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「黒影紳士」season2-5幕〜花鳥風月〜鳥の段〜 🎩第五章 推理小説

――第五章 推理小説――

 山中 櫻の絶望と共に暗闇が夕暮れの赤を呑み込んで行く。
 今日と言う長く短い時を刻んだ時計の音と共に。
 遠くからバイクの音が聞こえる。
「良いわ!そんなに私のシナリオが気に入らないなら、全部消してやる!そして何度でも書き直せば良い。そう思うでしょう?」
 バイクの音を聞いてにやりと笑い、山中 櫻は狂気に満ちた歓喜にも似た表情で言った。
「……消せないよ……。一度犯してしまった罪は……。僕を刺したのは、依頼人の高頭 弘さんだね。櫻さんは博迪 伸晃を高頭 弘の為に殺したと、高頭 弘さんに思い込ませた。博迪 伸晃の新しい恋人は君……山中 櫻、貴方だ。そして、僕に此処迄真実を暴かれてしまったと感じた君は、あの日高頭 弘さんに相談した。君を未だ親友だと信じた高頭 弘さんはきっと僕に依頼した事を後悔しただろう。……そして君を今度は守る為、今……正に僕を殺しにやってくる」
 黒影は此れから起こる事を話す。
「そうよ!逃げ惑いなさいよっ!ほら……死神がやってくるわ!」
 そう興奮して言うと、山中 櫻は狂った様に笑う。
「……言いましたよね。事件を解決せずに僕は死ねない。例え其の最後の章に死神が現れたとしても」
 黒影がそう言った瞬間、図書室の硝子に向かって一台のバイクが突っ込んで来るのが見えた。
 サダノブは咄嗟に黒影を窓の反対側に突き飛ばす。
 月に照らされサダノブの瞳はまたあのギラギラした金色に成って見える。 まるで月に噛み付く狼の様に。
 突き飛ばした其の先には白雪がいて黒影を受け止める。
 黒影は背中の苦痛に顔を少し歪めたものの、何とか無事だ。
「サダノブ、避けろ!」
 もうバイクが突っ込んで来るという瞬間、黒影は叫んだ。サダノブは避けない気だ……。
 次に黒影の目に飛び込んで来たのは、何故か缶珈琲だった。
「……えっ?」
 思わず黒影も状況を理解出来ずに、そう口から気付けば出ていた。
 バイクが空中で止まっている。
「……嘘……だろ?」
 其の光景をもっと間近で避けずに見ていたサダノブが言った。
 黒影は窓へ近付き乍ら、気が付いた。
「風柳さんっ!」
 何と風柳がバイクを高頭 弘ごと持ち上げ、地面に投げたのだ。
「何処迄馬鹿力なのー?!」
 流石に此れには白雪もそう言う。
「何でよ!こんな推理小説あってたまるもんですか!私の……私のシナリオがぁー!」
 山中 櫻は頭を抱えて驚愕し半狂乱に叫ぶ。
「現実は小説より奇なり……ですね」
 黒影は山中 櫻に笑って言った。
「貴方に大切な事を言います。影は影だけでは生きられません。影は光がなければ、其の存在すら示す事が出来ないのです。貴方に足りなかったのは、光です。あの月の様な……。此れから罪を償う長い時間が貴方には課せられるでしょう。其の長い時間で、其の意味が分かる日が来たら、また推理小説でも書いて下さい。謎解きが出来る日を楽しみにしています」
 と、付け加えると手を貸して立ち上がらせる。
「私……弘ちゃんに謝らなきゃ……。良いですか?」
 山中 櫻は黒影に聞いた。
「はい、そのくらいは」
 と、黒影は言う。
 倒れたバイクの横に座る高頭 弘の元に、山中 櫻は走って行った。
「……私、如何しよう。本当は……本当は……巻き込んで御免なさい。博迪さんだって、全部……全部……御免ね、御免ね!」
 山中 櫻は高頭 弘の手をぎゅっと握って、何度も泣き乍ら謝る。
「……知ってたよ。本当の事……。私だって諦めが悪かったから。もう心は無いって分かっていたのに……情けないよね。ちゃんと諦められたら、こんな事にはならなかったのに。……だから巻き込んだとか思わないで。私は私のケジメを付けたかったんだと思うから。……私こそ、御免……」

―――― 
五年越しの仲直り……色んなものを失ったけど、消えていた頁には辛い真実が残った。けれど、此れでやっと新しい頁が開ける。罪と友情から始まる頁を何と書こうか……
――――――
 その日二人は警察に自首した。

――――――
 あれから数日後、高頭 弘から手紙が届いた。
 黒影への謝罪と今回の件の感謝が綴られている。
 手紙を読み、小さく微笑むと黒影は庭のハーブの前のベンチにのんびり座って寛いだ。
 サダノブが何か本を読み乍ら黒影の前を見向きも無く通過する。珍しいものが通ったと、黒影は思い乍らサダノブに、
「おい、そんな夢中で何を読んでいるんだ?」
 と、聞いた。
「あっ、此れですか?医学の本ですよ」
 と、サダノブは答える。黒影は更に驚いて、
「サダノブ、医者にでも成るのか?」
 と、聞く。サダノブは笑い乍ら、
「違いますよ。先輩の腕をもらう時に、麻酔でも掛けて上げないとなって、背中刺されて痛そうだったから考えたんですよ」
 と、言う。黒影は青褪め、
「おい、とっくに諦めたんじゃなかったのか?其れに麻酔すりゃあ良いってもんじゃない!そんな本、没収だっ!」
 と、サダノブの本を取り上げて逃げて行く。
 サダノブは今日も結局、黒影の後をひょいひょい付け回しては笑っている。
「もう、読書ぐらい静かに出来ないのかしらん……」
 白雪はそう言って二人に呆れ乍ら、微笑み静かに本を閉じた。

 ――黒影紳士season2-5 「追憶の図書館」花鳥風月ー鳥の段ー取り敢えず完――

でも未だ未だ続いちゃいます。
何時も章titleに何かを統一させていたのです。
このseason2-5だけ、あれ?って思いませんでしたか?
あるんですよ、統一感。
サブタイトル「追憶の図書館」に準え、全て図書館にあるジャンル表記でした^ ^
推理小説だけって言うのはなかなか有りませんね。
あったら良いな〜その本棚。を、最後にやっぱりこれだと叶えてみました。


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読書感想文

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。