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【短編】旅の言葉の物語

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旅の途中に出会った言葉たちの物語。 ▼有料版のお話のみを20話読めるのがこちらのマガジンです。 https://note.com/ouma/m/m018363313cf4 こ… もっと読む
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2022年9月の記事一覧

「性格を変えたいって思ってるのは、ただ思い込みを捨てたいだけかもよ?」の話

「性格、って変えられると思いますか?」 「性格? 変えたいの?」 「そうですね。変えられるなら変えたいなっていつも思ってるかも」 「どんなふうに?」  老人は立ち上がってポットから紅茶を注ぐ。紅茶の香りが室内の空気に混ざって、部屋があったかくなるような気がした。 「えっと、いい人になりたいですね」 「あはは、それは変わらなさそうだな」  どうしてそう思うのかと問いかける私に、老人は紅茶のカップを渡す。 「いい人ってどんな人のことかな?」 「うーんと、なんか優しい人ですかね。優

「同じことで悩んでしまうのは、きっとちゃんとやりたいことだからだよ」の話

「好きなことをやるのが一番だとか、努力より夢中が大事とか、そういう話はよく聞くんですけど、自分の好きなことが本当に好きなことなのか、分からなくなってしまうことがあるんです」 「ほう」  老人はうなずきながら、私のカップに紅茶を注ぎ足し、クッキーを一緒に食べるように促した。フォークと四つ葉の模様のクッキーは、老人の友人が持ってきてくれた手作りのものらしい。 「だって、好きって、とても変わりやすいものじゃないですか? 物語を書くのが好きな人だって、何も思いつかない時期は辛い気持ち

「彼女が変わったのは夢を叶えるために必要な目標を立てたからだと思うよ」の話

 友達の手作りだと言って老人が持ってきてくれたクッキーは、王冠の形が華やかにアイシングされていた。 「すごいなぁ。きれいですね」 「私もそう思う。だけど彼女は、本当に叶えたい夢を叶えるために、ずいぶん時間をかけてしまったかもしれない」 「どういうことですか?」 「彼女はね、自分のお店を持ちたかったんだ、ずっとね」 「ああ、いいですね。こんなにきれいに作れたら、買う人も多い気がします」 「だけど、長い間、その夢は叶わなかった。十年、もっとかな。小さくても自分のお店だと言えるもの