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トウモロコシはどこからやって来た?

昨晩、私の元へ1つの記事がシェアされてきた。

リンクを開くと、まず目に飛び込むのは「トウモロコシは宇宙からやってきた植物」という記述である。

はい?なんで?思わず不意を突かれてしまった。

しかし、記事を読み進めてみると興味深いことが書いてある。

・トウモロコシには明確な祖先種となる野生植物が無い。
・自然に種を落とさず、自力で子孫を残すことができない。

これは確かにおかしい。
記事にもある通り、イネや小麦には野生種が存在する。

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/cropgenome/ine/naritachi.html
より引用

これは、栽培イネと野生のイネを比べた写真である。イネは野生種と栽培種がとても良く似ている。栽培種の祖先が野生種であることに、ほとんど疑念の余地はない。

しかし、トウモロコシの祖先として有力視されている「テオシント」はトウモロコシと全然似ていない。

筑波実験植物園:http://www.tbg.kahaku.go.jp/event/topics/2009/10zea_mays/
より引用、テオシントの図。

トウモロコシとテオシントは、正直全然似ていない。
えっ、似てないよね....?

「自然に種を落とさず、自力で子孫を残すことができない。」という特徴も相当おかしい。ヒトの手を借りないと存続できない植物は、いったいどこから生まれたというのだろう?

現在、トウモロコシは世界で最も重要な作物の一つである。

小麦と米に続いて、世界3大穀物と呼び声の高いトウモロコシは、世界中で栽培されている。なんと、世界のカロリー摂取量の1/5はトウモロコシによると言われているのだ!

それだけ多くの場所で愛され、食されているトウモロコシは本当に宇宙から来たのだろうか?この記事を読めば、最新の科学で判明しているところまで、一気にジャンプできることだろう。

さぁ、さっそくトウモロコシの謎に迫ろう。

■トウモロコシとテオシントの違いは、わずか5つの遺伝子にすぎない。

人間のゲノムに含まれる遺伝子の数は、20,000個あると言われている。
生物学の研究でよく用いられるハエの遺伝子は14,700個。
大腸菌は4,400個の遺伝子を持つと言われている。

しかし、トウモロコシは44,000個ほどの遺伝子を持っていると言われている。まさかと思うかもしれないが、ヒトの遺伝子は思ったより少ない。

2000年台にヒトゲノムを解析した研究者たちも私たちと同じく、大いに驚いたが、その後の研究で、ヒトは1つの遺伝子から複数の機能の異なるタンパク質を作れることが判明し、より効率的に遺伝子を利用していることが知られていく。

おや、話がズレてしまった。

トウモロコシは、44,000個もの遺伝子を持っているのである。

そして、トウモロコシの先祖とされるテオシントとの遺伝子の差はわずか5個であることが判明している。

1930年台には、現代の遺伝子工学では当たり前に使われる、遺伝子の増幅法”PCR”もなく、自由自在に遺伝子編集を行うツールもなかった。というか、”遺伝子工学”という言葉すらなかった。

しかし、科学者ジョージ・ビードルは300エーカー、つまり1,213,800㎡もの広大な土地を用意して、150万トンもの土を運び込んで植物園を作った。そこでトウモロコシを育て、大量の雑種、その子孫を研究した。染色体を地道に顕微鏡で観察し、5万個体を二世代にわたって観察した、まさに狂気の沙汰である。

1990年台には最新の遺伝子工学を用いて、ジョージ・ビードルの出した、トウモロコシとテオシントとの違いはごく僅かであるということが、さらに正確に同定される。2つの植物の違いは「たった5つの遺伝子」に過ぎないとことが判明したのだ。

5つの遺伝子のうち、いくつかの遺伝子の機能が判明している。

1つは、テオシントのように、穂がイネのように分かれた分枝タイプとなるか、トウモロコシのように1本の大きな形となるかを決める遺伝子。

1つは、トウモロコシのように大量の実をつけられるようタンパク質の量を変化させる遺伝子。

1つは、テオシントのような硬い殻を作るかどうかを決める遺伝子。

ごく僅かな遺伝子が、テオシントとトウモロコシの違いを隔てているというのが、現在の定説である。

遺伝子に僅かな違いしかないので、テオシントとトウモロコシは雑種を作ることができる。

https://dailyportalz.jp/kiji/111021149096 より引用

左がテオシント、右がトウモロコシ、中央が雑種である。

野生に存在したテオシントは強い。硬い殻をもち、自分で種を落とし増えることができる。鳥に食べられても殻は消化されず、フンから落ちた種がそこで芽生える。

しかし、テオシントの殻をコードするのは僅かな遺伝子にすぎない。変異した結果、殻の柔らかいテオシントが生まれ、人間に好んで育てられたという話は納得に値する。そう、トウモロコシの発展には、人間の存在が欠かせないのである。

では、人間とトウモロコシの歴史を見ていこう。

■トウモロコシの1万年の歴史

約1万年前のメキシコではすでに、人々はテオシントを集め、消費していたことが判明している。テオシントは殻が硬く、現代の考えでは食べるのに適した食材とは思えないが、熱を通すことでポップコーンを作ることができる。

実際のところ、ポップコーンにして食べていたかどうかは定かではないが、それでもテオシントの強力な繁殖能力は、農業の知識が蓄積されていない古代文明において大きなアドバンテージだったと考えられる。

そして、5300年前には、既にテオシントよりもトウモロコシに近い種ができていたことが判明している。

http://www.sci-news.com/archaeology/ancient-dna-insights-maize-domestication-04390.html より引用

1960年台には5000年前のトウモロコシの先祖の化石「Tehuacan162」がメキシコで発掘され、分析されたのである。

Tehuacan162は8列しか実をつけることができまないが、それでもテオシントよりもトウモロコシに似ていることが、画像からも分かる。

テオシントとトウモロコシの遺伝子の違いは5個だった。この時点で3つ以上はトウモロコシ寄りになっていたのではないだろうか。

人間がより食べやすく、繁殖させやすいものが選択され、その子孫の中で、さらに良いものが繁殖する。その後5000年の歴史は、Tehucan162をさらにトウモロコシらしく変化させていった。

計算してみてほしい。

トウモロコシの遺伝子は40000個以上。

数千年で、そのうちの僅か2~3個の遺伝子変化を起こしたものが選択され、繁殖した。それは、決して考えられない出来事ではない。

「自然に種を落とさず、
自力で子孫を残すことができない。」

これにも納得だ。1万年もの長きにわたって、ヒトの手で育てられたトウモロコシが、自力で子孫を残す必要など、どこにあっただろうか。それよりも、おいしい実をたくさん作ったトウモロコシの方が、生存できたのだ。種を落とすのなんて、人間にやらせればいいじゃないか。

■遺伝子についての誤解

遺伝子の変化は、ゆっくり起こるもの。
急激に変化することはなく、長い年月でじっくりと変わっていくもの。

それは誤解に過ぎない。

僅かな遺伝子の変化急激な進化の引き金になる。

これが真実だ。

例えば、色素をあまり持っていない「アルビノ」は、メラニンを生合成するチロシナーゼをコードする遺伝子が変異を起こしたもの。アルビノは、たった一つの遺伝子変化で大きな外見変化を引き起こす。

テクノロジーでも同じような現象が起こる。

インターネットやSNSを思い浮かべてほしい。これらの技術は大きく人々の生活を変えてしまった。瞬時に遠く離れた人とコミュニケーションできるシステムは、100年前のヒトには想像を絶する世界だ。人間の存在そのものを変える技術点には、”シンギュラリティ”という特別な言葉があるほどである。

変化は、劇的なのだ。

たった1つの、たった数個の変化が
大きな変化を引き起こす

・・・

トウモロコシから吸収できるのは、
栄養だけではないかもしれない。

🐱‍🏍Twitter : https://twitter.com/hagakun_yakuzai

引用

Ramos-Madrigal, Jazmín, et al. "Genome sequence of a 5,310-year-old maize cob provides insights into the early stages of maize domestication." Current Biology 26.23 (2016): 3195-3201.

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