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「夜の案内者」死のない町5

 アサがティルクをよく見ようと岩場の端に寄ると、鳥たちが全員穴から顔を出して、ティルクの動きを追っているのが見えた。一人の鳥が飛び出したのをきっかけに、鳥が三角形の編隊を組んで空に飛び上がる。ティルクが時計塔に近寄ろうとすると、それを阻止するように飛び、全員でティルクを町の外に追い出そうとしているようだ。時計塔に近寄ろうとするティルクは諦め、岩場の上に戻ってくる。そして大きな声で泣き始めた。
「わあーあーあああー」
「どうしたの」
 アサはティルクの頭をなでる。
「規則を破りすぎたせいで、鳥たちの仲間に戻れないんでしょうか」
 泣き続けるティルクを慰めるために、アサとネズミはティルクを列車に連れていくことにした。荷物をまとめて岩場を降りると、近づいてきた長い列車の姿に、ティルクは泣くのをやめて今度は騒ぎ始める。
「スゴイ!なんだアレ!スゴイ!」
「あれがわたしたちが乗ってきた列車」
「とーくまでいける?」
「行けるよー。乗ってみようか?」
 砂の丘を登り、列車に戻ると、扉は開いたままで車掌もいない。列車の中に入ったティルクは入り口と反対側の窓から見える海を見て声を上げた。
「なにアレー!」
 アサはティルクの後ろから声をかける。
「あれね、うみっていうの。ぜんぶ水なんだよ」
「みず!」
「水って分かる?液体、うーんと、泣いたときに目から出るのとおんなじ」
「なみだ!」
「そう、涙」
 ティルクは尾を振り子みたいに小刻みに振り、顔をもっと近づけようとして、窓にくちばしをぶつけた。
「いっぱい、かなしかったんだね」
「悲しかった?」
「ダレか、ナいちゃったんでしょ。こんなにたくさん」
 ティルクの目から涙が零れ落ちる。絵の具を溶かしたような鮮やかすぎる青水色。海の色と同じだ。
「・・・どうしたの?」
 アサが聞くと、ティルクは涙声で話し始める。

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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
物語のつづきはエブリスタで先に見られます。

▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1

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