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「夜の案内者」死のない町12

 時計塔の近くまで来たアサは、近くにいる鳥たちに話しかける。
「あの、すみません」
興奮した鳥の中には、爪を立てて襲い掛かってくる者もいて、なかなか話ができない。時計塔に書いた名前の一部は消され、列車から運んだ食事を奪い合っている鳥もいる。
「この町はもう、破壊されてしまった」
 アサの近くに飛び降りてきたのは、群れの中心にいた鳥だった。
「わたしが来たせいで、こんなことになってしまってごめんなさい。でも、まだ破壊されてない。新しい秩序がつくれるように、話し合いませんか」
「話し合いができるような雰囲気に見えるか? この状況で」
「落ち着いた人がいれば、ちゃんと収まる。一緒に声をかけてくれませんか。本当は誰も、こんなことしたくないはず」
 アサは時計塔の壁の近くにいる鳥に話しかけた。
「この町をどうしたいか、一度みんなで話し合いませんか」
 鳥は怯えた表情を見せてすぐに飛び去ってしまう。アサは食事を漁っている鳥に向き直るが、アサと目が合った鳥は、パンのかけらをくわえたまま逃げていった。
アサは時計塔を背に岩場に向き直り、鳥たち一人一人に向かって大きな声で話しかける。
「これからどういう町にしたいのか、みんなで話しませんかっ」
「自分の町でもないくせに偉そうに」
 時計塔にとまっていた鳥がアサに向かって糞を落としながら飛ぶ。鳥の糞はネズミの帽子のへりに落ち、白いシミを増やした。
 争っている鳥たちの間に入り、アサは声をかけつづける。その姿を岩場の穴から数人の鳥たちが見ていた。鳥たちは軽く視線を合わせた後に一斉に下りてきて、アサを囲い込む。四方からくちばしでつつかれ、アサの腕には血の線が走った。アサはしゃがみながら両手で顔を覆い、鳥たちに声をかけるが誰も話を聞こうとしない。服が破れ、背中にも血が滲む。その時、黒い影が鳥の輪を割って入ってきた。ネズミだ。
「みんな、落ち着けっ」
 ネズミと一緒に現れたのは、時計塔の鐘を鳴らしたいと言っていた鳥たちだった。
「彼らが教えに来てくれたんですよ、あなたが大変そうだって」
 アサのそばに来たネズミが言う。
 その時、空に鐘の音が鳴った。
「これ、時計塔の?」
「なんだこれ」
「えっ、直ったの」
「・・・きれい」
 鳥たちは初めて聞く鐘の音に動きを止める。時計塔の周りを飛んでいた鳥が下りてくる。
「時計塔の鐘じゃないみたいだ。鐘は動いてない」
 立ち上がったアサにネズミが声をかける。
「つるの準備はできました。車両を切り離してあることも、彼らには伝えています。列車に戻りましょう、出発です」
「でも、このまま行っていいのかな。町は混乱したままだし」
 鳥たちは空を見上げ、目をつぶり、羽を広げながら鐘の音に聞き入っている。
「遠くまで飛び立った鳥たちに帰り道を知らせるって本当だったんだなぁ」
「空全部が鳴ってるみたい」
「新しい朝が来たんだ」
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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。

▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1

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