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「夜の案内者」死のない町3

 この町は集団として生きているのだ。だから集団の規律を乱すものは排除され、いないと同然の扱いになる。死んだ鳥も同じ。死期を悟った者は自ら砂漠に飛び去る。残った鳥たちは、「もともとその鳥はいなかった」ことにして、規律ある生活をつづけるのだ。
「むかしね、すごくとおくまでとべたの。でもね、イマはこのイワのうえしかトべなくなっちゃた」
「そうなんだ」
「そ、あのカネをならしてね、とおくまでいったトリたちのめじるしにしてたの」
「時計塔の鐘の音のことかな?」
「うん。あれがきこえればね、カエリみちがちゃんとわかるの」
「そう。昔ってことは、今は鳴らないの?」
「とまっちゃった、トケイ。だからナらない」
 まだ幼い鳥は自由に飛びたい、外の世界を見たいと言う。
「フタリとも、そとからきたんでしょ。いきたい、つれてってほしい」
「連れてってあげたいけどなぁ」
 アサは乗車券がないと列車に乗れないことを話す。
「れっしゃってなあに」
「あそこに見えるでしょ。町と町を繋ぐ車ね」
「どれー」
 鳥は背伸びをしてアサが言う方向を見る。そこにある今まで見たことがない物体の姿に、幼い鳥は興奮しながら騒ぎ出す。
「のりたいー、いろんなセカイ、みたいー、つれてってー」
 鳥は自分の頭をアサの腕にすりつけながら言う。高い鳴き声を上げ、両羽をばたつかせて騒ぐ。
「いつ、でかけられるのー」
 鐘が鳴らないと列車は出発しないよ、と答えるアサ。
「あのカネ、ちかづいちゃダメってきいた」
「町の鐘じゃないよ。別の鐘の音。空がね、震えるみたいに響いて鳴るの」
「アレじゃないの」
「そう。あれじゃなくてね、空全部に響くの」
 音を聞きたいと飛び跳ねながら騒ぐ鳥を見て、アサはネズミに目をやる。ネズミは首を振り、乗車券は一人用なので、誰かを乗せるのは難しいです、と小声で返した。
「カネがなったら、でかけられる?」
「そうかもねー」
 しばらく食事をつづけた後、アサが乗車券を返すように頼むと、鳥は木の上に舞い上がって乗車券をくわえて戻り、素直にアサに渡した。
「ありがとう。ああ、そうだ。名前つけてあげようか」
「ナマエ?」
「そう、あなたの。自分でつけてもいいと思うけど、よければ」
「くれるのっ!?ほしいっ。つけてー!」
「うーん、そうだなぁ」
 アサはネズミになんか案があるか聞く。
「この子の名前ですね。ええと、ゴジゴジとかどうでしょう」
「ティルク、とかどう?」
 アサは鳥に向き直る。
「てぃるく」
「響きがいいかなーって思うんだけど、どうかな?」
「てぃるく!」
「今日からあなたはティルク!」
「ぼくのナマエ!」
 ティルクは立ち止まったまま両羽をばたつかせて風を起こす。それから名前を叫びながら空を飛びまわった。時計塔の周り、岩場の近くを飛びながら、自分の名前を大声で叫んでいる。

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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。

▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1

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