同人誌は江戸時代にも存在した?!

同人誌…
所謂"二次創作本"である。
元々存在している漫画や小説のキャラや世界観を自分の独自解釈を元に好き勝手、思い通りに描く…つまりファン本と言っていい自主制作本です。(※一時創作本もあるが、今回は割愛)
大体はベストセラーになった漫画や小説、アニメなどの二次創作もあります。こういうベストセラー漫画や小説は売れると同時に多くのフォロワーも獲得して二次創作なども盛り上がります。

では、江戸時代のベストセラーといえば?
それは"十返舎一九"の"東海道中膝栗毛"です。
弥次さんと喜多さんの東海道中紀行ということで有名な、今でいうコメディ作品です。まずは十返舎一九のプロフィールと、東海道中膝栗毛がヒットした理由を解説しましょう。


【十返舎一九、30歳からの挑戦】
十返舎一九…本名は重田貞一です。
彼は武士の子でしたが、奉公が長続きせずに30歳になるまで根無草でした。今でいうフリーターです。
しかしこの間に浄瑠璃などを学び、自ら上演を行うなど、浄瑠璃作者になっていました。所謂、修行期間というやつです。

30歳の時に江戸に移り、今で言えば秋元康みたいな芸能プロデューサーとして名が売れていた蔦屋重三郎と出会います。
蔦屋重三郎は葛飾北斎や喜多川歌麿らと手を組み江戸時代の美術史等を大きく変えた革命児です。
彼に気に入られた一九はまず蔦屋の下働きから始まります。文才の他に絵心も多少あった彼は、挿絵や用紙の加工などを手伝う傍ら自らも黄表紙(エロ本)や洒落本を自作出版してもらいます。

そうして1802年に誕生したのが「東海道中膝栗毛」でした。
この作品により一九は人気作家に仲間入りを果たします。十返舎一九、38歳の時でした。


【東海道中膝栗毛のヒットの理由】
まず頭に入れていて欲しいことは大きく2つです。

①日本の識字率は80%(1800年代前半)
→どの地域でも大抵の人は読み書きは出来た。
②浮世絵や洒落本など、庶民のための娯楽が生まれていた。
→とはいえ舞台のほとんどが江戸の町であり、江戸限定の内輪受け的内容が多かったことです。つまり、江戸だけで売れるが地方ではサッパリというのが常でした。

十返舎一九はここに目をつけます。
庶民が東海道を旅しながら物語が展開する設定とすることで、江戸の人だけではなく、旅道中で登場する人達(地方の人々)も楽しめるような工夫を凝らしたのです。

東海道中膝栗毛は全編がまとめて出版されたわけではなく、旅の途中のエピソードを追加しながら毎年1冊、2冊と続きが出版されていきました。
十返舎一九もここまでヒットするとは思っていなく、作家あるあるですが、序文に
「もうネタがないのに、本屋が止めさせてくれない」
と愚痴をこぼしていたりしています。
結局、十返舎一九が途中で亡くなって未完にはなりましたが、最終的には全43巻まで続きました。


【同人誌は江戸時代から存在した?!】
江戸のみならず地方でも売れたことで江戸時代最高のベストセラーとなった東海道中膝栗毛。

男二人旅道中、何も起こらないはずが無く…

とまぁ、色街へ男二人が繰り出していったりなどの描写も勿論あります。
そもそも本編の弥次・喜多は男色の間柄だし、読んでたら道中の8割くらいは女のケツを追っかけてます。夜這い仕掛けて大抵失敗します。
旅籠屋の一室で小さい屏風一枚を挟んで二人が楽しむ場面とかもありますが、詳細な描写は省かれたりしています。さぁ!今からそのシーンだ!と期待をもってページをめくると翌朝~という描写になってたり、当時読んでた男性読者は悶々したことでしょう。

これは江戸幕府から規制がされており、そういう詳しい描写が書けなかったためでしょう。
黄表紙(エロ本)なども勿論ありましたが非常にアングラな商品であり、オーダーメイドで作られたのが多く、商品として世にそんなに出ていません。その代わり一冊が今で言ったら数万円とかかなり高額になってたりもしたらしいです。なので、イヤイヤでも書けばそれなりの生活は出来ました。歌川広重や喜多川歌麿なども春画を生活のために描いてたりしてます。葛飾北斎も偽名を100個以上使い分けて描いてたりしてます。

そういうわけで、東海道中膝栗毛でも、あの時のエロシーンが見たい!とか、主人公を女性にしてしまえば更に良くなるだろ!とか妄想を膨らませたフォロワーは居たわけで…今でいう"二次創作の同人誌"ですね。

全く別の作者による膝栗毛の続編が出回ったり、「浮世閨中膝擦毛(うきよけいちゅうひざすりげ)」というタイトルをもじって、とにかくエロに振り切ったパロディ作品が出たり、「道中女膝栗毛」という弥次さん喜多さんを女性にしたパロディも生まれています。一番有名なのは明治時代に作られた仮名垣魯文の「西洋道中膝栗毛」で、弥次さん喜多さんの孫が中国からインド周りでイギリスまで行く話になっています。
これらは「膝栗毛物」という一つのジャンルとなりました。

こうやって歴史の勉強をしていると、人間何百年経とうが根底は変わらんなぁというのを感じてなりませんw

#日本史がすき #江戸時代 #文学 #十返舎一九 #東海道中膝栗毛

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