とて、ありのままに言ひ出づることこそなけれ、善きも悪しきも、世に経(ふ)る人のありさまの、見るにも飽かず、聞くにもあまることを、後の世にも言ひ伝へさせまほしき節々を、心に籠(こ)めがたくて、言ひおき始めたるなり。


対象となる人物は誰であれ、物語は真実の通りに書かれているわけではありません。良いことも悪いことも、この世に生きている人々の人生において、見ているだけでは満足できず、または聞いてるだけで自分の胸ひとつには収まりきれないことを、後の世にも伝えたいと思えるいろんな事柄を、心にしまい込んでおくことができなくて、語り伝え始めたものです。

イザベラ・ディオニシオ訳


イザベラさんはこう続ける。

物語の役割は千年経っても変わらないということが分かります。

物語は特定の人物に起こった出来事を記すものではなく、実際に世の中を生きている全ての人間の事、すなわち社会を描くものです。
そして物語において語られている感情・欲望・期待・恐怖など、その全てがきちんと読者の1人1人の中にも存在しています。

今も昔も「物語はわれわれ人間の心を豊かにするものだ」と紫式部が教えてくれるんですね。

マイあさ!イザベラの「古典さんぽ」より


想いがあふれて収めていられなくなった時、物語は生まれる。そしてその想いは、ちゃんと皆の中に存在しているのだという。

誰かの中にある ひとしずくが熱を帯びて広がった時、私たちの心が震えるのは自然なことなんだ。


物語は香りのようなもの

否応なく立ちのぼる物語。
それは ふわりと匂い立つ香りのようなものなのではないか。ある時ふとそう思った。

私が何かに「物語」を感じる時は、そこに取り巻く気配(香り)に反応しているのかもしれない。とりわけ珍しい発見ではないにしても、なんというか、しっくり来る。

それこそ源氏物語を題材にした「源氏香」(香りを当てる遊び)が江戸時代からあったそうだし。物語と香りは親和性が高いのだろう。

好きな香り。苦手な香り。新鮮な。刺激的な。いつかどこかで、会ったような。うわっ!て言いながら再びクンクンしちゃったり。ああ好きと、深く吸い込もうとしたり。

そしてどんなに関係ないと思うことでも、自分のフィルターを通して反応している時点で、既に知っていると言えるのかも。
奥にある自分が見えるのだから。


あなたの紡ぐ物語に触れたい

文章、絵、彫刻、写真、音楽、踊り、いつものお喋り。
あらゆる所、あらゆる表現で皆が「物語」を紡いでいて。

その中でもnoteは距離感が近いように思う。
皆が語ることの出来る自由な場所。

内容は私的な事柄から情報系まで多岐にわたるが、どんな形であれ文章から「人」がにじみ出る。香り立つ。

だから私はつい惹かれ、
知りたくて、触れたくて
ここに来てしまうのかもしれない。


* * *

私は皆さんの「物語」に触れるのが好きです。

私自身は、曖昧だけど。
ここに来て触れることで自分を知り、徐々に輪郭をくっきりさせたいなと思っています。

今日もまた 紡ごう。
それぞれの 物語を。






参照・参考
ラジオNHK第1 マイあさ! 土曜さんぽ-イザベラの「古典さんぽ」3/16放送「源氏物語・蛍」

note記事 理論編(1)「物語」と「小説」の違い(2)国語教育における物語論の導入:太田直樹
国立国会図書館レファレンス共同データベース 物語とは?中1女子より:愛知県蒲群市図書館
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